初版発行日 2010年1月20日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
なぜ女だけが、一人で帰りの電車に乗ってきたのか?何を彼らは隠しているのか?十津川警部、ミステリー研究会のメンバーがひた隠しにする「秘密」に挑む!
あらすじ
絶景富士山を眺めながら走る人気列車「フジサン特急」に乗ってきた、年の差を感じさせるカップル。終点の河口湖駅で仲良く降りたのを車掌は見たのだが、帰りの列車には女一人。消えた五十代の男は、日本各地の不思議な場所を探検する男女五人のサークルに入っていて、青木ヶ原樹海を調べようとしていたらしいのだがー。食い違う関係者の証言。十津川警部は真実を見極められるのか?
小説の目次
- 青木ヶ原樹海
- 日本ミステリーの会
- 内部崩壊
- 会の秘密
- 女性への疑問
- 許す女
- 終結
冒頭の文
富士急行は、大月線と、河口湖線に分かれている。
小説に登場した舞台
- フジサン特急
- 河口湖駅(山梨県・富士河口湖町)
- 大月駅(山梨県大月市)
- 青木ヶ原樹海(山梨県・富士河口湖町)
- 静岡駅(静岡県静岡市葵区)
- 新宿駅(東京都新宿区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
富士急行の職員
- 白川健介:
30歳。富士急行の車掌。 - 井口:
河口湖駅の駅長。 - 小野:
富士急行の観光課長。 - 斉藤:
富士急行の運転士。
日本ミステリーの会の会員
- 崎田幸太郎:
52歳。東京M製薬の業務部長。20代の女性と青木ヶ原樹海に出かけた後、行方不明になる。 - 寺西博:
52歳。東京にある公立中学校の国語教師。 - 金子修:
52歳。神田にあるK出版の編集長。世田谷区太子堂のマンションに在住。石神井公園で死体となって発見された。 - 中野新太郎:
52歳。旅行会社「ジャパントラベル」の社員。 - 新藤晃子:
42歳。エッセイスト。
日本ミステリーの会の関係者
- 崎田めぐみ:
崎田幸太郎の娘。S大学の4年生。 - 中野美佐子:
45歳。中野新太郎の妻。 - 金子典子:
40歳。金子修の妻。 - 寺西冬子:
50歳。寺西博の妻。三鷹にある小学校の教師。 - 崎田光江:
当時40歳。崎田幸太郎の妻。2年前に病死している。 - 落合由美:
崎田幸太郎の秘書だった女性。崎田幸太郎の不倫相手。
その他の登場人物
- 渡辺:
石神井警察署生活安全課の刑事。 - 石田:
青木ヶ原樹海入り口の管理事務所にいるガイド。 - 松尾:
青木ヶ原樹海入り口の管理事務所にいるガイド。 - 安田:
K出版の編集者。 - 栗原昌一:
元ジャパントラベルの社員。現在、肝硬変で都内のT病院に入院中。 - 新井幸恵:
都内在住の主婦。かつて六本木のクラブのホステスをやっていた。 - 古木加奈子:
崎田光江の大学時代の同級生。六本木にあるクラブ「加奈子」のママ。
印象に残った名言、名表現
(1)季節で変わる富士山せんべい。
富士山の形のせんべいだが、冬景色の場合には、上半分ぐらいに、白い砂糖をまぶし、秋の富士は、少し濃いめの醤油が塗られていて、いかにも、四季の富士山らしく見えるのである。
(2)青木ヶ原樹海。
青木ヶ原の樹海は、富士山が爆発して、溶岩が流れ出した時、その溶岩が冷えて出来たもので、ところどころに、大きな洞窟を作ったのだという。冷えた溶岩の上に、木々が芽を吹き、樹林を作った。
感想
富士急行に乗っている50代の男と20代の若い美女。この組み合わせを見ると、「これは、普通の関係ではないな」と、誰もが想像する。
もちろん、年の差カップルもいるし、親子の関係ほど離れた年齢で結婚する人もいるので、必ずしも、”いかがわしい関係”ではない。
だが、大抵の人は、ただならぬ関係だと思うし、大抵は、実際にただならぬ関係であることが多い。
本作は、そうした世間一般の”思い込み”を使った事件であったと思う。
冷静になって考えれば、まず疑うべき人物を疑わず、”思い込み”で捜査を進めていたのである。ただし、十津川警部が、”思い込み”を突き詰めて捜査したからこそ、事件の全体像がわかった事件でもあった。
もし、一切合切の思い込みを排除して、まず疑うべき人物を捜査して、逮捕していたら、事件の全体像や本質が、まったく不明のままだったのである。
今回は、この”思い込み”による、心理的なトリックを楽しむ作品になっている。
最後に、西村京太郎先生が、本作を刊行した意図を説明しているので、それを紹介しておく。
最近の事件(一人の女性に何人もの男が欺されてしまう)を見ていると、女は怖いとか男が、だらしがないと思ってしまうのだが、この考えは、間違っている。男は女に対して昔から理想主義者で、女は男に対してリアリストだというだけのことである。男は、女が美人なら心まで美しいと思い込み、ふくよかで料理好きなら、優しく家庭的だと思い込む。多分、この悲劇は、永久に続くだろう。今回の作品は、それを下敷にした男と女の思い込みの違いが生んだ殺人事件である。
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