初版発行日 1982年9月10日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
満員の乗客を恐怖におとしいれた巨大な陰謀とは!?第一級トラベル・ミステリー決定版。
あらすじ
十日間で日本を一周するミステリー・トレイン「旅号」が、三百人の客を乗せて東京駅を出発した。だが、博多、西鹿児島、京都と、立ち寄る先で6号車の乗客ばかり三人が相次いで不審な死を遂げる。警察の捜査も空しく、手がかかりのないまま、札幌で第四の事件が!
小説の目次
- 東京
- 西鹿児島
- 鹿児島市
- 京都(一)
- 京都(二)
- 青函連絡船
- 札幌
- 釧路
- 青森
- 上野
冒頭の文
二十九歳の日下功刑事は、ちょっと、癖のある男だった。
小説に登場した舞台
- 東京駅(東京都千代田区)
- 久留米駅(福岡県久留米市)
- 西鹿児島駅(鹿児島県鹿児島市)
- 天文館通り(鹿児島県鹿児島市)
- 鹿児島空港(鹿児島県霧島市)
- 福岡空港(福岡県福岡市博多区)
- 博多駅(福岡県福岡市博多区)
- 門司駅(福岡県北九州市門司区)
- 松江駅(島根県松江市)
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 京都駅前地下街ポルタ(京都府京都市下京区)
- 京都御所(京都府京都市上京区)
- 金閣寺(京都府京都市北区)
- 清水寺(京都府京都市東山区)
- 南禅寺(京都府京都市左京区)
- 酒田駅(山形県酒田市)
- 青森駅(青森県青森市)
- 青森港(青森県青森市)
- 青函連絡船羊蹄丸
- 函館港(北海道函館市)
- 函館駅(北海道函館市)
- 小樽駅(北海道小樽市)
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- すすきの(北海道札幌市中央区)
- 伊東駅(静岡県伊東市)
- 釧路駅(北海道釧路市)
- 幣舞橋(北海道釧路市)
- たんちょう釧路空港(北海道釧路市)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 新宿歌舞伎町(東京都新宿区)
- 安達太良サービスエリア(福島県本宮市)
- 福島駅(福島県福島市)
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
- 上野駅(東京都台東区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下功(後の日下淳一):
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 桜井刑事:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 小川刑事:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 木下:
鹿児島県警の刑事。 - 阿部:
京都府警の刑事。 - 山田:
北海道警捜査一課の刑事。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 田島:
中央新聞政治部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。
日本一周「旅号」の乗客・乗員
- 富田:
東京鉄道管理局の営業部長。 - 石井:
日本一周「旅号」の車掌長。 - 川島:
56歳。日本一周「旅号」に同乗する医師。 - 日下晋平:
日下刑事の父親。福島で酒屋を営む。6号車の乗客。 - 日下君子:
日下刑事の母親。6号車の乗客。 - 和田由紀:
6号車の乗客。新宿西口に本社のある東西商事会計課の社員。世田谷区八幡山のマンションに在住。 - 村川誠治:
39歳。6号車の乗客。新宿西口ビルの1Fにある喫茶店「やまびこ」を営んでいる。6号車の車内で死体となって発見された。 - 笹本貢:
30歳。ファッションデザイナー。渋谷にある及川デザイン研究所に勤務。6号車の乗客。鹿児島に停泊中、甲突川で水死体となって発見された。 - 浜野栄一:
28歳。新日本新聞社会部の記者。千葉市内に在住。6号車の乗客。京都市内にあるホテルのプールで水死体となって発見された。 - 福井淳:
29歳。カメラマン。6号車の乗客。 - 佐々木修:
30歳。コピーライター。6号車の乗客。札幌すすきのの路地で死体となって発見された。 - 若林敏行:
K鉄鋼の本社に勤めるサラリーマン。6号車の乗客。 - 中川晴夫:
28歳。無職。作家の卵。6号車の乗客。 - 橋本可一郎:
福島市で妻と雑貨店を営む。6号車の乗客。 - 笠井昌治:
大阪市西成区に住む小学校教師。6号車の乗客。 - 川又良昭:
逗子駅まで模型店を営む。6号車の乗客。
事件関係者
- 白井久一郎:
保守党の代議士。元警視総監。三上刑事部長の大学の先輩。 - 三田良介:
保守党の代議士。元総理大臣。 - 羽島英吉:
S会の組長。 - 入江卓二:
S会の幹部。 - 安藤誠:
S会の幹部。
その他の登場人物
- 小林:
国鉄の局長。 - 北野:
国鉄総裁の秘書。 - 日下加代子:
日下刑事の妹。 - 宮本:
久留米医大病院の医師。 - 村川久仁子:
村川誠治の妻。 - 石田誠:
東西商事会計課の課長。和田由紀の上司。 - 青柳:
東西商事の内科診療室の医師。 - 小山:
東西商事の内科診療室の薬剤師。
印象に残った名言、名表現
(1)日下刑事の性格。
勇敢だし、頭も切れるし、一本気なのだが、少しづつ、それが過ぎるのだ。過ぎると長所が欠点になってしまう。猪突猛進するし、自説が正しいと固執する。それに、一本気が頑固に変わってしまう。
(2)刑事の宿命。
難しい事件を、苦心惨憺して解決したあとなど、ふっと、行く先を決めない気ままな旅行に出たいと思う。しかし、そう思っているうちに、次の事件が起きてしまうのだ。
(3)かつての日本には、一体感があった。個人主義の現代では見られない光景。
五十年輩の男性が、ーわれは海の子、白波のーと、歌い始めた。彼にとって、青春時代のシンボルのような歌なのかもしれない。
その歌は、車窓の海の景色や列車のゆれと、よくマッチしていて、他の乗客も、唱い出し、大きな合唱になっていった。
(4)日下刑事は知っている。
最初は、男のほうが主導権を握っているが、いざとなると、女のほうが度胸があることが多い。筋骨たくましい、いかにも、悪の権化みたいな大男が、普段、大言壮語しているくせに、意外に小心なのに比べると、可愛らしい顔をした女が、平気で人を殺したりするのも、知っている。
感想
これぞ、十津川警部シリーズの真髄、と呼べるような作品だった。
スピーディーな展開、物語全体にただよう緊張感、魅力的な謎、大どんでん返し、意外な結末。そして、旅情。すべてが、高いレベルで共存しているのだ。
北は北海道から、南は鹿児島まで。日本一周という名前にふさわしい、全国各地のスポットが登場する。作品を読みながら、あたかも、自分が旅をしている”旅気分”を味わえる。これが、十津川警部シリーズらしさであり、本作は、その良さを全面に出している。
そして、今回の事件は、あらすじに記載されている通り、日本一周「旅号」で起こった殺人事件である。4人の人間が死に、犯人は乗客の中にいる。
ものすごく単純に言えば、乗客の中から、犯人を探していく捜査なのである。
犯人は確実にいる。でも、誰だからわからない。わからないまま、事件が続き、列車も進む。作中では、こんな風に表現されている。
犯人も、この列車の中で、駅弁を食べているだろう。どんな気持ちで、食べているのだろうか?
この緊張感がたまらないのだ。
今回、十津川警部はあくまでも側方支援。主役は、部下の日下刑事である。この日下刑事が同乗の女性に恋をする。普段は冷静だけど頑固な日下刑事の、別の一面が見られるのも面白い。
もちろん、日下刑事の恋愛も、今回の事件の根幹に関わってくるのだ。
本作は、ぜひ読んでもらいたい作品の、一つである。
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