初版発行日 1995年11月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
十津川警部、手がかかり無き連続猟奇犯罪と対決!被害者の身元を探る手がかりは、ペディキュアとサクランボの茎だけだった。狡猾、異常な犯罪に十津川が挑む!
あらすじ
荒川の川原で中年女性とおもわれるバラバラ死体が発見された。被害者の身元を確認する手段は胃の中に残されたサクランボの茎だけで、捜査は難航する。数ヶ月前に起こった猟奇事件との共通性を認めた十津川警部は困難極まる状況の中、犯人とおもわれる人物を追跡する。異常な連続犯罪を防ぐことはできるのか?
小説の目次
- 東京の空
- 女の条件
- 犯人像
- 出動
- 三人目の女
- 逆転
冒頭の文
荒川は、墨田区と葛飾区を、分けるようにして、流れている。
小説に登場した舞台
- 山形駅(山形県山形市)
- 天童温泉(山形県天童市)
- 赤湯駅(山形県南陽市)
- 赤湯温泉(山形県南陽市)
- 大宮駅(埼玉県さいたま市大宮区)
- かみのやま温泉駅(山形県上山市)
- 上山温泉(山形県上山市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 広田:
神奈川県警の警部。 - 三浦:
山形県警の警部。 - 加藤:
大宮署の警部。 - 並木:
新宿署の刑事。 - 吉田:
警視庁捜査一課の警部。十津川の同期。
事件関係者
- 津田加奈子:
45歳。赤湯温泉のクラブを営んでいたが、店を売って東京に進出した。 - 黒田三郎:
42歳。S製薬の顧問。元外科医。 - 早見浩:
35歳。虎ノ門の外車ディーラー「S・R商会」に勤務。成城学園前駅近くのマンションに在住。 - 木島:
黒田三郎の中学時代の同級生。 - 堀川佐智子:
43歳。上山温泉にある旅館の女将。 - 菊江:
40歳。熱海の芸者。
その他の登場人物
- 白井幸之:
52歳。西新井にある自動車修理工場の社長。 - 沢井:
N大学医学部の法医学教授。 - 小山章子:
42歳。天童温泉・K旅館の女将。 - 由美:
天童温泉にあるクラブ「シャノアール」のママ。 - 岩木道代:
赤湯温泉の旅館の女将。 - 黒田敬太郎:
黒田三郎の兄。弁護士。元東京地検の検事。 - 黒田信二郎:
黒田三郎の兄。東京地検の検事。 - 春子:
上山温泉の芸者。 - 白石悠子:
45歳。上山温泉の芸者。
印象に残った名言、名表現
(1)サクランボ王国、山形。
六月の初め頃には、サクランボの実が一杯になっていて、この辺りは、赤く染まっていたのだろう。
(2)山形新幹線の車窓からの景色を見て、女に思いを馳せる十津川警部。
赤湯を出た津田加奈子は、列車の中で、この景色を、どんな気持で、見ていたのだろうかと、十津川は、思う。
この美しい自然を、貧しい景色と、見たのだろうか?
(3)女性の直感力。
神さまは、男に理性を与え、女には、それに匹敵する直感力を与えたという人がいる。もちろん、女性が理性的ではないというわけではないが、直感力についていえば、女性の方が、優れていることは、間違いないだろう。
感想
本作は、前半で浮上した容疑者を、少しずつ少しずつ追いつめていく、この”ゆったりとした緊張感”が楽しめる作品であった。
十津川警部は、浮上した容疑者と思われる人物に、はじめて会った時、疑いを強める。この容疑者について、まず、完璧な人物像をつくりあげるのが、十津川流である。
本文では、このように記載されていた。
家族のこと。両親は、何処に住んでいるのか。父親の職業は?兄弟はいるのか?
生年月日、血液型、性格、小学校からの成績。担任の評価。その頃のエピソード。
初恋はいつか。その時の相手、彼女に対する態度。
そして、その人物像に沿って、捜査を進めていくのだが、この容疑者について、こんな感想も残している。
犯人は、本当に、優しく、同時に、本当に残酷なのだ。
ターゲットは、東京に憧れている地方の中年の女性である。女性は、直感力が鋭い。見せかけの優しさでは、女は信用しない。だから、女性に対して本当に優しい男であると、十津川は推理する。
新たな事件が起き、挑発的な態度を続ける容疑者に対し、十津川は、犯人であることを確信する。そして、この犯人には、女性に対する激しい憎悪と、異常な性癖があると、断定するのだ。
あの男は、楽しんでいる。女を殺すことを楽しみ、警察に挑戦することを楽しんでいる。多分、女の死体を切断するこだって、楽しんでいる筈だ」
十津川警部が、最終的にどのように犯人を追いつめていき、どんな結末を迎えたのか?それは、本書を手にとって確かめてもらいたい。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
取材で山形へ行った時は、六月下旬で、丁度サクランボの収穫の最中だった。どこにも、サクランボが、あふれていた。サクランボが、終ると、ぶどう、りんごと、果実の季節が、続くのだという。その一方で、山形は、大部分を山岳部が占め、人々の多くは、東京という都会に憧れているという。自然の美しさと、そうした心理を交差させて、この作品を書きあげた。
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