初版発行日 2000年3月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編
私の評価
時価数億円の<幻の名画>。地図の裏に書かれた奇妙な言葉。このふたつがつながったとき、連続殺人が……。殺人を暗示するような数え唄に、十津川警部が挑む!
あらすじ
殺害されたトラベルライターの貸金庫から発見された箱根細工の箱。中に入っていた観光地図の裏には、<一つ二つで、人殺し/三つ四つで、仇討ち/五つになれば、箱根のお山は日本晴れ>という文句が書かれていた。そして、殺害犯とみられていた男の他殺死体が、大涌谷で発見される。捜査は難航するが、この奇妙な文句が、もし発見されれば数億円の価値があるといわれている名画と関係していることが判明。研究家である美術評論家を訪ねた十津川警部と亀井刑事が目にしたのは……。
小説の目次
- 箱根細工
- お伽噺
- 雪の大涌谷
- 反証
- オークション
- 疑惑の輪
- 奥湯河原で終り
冒頭の文
M銀行の東京・調布支店に、三十歳くらいの男が現れたのは、四月五日の午前九時半頃である。
小説に登場した舞台
- 箱根湯本商店街(神奈川県・箱根町)
- 大涌谷(神奈川県・箱根町)
- 大涌谷駅(神奈川県・箱根町)
- 仙石原(神奈川県・箱根町)
- 芦ノ湖(神奈川県・箱根町)
- 桃源台駅(神奈川県・箱根町)
- 箱根神社(神奈川県・箱根町)
- 箱根芦ノ湖 成川美術館(神奈川県・箱根町)
- 甘酒茶屋(神奈川県・箱根町)
- 畑宿(神奈川県・箱根町)
- 奥湯河原温泉(神奈川県・湯河原町)
- 伊豆急下田駅(静岡県下田市)
- 修善寺(静岡県伊豆市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 細川浩:
トラベルライター。調布市石原にある自宅マンションで死体となって発見された。 - 谷藤君子:
四谷にある画廊のオーナー。 - 木原作次郎:
下田にある白井敬美術館の館長。 - 田端直人:
51歳。中野に住む美術評論家。S大学の非常勤講師。 - 永井実:
40歳。自称フリーカメラマン。伊東市内に在住。 - 小暮:
出版社「美術日本社」の編集長。 - 福田幸平:
32歳。無職。三鷹のアパートに在住。大涌谷で死体となって発見された。 - 江本タカシ:
白井敬の研究家。白井敬に関するエッセイを発表した。2年前、修善寺で事故死する。 - 伊地知浩:
有名な贋作家。すでに引退している。 - 黒木修造:
35歳。代田橋にある質店&リサイクルショップのオーナー。
その他の登場人物
- 井上:
M銀行調布支店の行員。 - 坂井:
調布警察署の刑事。 - 青木:
神田にあるK出版の編集長。 - 沼田信吉郎:
62歳。箱根細工の職人。 - 神木:
神奈川県警の警部。 - 木内アキ子:
32歳。新宿にあるスナックのママ。細川浩が行きつけだった。 - 田端直人:
51歳。中野に住む美術評論家。S大学の非常勤講師。 - 島田勇:
神保町の画商。 - 加倉井:
新宿一丁目の画商。 - 立野:
国立美術館の館長。 - 森田:
奥湯河原派出所の警官。 - 山根:
奥湯河原派出所の警官。
印象に残った名言、名表現
(1)芦ノ湖の景色。
桃源台ステーションでは、次々にゴンドラが出発し、到着していた。湖岸を走っていると、遊覧船が走っているのが見えた。海賊船の形をした船や、近代的な形をした船と、賑やかだった。
(2)成川美術館から見える絶景。
二人はティー・ルームに行った。巨大なガラス窓から、芦ノ湖の全景が、パノラマのように広がって見える。
眼下に遊覧船が発着する桟橋が見え、丁度、外輪船が出発するところだった。右手に眼をやると、湖面にたつ箱根神社の赤い鳥居が見えた。
緑の山なみの間に、まだ、白い残雪を抱く富士山が、急に姿を現したのだ。
感想
本作は、白井敬の幻の絵画、<箱根四部作>をめぐっておきた、連続殺人事件である。
ロマンチックな題名とは裏腹に、すごく、ロジカルな作品だったと思う。
前半は、箱根の美しい景観や観光スポットを、十津川と亀井が行脚する、トラベルミステリーならではのタッチで進んでいく。
そして、評論家、江本タカシが書いた、謎の数え唄。
一つ二つで、人殺し
三つ四つで、仇討ち
五つになれば、箱根のお山は日本晴れ
これが、事件解決のカギを握る一つになるのだが、ここまでは、すごく情緒的な雰囲気に満ち溢れていた。
だが、後半から、雰囲気が一変する。
金欲と名誉欲にとらわれた人物たちが明らかになり、殺人事件と詐欺事件を十津川と亀井が追う、ロジカルな展開になる。
この事件の真相と真犯人にせまるまでの推理が、理路整然としていて、ある意味、美しい。本作は、箱根の情緒的な美しさと、ロジックとしての美しさが、見事に融合した作品であった。
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