初版発行日 1997年9月30日
発行出版社 徳間書店
スタイル 長編
私の評価
特急やくも13号の車内で毒殺された男と出雲大社に掲げられた不可思議な絵馬とのかかわりは?十津川&亀井が挑んだ戦慄の事件!!
あらすじ
K美を殺してやりたいー呪いの絵馬を出雲大社に掲げたと思われるM銀行のOL堀井恵が殺された。日課としている早朝のジョギング中に轢き逃げされたのだ。警視庁捜査一課・十津川警部らの捜査によって、K美とは、モデルあがりのデザイナー井崎清美と判明した。当初、信託銀行に勤めるエリートサラリーマン栗田信彦をめぐる三角関係のもつれかと思われたが、栗田が、岡山から出雲へ向う特急<やくも>の車内で毒殺され、事件は予想外の展開をみせ始めた……。
小説の目次
- 絵馬の願い
- 混乱
- 失踪警官
- 犠牲者
- サイダ薬局
- 戸惑いからの脱出
- 井崎清美
- 終幕へ発進
冒頭の文
警視庁捜査一課の日下刑事は、休暇を利用して、出雲に出かけた。
小説に登場した舞台
- 出雲市駅(島根県出雲市)
- 出雲大社(島根県出雲市)
- 出雲縁結び空港(島根県出雲市)
- 地蔵崎(島根県松江市)
- 隠岐の島(島根県・隠岐の島町)
- 隠岐世界ジオパーク空港(島根県・隠岐の島町)
- 白島海岸(島根県・隠岐の島町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 中村:
警視庁捜査四課の警部。 - 林美雪:
警視庁の婦人警官。 - 吉田:
練馬署交通係の刑事。 - 田中:
新宿署の巡査。 - 木村:
四谷駅前派出所の巡査部長。 - 田沢:
警視庁捜査四課の警部。 - 芝野:
島根県警の警部。 - 牧野:
島根県警の本部長。 - 杉本豊:
地蔵崎近くのK村派出所の巡査。行方不明になった後、美作近くの山中で死体となって発見された。 - 酒井:
隠岐の島にある西郷警察署の署長。
事件関係者
- 堀井恵:
28歳。M銀行石神井支店に勤めるOL。出雲大社の絵馬に「K美を殺してやりたい」と絵馬を書いた女性。練馬区石神井の路上でジョギング中に車にはねられて死亡した。 - 井崎清美:
28歳。ファッションデザイナー。元モデル。堀井恵の短大時代の同級生。 - 栗田信彦:
30歳。東京に本社のあるM信託銀行営業部の課長。世田谷区北沢のマンションに在住。堀井恵の知り合いだった。特急やくもの車内で青酸中毒死する。 - 細川宏:
19歳。予備校生。栃木県出身で神田にある予備校近くのマンションに在住。丸子橋付近の多摩川に死体となって浮かんでいるのが発見された。 - 才田弘:
40歳。四谷と中野にある「サイダ薬局」の社長。世田谷区成城に在住。 - 山口みどり:
サイダ薬局の店員兼社長秘書。 - 志村貢一郎:
隠岐の島にある公益法人「自然環境研究所」の所長。元T製薬の研究主任。 - 河野匡:
35歳。薬剤師。 - 片桐伍郎:
32歳。K組の幹部。 - 島村勇:
28歳。K組の組員。
その他の登場人物
- 田代:
M信託銀行の人事課長。 - 松木ミカ:
R高校に通う女子高生。覚せい剤所持で補導された。 - 佐山泰子:
R高校に通う女子高生。覚せい剤所持で補導された。 - 合田アヤ子:
28歳。木之本明子の名前で覚せい剤の密売を行っていた女。 - 佐々木:
厚生省の専門官。 - 金本清:
東北の運送会社の社長。覚せい剤の密造で逮捕され服役していた。
印象に残った名言、名表現
■初冬の山陰、日本海。
冬空が、よく晴れて、雲もない。出雲空港を離陸すると、すぐ、眼下には、日本海が、広がった。初冬の今、海の色は、青さを失って、暗黒色に見える。
感想
本作は、物語の進行とともに、事件の印象が大きく変わっていく。
最初は、三角関係に陥った男女の、愛憎がまねいた、ドロドロとした事件に見えた。だが、ドロドロとしているが、すごく単純な事件である。
十津川警部もこういっている。
この事件は、三角関係で始まり、その崩壊で幕を閉じた。簡単明瞭な事件なのだ。
だが、途中から、三角関係の事件では説明がつかなくなっていくのだ。
「今度の事件だがね。全体像が、はっきりつかめないんだよ」
なぜ、被害者は殺されたのか?その裏で何が起こっているのか?それがまったくわからないのである。
それでも捜査を続ける十津川は、ある結論に至る。
三人とも、全く別な人格を持っていて、それが、今回の事件の本質かも知れないからだよ。そして、われわれが、相手にしているのは、一つの組織だという可能性が強い。
男女の三角関係と思った事件が、実は、組織的な覚醒剤の密売で起きた事件であることがわかったのだ。これは大事である。
中盤からは、一気にサスペンスルフルな展開になっていった。
序盤の出雲大社の絵馬という伏線も、最後にしっかりと回収された。最初から最後まで、整った、しっかりと計算されたミステリーだったと思う。
ちなみに、出雲を舞台にした作品は、2004年刊行の「出雲 神々の殺人」、2011年刊行の「出雲 殺意の一畑電車」もある。
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