初版発行日 1999年7月10日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 短編集
白鳥、猿、猫、犬をテーマにした4つの短編集!動物を軽視する者が動物を愛する者に成敗される!
あらすじ
1.白鳥殺人事件
松本市近郊の白鳥の湖で写真家・金子敏の死体が見つかった。白鳥を抱きかかえるようにしてなくなっており、死因が心不全だったことから警察は病死と断定する。数日後、東京で金子敏の友人の写真家・小島進介が何者かに殺された。金子敏の死と小島進介の殺人が関連すると睨んだ十津川警部は松本へ向かう。捜査で明らかになった驚くべき殺害方法とは?
2.野猿殺人事件
地獄谷温泉のそばの森で、ひとりの男と一匹の猿が、射殺された。使用された弾丸の施条跡は、半月前に東京で射殺された若いOLにつかわれたものと一致する。ふたつの事件のつながりは?犯人はなぜ、ものいわぬ猿まで殺さねばならなかったのか……。
3.野良猫殺人事件
北条早苗刑事が飼っているシャム猫・メイがいなくなった。その後、近所の野良猫との間にできた子猫2匹とともに帰ってくる。一方、中野の自宅マンションで首を絞められて殺された殺人事件発生。部屋にはシャム猫の子猫の姿が…。女性宅にいた子猫はメイが生んだ子猫だと睨んだ北条早苗は西本刑事とともにある行動に出る…。
4.愛犬殺人事件
晴海埠頭で70歳資産家・木下匡の男の死体が見つかった。ドラム缶に入れられて、中にはシェイクスピアの原初が入っていた。走査線上に浮かび上がった木下の恋人と勤め先の薬品会社。解決の糸口が見つからないまま時間だけが経過。膠着状態を脱したのは木下の愛犬だった。
小説に登場した舞台
1.白鳥殺人事件
- 犀川白鳥湖(長野県安曇野市)
- 松本市内(長野県松本市)
2.野猿殺人事件
- 地獄谷温泉(長野県・山ノ内町)
- 後楽館(長野県・山ノ内町)
- 諏訪湖(長野県諏訪市)
- 隅田公園(東京都墨田区)
- 福島駅(福島県福島市)
3.野良猫殺人事件
- 大磯海岸(神奈川県・大磯町)
- 葉山(神奈川県・葉山町)
4.愛犬殺人事件
- 晴海埠頭(東京都中央区)
- 長崎駅(長崎県長崎市)
- 雲仙温泉(長崎県雲仙市)
登場人物
1.白鳥殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。 - 田中:
白鳥の湖の監視小屋の職員。 - 木下警部:
長野県警の警部。 - 吉田刑事
長野県警の刑事。 - 金子敏:
写真家。38歳。東京都世田谷区太子堂に住む。松本市近くの白鳥の湖で白鳥を抱くようにして死んでいた。 - 金子亜紀:
金子敏の妻。20代前半でモデルをしている。 - 小島進介:
金子敏の友人の写真家。40歳で独身。四谷三丁目に小さなスタジオを持っている。 - 芝野ゆき子:
52歳。小島進介のお手伝い。 - 足立健一:
写真家。小島進介と知り合い。成城のマンションに住んでいる。 - 青木:
金子敏の司法解剖をした松本市内にある大学病院の医者。 - 向井志郎:
金子亜紀と不倫交際しているカメラマン。30歳。かつて金子敏のスタジオで働いていた。
2.野猿殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。 - 戸田浩:
地獄谷温泉に遊びに来たカップル。殺された猿と谷池吾郎を発見する。 - 三浦恵:
戸田浩の彼女。 - 谷池吾郎:
カメラマン。東京都練馬区在住。地獄谷温泉で殺されていたのが見つかる。 - 井上まゆみ:
28歳の独身OL。半月前の10月16日に隅田公園で射殺される。 - 平井:
長野県警の刑事。 - 中村信介:
猿廻し。長野県の上諏訪出身。9月に突然蒸発してしまう。 - コウスケ:
中村信介が地方廻りで連れていた猿。 - 小林:
野猿公苑の職員。56歳。 - 原田:
世田谷署の刑事。 - 三上弘:
Mエンタープライズの社長。50歳。元総会屋。 - 青木:
デンマーク村の職員。 - 榊原広太郎:
48歳。猿廻し。中村信介がかつて師として仰いだ人物。 - 三郎:
榊原が調教している猿。
3.野良猫殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 行方ひろみ:
福島県会津若松市の生まれ。コンパニオンクラブ「チェリーバンケット」の社長。中野の自宅マンションで首を絞められて殺されていた。 - 山川武志:
40歳。自称経営コンサルタント。行方ひろみの交際相手。 - 日高ユキ:
S女子高校3年生。 - ナオミ:
六本木のクラブ「桂」のホステス。 - 三浦警部:
神奈川県警の警部。
4.愛犬殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - のりスケ:
十津川家の愛犬。 - 木下匡:
70歳。北野化粧品の特別顧問。国立市内のマンションに在住。晴海埠頭でドラム缶に入れられて殺されていた。 - 中田:
北野化粧品の管理部長。 - 久保田麻美:
木下匡と交際していた女性。 - 三宅正史:
ノンフィクション作家。化粧品に詳しい。 - 新井和宏:
タレント。久保田麻美と交友関係のあった男。 - 大矢:
北野化粧品 秘書課の男。元大阪府警の刑事。 - 木崎博:
新宿のバーテン。新井和宏の仲間。 - 小川徹
S劇場の雑用。以前、傷害で刑務所に入っていた。新井和宏の仲間。
個人的な推しポイント
- 白鳥が湖や田園を飛び回る美しい景色のイメージが脳内に広がる
- 犯人は断定したが証拠がない。犯人を動かすために十津川警部が圧力のかけ方が絶妙。
- 白鳥、猿、猫、犬がテーマになった4つのストーリー。動物好きにおすすめ。
1.白鳥殺人事件→白鳥の写真
2.野猿殺人事件→猿
3.野良猫殺人事件→シャム猫
4.愛犬殺人事件→シェパード
総評
本作はいずれも動物がテーマの作品である。
「白鳥殺人事件」では白鳥を愛する監視小屋の職員・田中、「野猿殺人事件」では猿を愛する猿廻しの榊原広太郎、「野良猫殺人事件」では猫を愛する北条早苗刑事、「愛犬殺人事件」では被害者と十津川警部の妻・直子、いずれも愛犬家が事件解決のカギになった。
「白鳥殺人事件」では、白鳥が湖の浅瀬で眠るわけがないと気づいたことが突破口になり、「野猿殺人事件」では、恐怖を感じた人間に襲いかかる猿の習性が決め手になった。
「野良猫殺人事件」では、子猫が親猫に甘えたことで犯人を確信でき、「愛犬殺人事件」では、匂いに敏感な犬が飼い主の匂いに反応したことが事件解決に繋がった。
4つの事件に共通することは、犯人がいずれも動物を軽視していたため、動物を愛する者に成敗されてしまったことであろう。
さて、今回の短編集の中で筆者が一番気に入った作品は「白鳥殺人事件」である。
わたしは何気ない田舎の田園風景が好きだ。視界にひろがる田んぼや畑を眺めていると心が落ち着く。だから、なにもない田園風景がひろがる田舎に旅をすることも多い。
田んぼに訪れてみると、そこでは何羽もの白鳥が飛び回っている。青々とした田んぼと真っ白な白鳥のコントラストが実に美しい。芸術的ですらある。
この作品では、田んぼや湖の上を飛び回る白鳥の姿が頭の中でイメージできた。この作品の舞台となった犀川白鳥湖に行ってみたいと思えた。「旅に出たい」という衝動が掻き立てられた。
これだけでトラベルミステリーとして成功したと言えるのではないだろうか。
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