初版発行日 2014年4月20日
発行出版社 実業之日本社
スタイル 短編集
私の評価
鶴見線、身延線、ブルトレ……十津川警部、東海道を駆ける!
あらすじ
1.運河の見える駅で
東京湾岸の運河に面した無人駅で、デートを楽しむ若いカップル。だが、数日後、ここを訪れた女性が絞殺死体で発見される。彼女には殺されるような事情はなく、十津川班の亀井警部は、別の事件との関連に目をつける……。
2.死を呼ぶ身延線
私立探偵・橋本豊の父・晋作が、身延山久遠寺へお参りに行く途中、富士川で死体となって発見された。山梨県警は事故死と断定したが、橋本豊は父の死に疑念を抱く。一方、十津川警部は、資産家の妻・安西ひろ子が殺害された事件を捜査していた。この女性は、橋本豊に、夫の素行調査を依頼していた女性だったことがわかる。橋本晋作と安西ひろ子の死は、つながっているのか?
3.殺人は食堂車で
人気俳優の田原伸一郎は、3日間の休暇をとり、別府へ旅行するため、マネージャーの矢木透をつれて寝台特急「富士」に乗ったが、食堂車で飲んだコーヒーに毒をもられて死亡する。容疑者は矢木透、食堂車で話しかけてきた女性二人組、そしてウエイトレス。誰が犯人か?十津川警部は、コーヒーにしかけられたトリックに挑む。
4.長良川殺人事件
長良川にかかる長良橋の袂で男女の死体が発見された。東京にある法律事務所で働く弁護士見習いと事務員だという。男女の心中事件として処理されたが、東京・阿佐ヶ谷のマンションで同じ法律事務所で働く弁護士が、クラブのホステスと服毒死する事件が発生する。捜査に乗り出した十津川警部は、この2つの事件の裏に、法律事務所と建設会社、役所がからんだ不正事件があることを掴む。
5.十七年の空白
十津川警部が大学時代に恋した女性・広田まゆみが、十津川のもとを訪れる。まゆみの夫で十津川の同級生・広田修が十三と桜宮のラブホテルで風俗嬢が殺害された事件の殺人容疑で大阪府警に逮捕された。個人的に捜査に乗り出した十津川は大阪へ向かった後、東京・鶯谷で大阪とまったく同じ事件が発生する。広田修が勾留中に起こった事件だったため、別の真犯人がいるとみて、広田修は釈放される。十津川は釈放された広田修と広田まゆみに会いに行くが、そこで”十七年の空白”を感じるのであった……。
小説に登場した舞台
1.運河の見える駅で
- 鶴見駅(神奈川県横浜市鶴見区)
- 海芝浦駅(神奈川県横浜市鶴見区)
- 京浜運河(神奈川県横浜市鶴見区)
2.死を呼ぶ身延線
- 東京駅(東京都千代田区)
- 身延駅(山梨県・身延町)
- 井手駅(山梨県・南部町)
- 身延山久遠寺(山梨県・身延町)
- 下部温泉(山梨県・身延町)
3.殺人は食堂車で
- 寝台特急「富士」
- 熱海駅(静岡県熱海市)
- 大阪駅(大阪府大阪市北区)
4.長良川殺人事件
- 長良橋(岐阜県岐阜市)
5.十七年の空白
- 新大阪駅(大阪府大阪市淀川区)
- 十三(大阪府大阪市淀川区)
- 鶯谷(東京都台東区)
- 天神橋筋六丁目(大阪府大阪市北区)
登場人物
1.運河の見える駅で
- 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田代:
都内在住のサラリーマン。 - 香取めぐみ:
田代の恋人。何者かに絞殺される。 - 木戸要:
23歳。第三洋光丸の船員。タンカーから海に落ちて死体となって発見された。 - 仁村:
第三洋光丸の船員。 - 青山透:
35歳。第三洋光丸の船員。 - 井上直治:
26歳。第三洋光丸の船員。 - 井崎遼一郎:
第三洋光丸の船長。 - 山代:
コック。
2.死を呼ぶ身延線
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 橋本豊:
私立探偵。元警視庁捜査一課の刑事で、十津川警部の元部下。 - 田中:
山梨県警の巡査部長。 - 橋本晋作:
橋本豊の父親。身延山にお参りに行っていたが、井手近くの富士川で死体となって発見された。 - 橋本みどり:
橋本豊の妹。 - 安西ひろ子:
橋本豊に夫の素行調査を依頼した女性。死体となって発見された。 - 安西宏:
安西ひろ子の夫。資産家。 - 平田祐二:
銀座三丁目のクラブ「杏子」のマネージャー。中野の自宅マンションで死体となって発見された。 - 三田冴子:
安西ひろ子の妹。渋谷で小さな貴金属店を営む。 - 高梨覚:
ダンサー。安西ひろ子の不倫相手。 - 坂口:
数寄屋橋に事務所を構える弁護士。安西ひろ子の弁護を担当していた。 - 田島:
警視庁の鑑識技官。 - 三宅:
28歳。安西宏の運転手兼秘書。
3.殺人は食堂車で
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田原伸一郎:
40歳。人気俳優。別府へ向かう寝台特急「富士」の車内で、服毒死する。 - 矢木透:
田原伸一郎のマネージャー。 - 井上:
寝台特急「富士」の車掌長。 - 根本:
静岡県警の刑事。 - 三浦:
静岡県警の刑事課長。 - 三木浩:
田原伸一郎が所属していた三木プロダクションの社長。 - ケイ子:
29歳。六本木のクラブ「イヴ」のホステス。矢木透と親しくしていた。3ヶ月前、自殺していた。 - 君子:
六本木のクラブ「イヴ」のホステス。ケイ子を慕っていた。 - しず江:
六本木のクラブ「イヴ」のホステス。ケイ子を慕っていた。
4.長良川殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 山下純司:
長良川の鵜匠。喫茶店「鵜」のオーナー。 - 北原麻里:
22歳。新橋にある高木法律事務所に勤務。事務員。杉並区高井戸のマンションに在住。岐阜県美濃加茂市出身。長良橋近くの川面で死体となって発見された。 - 木村真二:
29歳。新橋にある高木法律事務所に勤務。弁護士の見習い。調布市のマンションに在住。北原麻里の恋人。長良橋近くの川面で死体となって発見された。 - 小林肇:
30歳。新橋にある高木法律事務所に勤務。弁護士。阿佐ヶ谷の自宅マンションでクラブのホステスと服毒死した。 - 楠美雪:
20歳。六本木のクラブのホステス。小林肇のマンションで服毒死した。 - 高木良三:
新橋にある高木法律事務所の所長。 - 田口清:
51歳。新橋にある高木法律事務所に勤務。弁護士。 - 広沢泉一:
48歳。新橋にある高木法律事務所に勤務。弁護士。 - 中西啓:
38歳。新橋にある高木法律事務所に勤務。弁護士。 - 北原誠:
北原麻里の弟。大学生。 - 土井:
岐阜県警の警部。 - 吉田:
岐阜県警の刑事。 - 浜田:
中野にある法律事務所の弁護士。 - 田島:
中央新聞会社部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。 - 佐伯竜一郎:
45歳。宝石商。楠美雪のパトロン。 - 仁科:
S大学の教授。住民の依頼でNK建設の造成地を調べた専門家。 - 秋元:
神奈川県庁の職員。NK建設の工事を許可した課長。 - 三宅:
NK建設の管理部長。
5.十七年の空白
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 広田まゆみ:
旧姓・曾根まゆみ。十津川警部が大学時代に、恋をしていた女性。 - 広田修:
広田まゆみの夫。十津川警部の大学時代の同級生。大阪にある中堅玩具メーカー「広田トーイ」の一人息子。十三と桜宮で起きた殺人容疑で逮捕される。 - 青木:
刑事事件専門の弁護士。広田修の弁護をしている。 - 木下由美:
26歳。風俗嬢。大阪十三のラブホテルで死体となって発見された。 - 西条ひろこ:
25歳。風俗嬢。桜宮のラブホテルで死体となって発見された。 - 川口:
大阪府警の警部。 - 河本里美:
28歳。風俗嬢。鶯谷のラブホテルで死体となって発見された。 - 守口:
K大学の教授。犯罪心理学の専門。 - 梨花:
天六の風俗嬢。
印象に残った名言、名表現
(1)愛と悲しみの京浜運河。
今日も、海芝浦でおりたのは、田代一人だった。
彼は、しばらくの間、運河を見つめていた。前と同じ光景なのに、別の景色のように見えた。陽は当っているのに、暗く、重い景色だった。
(2)旅の楽しみ。
旅の楽しみの一つに、食事がある。各地の名物料理を食べるためだけに、わざわざ、ローカル線に乗ってゆられて行く人もいるくらいである。
(3)十津川警部の深い思考。
今夜は、月も星も出ていない。漆黒の闇が、広がっている。
十津川は、煙草をくわえたまま、その夜の闇を、じっと、見すえた。
人間の心の深奥を見すえるようにである。
感想
本作は、小さなストーリーから大きなストーリーまでが入った、短編集である。
作品のタイトルが、「東海道殺人エクスプレス」なので、てっきり、静岡県や神奈川県の東海道沿いが舞台になった作品集だと思いきや、東海道エリアが舞台になった作品は含まれていなかった。強いていえば、特急「富士」や東海道新幹線に乗ったことくらいだろうか……。
タイトルとの互換性はさておき、この短編集の中でのイチオシは、「十七年の空白」である。
十七年ぶりに会った大学時代の同級生夫妻がからんだ殺人事件であるが、この十七年の重さについて、考えさせられる作品だった。
学生時代は、息ピッタリの親友だったのに、久しぶりに会ったら、違和感を感じてしまったという経験。誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。
人は変わる。
だから、致し方ないのだろうと思う。相手が変わっただけでなく、自分も変わったのだから、学生時代のようにはいかないものである。
十津川警部も、今回の事件を捜査するにあたり、十七年ぶりに会った友人に違和感を感じ、苦悩している。
広田は、変ってしまったのだろうか?まゆみもである。
卒業直後、二回ぐらいは、会っているが、十七年ぐらい会っていないことになる。その十七年の空白が、今、しきりに気になるのである。
今、十津川の胸を占めているのは、戸惑いだった。大学時代の広田とは、すっかり変ってしまったことへの戸惑いである。
この違和感が、事件の解決に結びついていくのである。
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