初版発行日 2001年4月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
懊悩する十津川警部。事件は夢二とともに眠る。ラストには、全ての人への永遠の問が待つ!
あらすじ
東京駅で射殺されたミス岡山の女子大生、楠ゆかり。彼女は半年前、竹久夢二が描いたと思われる幻のスケッチブックを発見、公表し、注目を集めたことがあった。この発見と事件にはどんな関係が?狂おしいまでに夢二を愛する人たちによって綾なされる複雑な人間模様。ラストには、全ての人への永遠の問が待つ。
小説の目次
- 東京駅
- 日本のエーゲ海
- 怪文書
- 逮捕令状
- 鑑定
- 偽善者
- 夢二残影
冒頭の文
その日、十津川は、友人を見送りに、東京駅に出かけた。
小説に登場した舞台
- 東京駅(東京都千代田区)
- 岡山駅(岡山県岡山市)
- 相生橋(岡山県岡山市)
- 夢二生家記念館・少年山荘(岡山県瀬戸内市)
- 牛窓(岡山県瀬戸内市)
- 邑久駅(岡山県瀬戸内市)
- 岡山後楽園(岡山県岡山市)
- 蓬莱橋(岡山県岡山市)
- 夢二郷土美術館(岡山県岡山市)
- 湯郷温泉(岡山県美作市)
- 鳥取駅(鳥取県鳥取市)
- 三朝温泉(鳥取県・三朝町)
- 皆生温泉(鳥取県米子市)
- 白兎海岸(鳥取県鳥取市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 阿部:
48歳。岡山県警の警部。 - 小田:
鳥取県警の警部。 - 田島:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。岡山市局長になって岡山に赴任した。
事件関係者
- 楠ゆかり:
20歳。岡山市内にある山陽大学の2年生。ミス岡山の一人。竹久夢二の研究をしていた。東京駅で何者かに射殺される。 - 楠正之:
56歳。楠ゆかりの父親。岡山市内に法律事務所をかまえる弁護士。 - 楠章子:
48歳。楠ゆかりの母親。専業主婦。アマチュアの画家。 - 楠みゆき:
25歳。楠ゆかりの姉。楠正之の事務所に勤務。 - 浅井充:
岡山駅近くにあるホテルKの社長。竹久夢二の収集家。 - 関口寛:
岡山城近くにあるフランス料理店「ラ・フランセ」のオーナー。竹久夢二の収集家。岡山城近くで死体となって発見された。 - 城之内浩:
37歳。牛窓にある喫茶店「真呑奈」の店主。牛窓再開発反対派のリーダー。去年の11月に娘がダンプカーに轢かれて亡くなった。 - 城之内さやか:
城之内浩の妻。元暴走族。 - 高野守:
25歳。工事現場の作業員。城之内浩の娘を轢いた。岡山の交通刑務所に服役中。 - 北村マキ:
28歳。月島の高層マンションに在住。竹久夢二の収集家。1年前まで赤坂のクラブ「AM1」のホステスをしていた。白兎海岸で死体となって発見された。
その他の登場人物
- 三崎:
40歳。岡山観光協会の課長。 - 小暮アキ:
20歳。山陽大学の2年生。ミス岡山の一人。 - 三浦みどり:
21歳。フリーター。ミス岡山の一人。 - 白井梨花:
20歳。フリーター。ミス岡山の一人。 - 関口則子:
関口寛の妻。 - 中島:
岡山タイムスのデスク。 - 山室大介:
26歳。城之内夫妻の秘書。 - 宮本雅子:
夢二郷土美術館の館長。 - 渡辺:
中央テレビのプロデューサー。 - 里見:
東京駅近くにあるK旅行社の営業所長。 - 佐藤:
湯郷温泉のタクシー運転手。
印象に残った名言、名表現
■人間本来の姿。
本来、人間というのは、夢二の絵の中の女のように、安らかに、だらしなく、生きていたいものなのではないのか。
猫でも抱いて、何かに身を委せて、うつらうつらしている。そんな姿は、女にとっても、男にとっても、至福の時ではないのか。
感想
本作は、竹久夢二のスケッチブックをめぐる騒動と、牛窓地区の再開発問題という2つのストーリーラインから、捜査が進められていく。
天才画家・竹久夢二についても、日本のエーゲ海とよばれる牛窓地区についても、詳しい描写があり、岡山にゆかりのある方ならば、十分楽しめる内容になっていると思う。
結末については、賛否両論あると思う。すべての謎が明らかになっていないからだ。余韻を残す終わり方として良いという見方もあれば、すべてを明らかにしてほしかったという見方もあるだろう。個人的には、この終わり方で良かったと思っている。
最後に、本作刊行にあたって発表された、西村京太郎先生のことばを紹介しておこう。
竹久夢二を知らない人は、まずいないだろう。あの、頼りなげで、繊細で、いかにも日本的な美人画は、一見したところ、真似し易いし、現に、夢二風の美人画を描く画家は多い。しかし、どうあがいても、夢二を越えられないのだ。
ここに、夢二に負けぬ才能に恵まれた画家がいて、夢二に心酔し過ぎたことが、彼の悲劇になり、殺人まで引き起こしてしまう。そんな小説を、夢二の故郷岡山を舞台にして書いたつもりである。
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