初版発行日 1999年10月25日
発行出版社 実業之日本社
スタイル 短編集
あらすじ
1.「北の空 悲しみの唄」
日下刑事の同級生で作詞家の堀井順が北海道で失踪した。さらに堀井順が所属するRレコードの新人歌手が死体で見つかる。この2つが関連していると睨んだ日下刑事は帯広へ向かう!ウトロの墓標に刻まれたイニシャルとは?芸能界の闇を暴き出す!日下刑事が躍動!
2.「東京-旭川殺人ルート」
十津川の部下西本刑事が、怪しい男につけられているので家まで送ってほしいと、若い女に声をかけられていた。半月前に同じマンションの女が殺され、怖いのだという。十津川は万全のセキュリティシステムを誇るマンションと女の行動に不審を抱いた。しかし、その女も事件に巻き込まれ……。事件解明のため、十津川は北海道へと飛ぶ!
3.「雪の石塀小路に死ぬ」
雪が降り積もった京都・石塀小路で女装した藤沢敬一郎の死体が見つかる。LGBTでもなく女装趣味もない藤沢敬一郎がなぜ女装していたのか?犯人は誰なのか?捜査戦上に浮上したのはインターネット掲示板!現代型の犯行に十津川警部たちが挑む!悲しくも美しい”兄妹愛”の物語。
小説に登場した舞台
1.「北の空 悲しみの唄」
- 帯広(北海道帯広市)
- 十勝川温泉(北海道・音更町)
- 幸福駅(北海道帯広市)
- 網走(北海道網走市)
- 斜里町(北海道・斜里町)
- ウトロ(北海道・斜里町)
- 女満別空港(北海道・大空町)
2.「東京-旭川殺人ルート」
- 旭川(北海道旭川市)
- 石狩川にかかる旭橋(北海道旭川市)
3.「雪の石塀小路に死ぬ」
- 石塀小路(京都市東山区)
- 長楽館(京都市東山区)
- 鴨川(千葉県鴨川市)
- 京都駅(京都市下京区)
登場人物
1.「北の空 悲しみの唄」
- 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。本作の主人公。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。日下刑事とともに北海道へ向かう。 - 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 堀井順:
Rレコードに所属する新進気鋭の作詞家。日下刑事の大学の同級生。仕事で北海道に出張中、疾走する。 - 北園れい子:
Rレコード所属。「北野駅から」でデビューした新人歌手。 - 山口:
日下刑事の大学の同級生。K銀行の帯広支店に勤務している。 - 及川くみ:
28歳。Rレコードに所属していた歌手。北海道旭川市桜岡の出身。中野駅近くの自宅マンションで死体で発見される。 - 岩村:
Rレコードのマネージャー。及川くみを担当していた。 - 上田:
Rレコードの事業部長。 - 中原了:
Rレコード専属の大物作詞家。54歳。現在まで1千曲近い作品がある。 - 小野:
芸能界の裏事情に詳しい男。
2.「東京-旭川殺人ルート」
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。 - 小坂井みどり:
銀座のクラブ「ミラージュ」のホステス。28歳。三鷹にある自宅マンションで胸を刺された死体で見つかる。 - 畑恵子:
旭川在住。以前、六本木のクラブ「楓」のホステスとして働いており、小坂井みどりと同じマンションに住んでいた女。 - 白石麻里:
小坂井みどりや畑恵子と同じマンションに住む。元モデルでカメラマンを目指している。 - 畑章子:
畑恵子の姉。 - 木村警部:
旭川警察署の警部。 - 竹田徹:
40歳。SN製菓の重役。大学時代ラグビーをやっていた。 - 竹田美江:
竹田徹の妻。38歳。NS製菓の社長の娘。
3.「雪の石塀小路に死ぬ」
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 檜山警部:
京都府警捜査一課の警部。 - 中山刑事:
京都府警捜査一課の刑事。 - 藤沢敬一郎:
京都の石塀小路で女装した死体でみつかる。東京都世田谷区上北沢のマンションに在住。福島県会津若松市の出身。劇団に所属していた。 - 藤沢あけみ:
藤沢敬一郎の妹。過去に起きた交通事故が原因で右足が麻痺していた。東京都調布市のマンションにひとり暮らし。 - 沢田:
藤沢敬一郎が所属していた劇団の主宰者。 - 斎藤かずえ:
N薬品の会計課で働くOL。藤沢敬一郎が所属していた劇団に所属。かつて藤沢敬一郎と交際していた。 - 池内医師:
調布市にある個人医院の医師。 - 鈴木刑事:
世田谷所の交通係。 - 坪井:
インターネットのチャット広場「愛&LOVE」を主催しているグループの責任者。 - 高橋勇:
京都に住むS大学の卒業生。K食品の営業。
個人的な推しポイント
- 個人的には第3作「雪の石塀小路で死ぬ」が一番の推し作品。兄弟愛がテーマで奥深い。
- 第1作、「北の空 悲しみの唄」。風光明媚なウトロの景観がありありと描かれている。
- 「東京-旭川殺人ルート」は一人の男と3人の女。この四角関係を解き明かす十津川警部のロジックに脱帽する。
1.「北の空 悲しみの唄」→墓標
2.「東京-旭川殺人ルート」→インコ
3.「雪の石塀小路で死ぬ」→チャット
総評
本作は短編「東京-旭川殺人ルート」を表題とした3つの短編集である。
第1作の「北の空 悲しみの唄」は北海道の帯広やウトロが舞台。犯行の動機は「借金」である。第2作の「東京-旭川殺人ルート」は北海道の旭川が舞台。犯行の動機は「保身」である。第3作の「雪の石塀小路で死ぬ」は京都が舞台。犯行の動機は「激情」である。
いずれも、西村京太郎先生の土地に対する深い知見と緻密な描写が光る秀作であり、犯行の動機もまさに王道。これぞ西村京太郎のトラベルミステリーと呼べるものであった。
この3作品の中で一番の推し作品はなにか?
そう問われたら、表題にもなっている短編「東京-旭川殺人ルート」と答えるのが一般的であろう。
しかし、わたしは3作目の「雪の石塀小路で死ぬ」を一番の良作にあげたい。この作品は謎解きミステリーだけでなく、その根底に”兄妹愛”という大きなテーマが隠されているからである。
なぜ藤沢敬一郎は女装して京都に行ったのか?
その答えは兄弟愛にあり、その答えこそが犯人逮捕へと繋がっていく道なのである。1つの答えに2つの意味がある。ミステリー作品としての奥深さがある。
唯一の肉親である家族愛と、家族愛を超えた男女の愛情。兄を慕う妹と、妹を想う兄。この作品の最後、十津川警部が語った言葉がすべてを表している。
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