初版発行日 2010年9月10日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編
私の評価
鉄道ジオラマ模型をめぐる異常な執着心!犯人を追いつめるために、十津川警部が仕掛けた3つの罠とは?
あらすじ
人気の模型作家・小島英輔が多摩川で刺殺された。傍らには三年連続でコンテスト優勝を狙う出品作「転車台のある風景」の燃やされた痕跡が。十津川警部は独自捜査を開始、ジオラマのモデルとなった転車台のある天竜二俣駅に飛んだ。そこでは、二ヶ月前、小島が密かに想いを寄せる女性が突然死していた。二つの事件に関連が?やがて不審な男の影が浮上するが、正体は掴めない。事件解決の鍵は燃やされたジオラマにあると考えた十津川は、犯人をあぶり出すため罠を仕掛けた……。
小説の目次
- コンテスト
- 天竜二俣駅
- 再製作
- インターネット
- また犠牲者が
- 犯人を追う
- 事件の終わり
冒頭の文
毎年四月十日から二日間の予定で、幕張メッセで、ジオラマのコンテストが、行われる。
小説に登場した舞台
- 多摩川駅(東京都大田区)
- 幕張メッセ(千葉県千葉市美浜区)
- 掛川駅(静岡県掛川市)
- 天竜浜名湖鉄道
- 天竜二俣駅(静岡県浜松市天竜区)
- 遠州病院駅(静岡県浜松市中区)
- 東尋坊(福井県坂井市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 小笠原伸行:
60歳。ジオラマワールド社の社長。ジオラマコンテストの事務局長。 - 望月江美:
ジオラマワールド社の事務局員。 - 小島英輔:
34歳。人気の模型作家。大田区久が原に在住。模型ジャパンのメンバー。丸子多摩川の川原で死体となって発見された。 - 小島あかね:
小島英輔の妹。東京駅近くの設計事務所に勤務している。 - 白井美咲:
小島英輔が高校時代に片思いしていた女性。今年の2月、天竜二俣駅近くで心臓発作により死亡。 - 渡辺義男:
28歳。北千住のマンションに在住。中堅のジオラマの作り手。 - 浜田正巳:
30歳。中堅のジオラマの作り手。 - 沢木敦司:
35歳。都内のR建設の営業一課に勤務。北鎌倉のマンションに在住。有名なジオラマ製作者。神奈川県の模型愛好家のグループに所属。 - 浅野圭一:
30歳。笹塚のコンビニ「マイウェイ」のアルバイト。鉄道ジオラマ制作者。倒産した石神井にある浅野模型の一人息子。
その他の登場人物
- 岩本:
50歳。模型ジャパンの代表。 - 寺田:
40歳。転車台マニア。 - 木村:
小島英輔の叔父。浜松市内でうなぎ料理店「うな吉」を営む。 - 向井肇:
小島英輔の高校時代の同級生。浜松市内にある自動車修理工場を営む。 - 中西大介:
小島英輔の高校時代の同級生。浜松駅近くの総合病院の院長の息子。外科医師。 - 安藤晴彦:
36歳。白井美咲の元夫。浜松市内で喫茶店を営む。 - 大森晴香:
白井美咲の友人。浜松市内に住む主婦。 - 白井敬子:
白井美咲の母親。浜松城近くにある私立中学の英語教師。 - 金田:
二俣町にある病院の医師。救急車で運ばれてきた白井美咲を診察した。 - 川上:
天竜新報社の記者。 - 石神:
神奈川県警の警部。 - 井上:
沢木敦司が勤めていたR建設の営業部長。 - 戸川亜紀:
28歳。沢木敦司の恋人。R建設の営業一課の社員。 - 沢木伸二郎:
沢木敦司の父親。 - 花山要:
40歳。世田谷区北烏山で幼稚園を営む。鉄道ジオラマ制作が趣味。 - 花山聡子:
花山要の妻。 - 荒川:
福井県警の警部。 - 野々村晃:
45歳。フィギュア作りの名人。
印象に残った名言、名表現
(1)今回の犯人は異常である。
「犯人の異常な執念のようなものが、感じられます」
(2)犯人のゆがんだ内面。
「ゆがんだ、強い嫉妬心というか、敵愾心のようなものを、持ち続けている」
(3)十津川、渾身の罠。
敵を欺くには、まず、味方からと、自らに、いい聞かせた。
感想
本作は、鉄道ジオラマ模型が、キーアイテムになっている。このジオラマ製作が事件の発端であり、事件の核心でもある。
この作品で、特筆すべき点は、異常ともいえる、犯人の執着心。鉄道ジオラマにも、女性にも、狂気ともいえるほどの、執着心が感じられる。読み進めるほど、犯人の異常性があらわになっていき、その執着心に対し、ヒリヒリとした緊迫感があった。
ただし、本作は、トラベルミステリーとしての、旅情はない。メイン舞台は、天竜二俣駅だが、旅の風景の描写はほとんどない。この駅にある、転車台に焦点が当てられているだけである。
あと気になったのは、捜査会議での説明が、ちょっと長いかな…。読んでいて、疲れてしまう。もう少し、短くしたほうが、読みやすいと個人的には思っている。ここが残念な点だった。
最後に、西村京太郎先生が、本作刊行にあたり、発表した著者のことばを紹介しておく。
戦前、日本各地に、円形の転車台があったといわれる。車両をその上にのせて、方向を変えさせる設備である。今も、立派に動いている所があるというので、天竜浜名湖鉄道の天竜二俣駅に取材に出かけた。一九四〇年(昭和一五年)製造の転車台は、今も立派に生きて輝いていた。こんな時、いつも感動するのは、SL復活の時と同じように、名物の保安係のおやじさんがいることである。ここでも、おやじさんが、ニコニコ笑いながら、七十年たった転車台を、動かしてくれた。
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