初版発行日 2007年3月1日
発行出版社 小学館
スタイル 長編
私の評価
湘南に女がひとり。男はそれが我慢できない。ターゲットは、湘南ライナーの男達。「なぜだ?」十津川警部も困惑、謎の女が仕掛けた甘美な罠。
あらすじ
湘南に住み湘南ライナーで通勤する三十代、独身エリートの五人の男達のまえにあらわれた、ふるいつきたくなるような美女。彼女の口から奇妙な申し出が……。
週に一度、彼女のマンションでともに一夜を過ごして欲しい、という。ただし、セックスぬきの関係。五人の男達がそれぞれ月曜日から金曜日まで”一夜同棲契約”を結ぶ。男達は謎の女の意図をはかりかねながらも、その魅力の虜となってゆく。待つのは、禁断の蜜のるつぼか、はたまた逃れられない蟻地獄か……。
セックス抜きのやりとりに耐えかねた男達は共謀して彼女を襲う計画を立て始める。なんの不足もない社会生活を営んできたエリートたちの周辺に波風が立ち始める。まるで、穏やかな湘南の海が様相を変え牙をむきはじめたかのように。男達の一人の周辺で殺人事件が起こり、男達の間に反目、諍いが起きる。
殺人捜査に乗り出した十津川警部も頭をひねった謎の女の真の狙いとは……。
小説の目次
- 契約
- 誘惑
- 嵐の予感
- 論文のモデル
- 男たちの反乱
- レイプの日
- 最後のアイデンティティ
冒頭の文
武藤明は、毎日、よほどのことがない限り、午前七時十五分、小田原発の「湘南ライナー8号」に乗る。
小説に登場した舞台
- 小田原駅(神奈川県小田原市)
- 湘南ライナー
- 平塚駅(神奈川県平塚市)
- 茅ヶ崎駅(神奈川県茅ヶ崎市)
- 快速アクティー
- 逗子海岸(神奈川県逗子市)
- 鵠沼海岸(神奈川県藤沢市)
- サザンビーチちがさき海水浴場(神奈川県茅ヶ崎市)
- 帝国ホテル東京(東京都千代田区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
事件関係者
- 小早川恵:
25歳。湘南のエリートたちと「大人の恋人契約」を結んだ謎の女性。平塚のマンションに在住。父親は平塚の名士。 - 武藤明:
30歳。新橋にある「日本総合経済研究所」の研究員。小田原市内のマンションに在住。小早川恵と「大人の恋人契約」を結び、週に一度、小早川恵のマンションで過ごす。 - 大杉修:
37歳。品川にある出版社「ザ・サン」の編集長。茅ヶ崎のマンションに在住。小早川恵と「大人の恋人契約」を結び、週に一度、小早川恵のマンションで過ごす。 - 仲真一郎:
外務省のアジア大洋州局中国課に勤務。小田原市内に両親と在住。小早川恵と「大人の恋人契約」を結び、週に一度、小早川恵のマンションで過ごす。 - 河野圭一郎:
52歳。私立探偵。小早川恵を監視する依頼を受けて仕事をしている。小早川恵と「大人の恋人契約」を結び、週に一度、小早川恵のマンションで過ごす。 - 川上信彦:
30歳。父が経営する川上工業の専務。大磯に在住。小早川恵と「大人の恋人契約」を結び、週に一度、小早川恵のマンションで過ごす。 - 岸川正典:
34歳。ベンチャー企業の社長。二宮に在住。小早川恵と「大人の恋人契約」を結び、週に一度、小早川恵のマンションで過ごす。 - 城戸はるか:
25歳。岸川正典の秘書。青山一丁目のマンションに在住。自宅で死体となって発見された。
その他の登場人物
- 斉藤:
「日本総合経済研究所」の研究員。武藤明の同僚。 - 神永良雄:
56歳。売れっ子作家。
印象に残った名言、名表現
なし。
感想
本作は、謎の美女が湘南のエリートたちと、週に一度、プラトニックな関係を営む、契約をするという、なんとも風変わりなものであった。
十津川警部が登場するので、もちろん、殺人事件が発生する。しかし、この殺人事件は、サブストーリー的なものであり、メインは、この奇妙な契約とその推移、そして、この契約の本当の意図である。
興味深いのは、男たちの変化だ。
絶世の美女と同じ一室で一夜をすごす。男にとっては、夢にまで見たシチェーションである。
最初は舞い上がり、こんな幸せなシチェーションに満足する。だが、しばらく経つと「もっと」を求めるようになる。
プライベートを知りたくなるし、自分以外の相手も気になりだす。自分だけのものにしたいと思い出すし、疑心暗鬼にもなってくる。もちろん、肉体関係を結びたいと思うようになるのだ。
人は満足というものを知らない。際限なく欲望が膨張していくものだということを、思い知らされる。
男にとっては、肉体関係が、本能的なひとつの最終目標でもあるから、当然といえば当然であろう。
だが、この”最終目標”を達成するための手段は、人によって異なる。相手が自分を受け入れてもらえるように仕向ける者もいれば、力ずくでも最終目標を達成しようとする者もいる。
この違いが、今回の「大人の契約」の肝にもなっており、女が仕掛けた策略でもあるのだ。
この謎の美女は、なぜこのような奇妙な契約を結んだのか?その裏に隠された恐るべき意図は何か?そして、この契約の行き着く先には、何が待っているのか?
本書を手にとって、この目で確かめてもらいたい。
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