初版発行日 2007年7月25日
発行出版社 実業之日本社
スタイル 短編集
あらすじ
1.石勝高原の愛と殺意
「白い雪に、真っ赤な血……」それは何かの警告か?新婚の三田村刑事夫妻は、冬の北海道を満喫するつもりだった。だが、宿泊先の札幌やトマムのホテルに不吉なメッセージが届く。知らせを聞いた十津川警部には心当たりがあった。十津川が夫婦で行く予定の旅だったのだ。過去の事件の復讐なのか……
2.最北端の犯罪
3日間の休暇で稚内に旅行に来た西本刑事。旅の思い出のため、札幌開発銀行で千円だけ記帳する。帰京した西本の家に、2日連続で空き巣が入る。さらに、西本刑事の口座残高が3千万円担っていたことが判明。その原因は、「西本明」という同姓同名の口座があっため、銀行が振込先を間違えたことだった。同姓同名の「西本明」を調べたことで、意外な事件へと展開していく。
3.愛と孤独の宗谷本線
辻村康は、稚内へ向かっていた。トラック事故で、亡くなった娘の理佐のかたきを討つためだ。手に入れた拳銃で、かたきの小坂井貢を撃ち、自分も自殺するつもりである。しかし、稚内へ向かう列車の中で、謎の女性にバックを調べられたり、謎の男からの襲撃を受ける。辻村康は”無事に”目的を果たすことができるのか?
4.謎と幻想の根室本線
西本刑事の大学時代の友人・片山秀夫は、霧の悪夢にうなされていた。精神科の医師は、幼少期の体験が原因だという。片山秀夫は幼少期の体験を探るため、故郷である北海道の尾幌へ。しかし、片山秀夫は尾幌へ向かう列車から飛び降りて不審な死を遂げた。友人の西本刑事が北海道へ飛び、関係者へ話を聞いていくと、18年前の未解決事件が浮上する……
5.青函連絡船から消えた
横浜の傷害事件で逮捕された男が、「去年の10月5日に青函連絡船で、西本刑事が中年男を突き落としたのを見た。自分を刑事事件で起訴したら、マスコミにばらす」と取引を申し出てきた。西本刑事の無実を信じた十津川警部は捜査を開始する。捜査線に浮上した女を追跡し、十津川警部たちは青函連絡船に乗り込む!
小説に登場した舞台
1.石勝高原の愛と殺意
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 札幌市内(北海道札幌市)
- 特急「おおぞら5号」
- トマム(北海道・占冠村)
- ザ・タワーI・II(北海道・占冠村)
2.最北端の犯罪
- 稚内市街(北海道稚内市)
3.愛と孤独の宗谷本線
- JR札幌駅(北海道札幌市北区)
- 急行「宗谷1号」
- 名寄駅(北海道名寄市)
- 幌延駅(北海道・幌延町)
- 稚内駅(北海道稚内市)
- 稚内公園(北海道稚内市)
4.謎と幻想の根室本線
- 釧路駅(北海道釧路市)
- 釧路市街(北海道釧路市)
- 上尾幌駅(北海道・厚岸町)
- 尾幌駅(北海道・厚岸町)
5.青函連絡船から消えた
- 青森空港(青森県青森市)
- 青森駅(青森県青森市)
- 青函連絡船
- 函館市街(北海道函館市)
登場人物
1.石勝高原の愛と殺意
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。 - 三田村あやか:
三田村刑事の妻。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 小森祐:
3年前に殺された近田麻子の恋人。その後、十勝の麓で亡くなっているのが発見される。 - 小森みどり:
小森祐の妹。戸丸建設の社員。 - 大久保宏:
小森みどりの恋人。サラリーマン。 - 前田克彦:
戸丸建設の社長。 - 水沼:
ホテルアルファリゾートの人事担当。
2.最北端の犯罪
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 浜田:
千葉県警の警部。 - 南田豊:
35歳。前科が3つある。1年前に府中刑務所を出所した。 - 鈴木まゆみ:
30歳。新宿歌舞伎町のクラブ「くじゃく」のホステスをしていた。 - 春:
新宿歌舞伎町のクラブ「くじゃく」のホステス。 - 花村:
警視庁捜査四課の警部。 - 片山勇:
元S組の幹部。 - 鈴木明:
鈴木まゆみの弟。24歳。
3.愛と孤独の宗谷本線
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 辻村康:
50代。亡くなった娘の理佐のかたきを討つために、稚内へ向かう。 - 北川リサ:
。辻村康が宗谷1号で出会った謎の女性。25歳。 - 小坂井貢:
稚内で喫茶店を営む。辻村康の娘・理佐が死ぬ事故を起こしたトラックの運転手。 - 水野信一:
K組の組員。 - 林:
K組の組員。 - 浅岡:
K組の組長。
4.謎と幻想の根室本線
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山秀夫:
27歳。西本刑事の大学時代の友人。中堅の商事会社の管理部門勤務。北海道の尾幌の生まれ。 - 三浦:
釧路警察署。 - 早見:
片山秀夫の小学校時代の担任教師。 - 本多:
尾幌駅前の喫茶店「海霧」の店主。片山秀夫の小学校の同級生。 - 仁科かおり:
旧姓生田かおり 38歳。片山秀夫が小学校の時に憧れていた女性。 - 仁科宏:
仁科かおりの夫。別居中。 - 八木洋子:
旧姓村松洋子 仁科かおりの大学時代の同級生。 - 明石ゆみ子:
18年前の未解決刺殺事件の被害者。当時、釧路市内のホステスをしていた。 - 原田:
釧路市内の本屋の店主。元刑事。
5.青函連絡船から消えた
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 黒川哲:
27歳。横浜で輸入雑貨店を営んでいる。横浜市内の傷害事件で逮捕された男。 - 沢田正也:
47歳。中野区内で製パン業を営む。去年の10月5日、青函連絡船で行方不明になる。 - 本田:
52歳。中野区内で製パン業を営む。沢田正也の同業者。 - 片岡:
片岡製パンの社長。40歳。 - 沢田昭子:
沢田正也の妻。 - 岡本:
沢田正也の製パン工場の専務。 - 中川まゆみ:
新宿歌舞伎町のクラブ「シクラメン」のホステス。 - 平松:
青森駅の駅長。 - 辻:
函館駅の駅長。
印象に残った名言、名表現
(1)雪国あるある。
アイスバーンのような足元のため、三田村も、あやかも、見事に、ひっくり返った。
転ぶのは、観光客だけなのだ。
(2)子どもが巣立ってしまった母の思い。
最近は年に一、二回しか郷里に帰っていないが、帰るとたいてい彼の子供の頃の話が、両親、特に母の口から出る。母にしてみれば、自分たちの手を離れて東京にいってしまった息子と、子供の時のことを話すことによって、そのきずなを取り戻そうとしているのかも知れない。
総評
本作は、北の大地・北海道を舞台にした作品の短編集であった。
おもしろいのは、それぞれのストーリーで十津川警部の部下に焦点が当っていることだ。
まず、『石勝高原の愛と殺意』は、札幌とトマムが舞台。三田村刑事が誘拐された事件である。次の『最北端の犯罪』は、稚内が舞台。西本刑事の旅行が発端になった。
3作目の『愛と孤独の宗谷本線』も稚内が舞台。ここでは北条早苗刑事が主役級の大活躍をする。4作目の『謎と幻想の根室本線』は、霧の街・釧路と尾幌が舞台。西本刑事の友人が殺されたことで、西本刑事が現地で捜査にあたる。
最後の『青函連絡船から消えた』は、今はなき青函連絡船と函館が舞台。西本刑事の”冤罪”がスタートになった。
十津川警部シリーズの絶対的な主人公は十津川警部であり、準主役が亀井刑事である。当然ながら、長編では十津川警部と亀井刑事がメインになる。部下たちがメインになることは少ない。
しかし、短編では、十部下にスポットが当たることが多い。ドラマで言えば、”スピンオフ”のような物語になっている。
短編集は、コーヒーを飲み、ケーキでも食べながら、リラックスして読むのがいい。
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