初版発行日 1997年1月25日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 短編集
私の評価
紀伊勝浦の海が見える温泉で日下刑事が目撃した溺死事件の真相は?紀伊勝浦、草津、熱海、伊豆長岡を舞台に十津川警部の推理が冴え渡る、トラベルミステリー短編集!
あらすじ
1.愛と死 草津温泉
自宅マンションから転落死したR食品のサラリーマン・浜口功。遺書も用意されていたことから、当初は自殺と考えられた。が、十津川は、他殺と推理する。事件の根は草津温泉にあると踏んだ十津川と亀井は草津温泉に向かうが……。
2.友の消えた熱海温泉
短編集「十津川警部の休日」に収録。下記を参照↓↓
→「十津川警部の休日」
3.青に染まる死体 勝浦温泉
大学時代の友人浜田に誘われ紀伊勝浦温泉に出かけた日下刑事は、海の見える露天風呂から溺れる人影を目撃した。翌日発見された溺死体は東京からの観光客で、翌月にはその未亡人も殺害された。やがて容疑者に浜田が浮かび上がるが、そのアリバイは日下刑事自身によって完璧に証明されていた!
4.偽りの季節 伊豆長岡温泉
伊豆長岡温泉のK旅館に宿泊していた人気作家の早川克郎のもとへ、20代の美女が訪れる。旅館の仲居らは愛人との逢瀬だと思っていたが、翌朝、女が死体となって発見された。捜査を開始した静岡県警の刑事が、早川克郎に問いただすと、「自分は伊豆長岡温泉に行っていない。自分を語る偽物がいて困っていた」と話す。また、殺された女は雑誌記者の名刺を持っていたが、偽物記者だったことも判明する。K旅館に泊まっていた男と女は、何者か?
小説に登場した舞台
1.愛と死 草津温泉
- 上野駅(東京都台東区)
- 特急「草津3号」
- 新前橋駅(群馬県前橋市)
- 長野原草津口駅(群馬県・長野原町)
- 草津温泉(群馬県・草津町)
- 草津温泉湯畑(群馬県・草津町)
- 榛名湖(群馬県高崎市)
2.友の消えた熱海温泉
短編集「十津川警部の休日」に収録。下記を参照↓↓
→「十津川警部の休日」
3.青に染まる死体 勝浦温泉
- 南紀白浜空港(和歌山県・白浜町)
- 白浜駅(和歌山県・白浜町)
- 特急「スーパーくろしお」
- 紀伊勝浦駅(和歌山県・那智勝浦町)
- 紀伊勝浦温泉(和歌山県・那智勝浦町)
- 特急「南紀7号」
4.偽りの季節 伊豆長岡温泉
- 伊豆長岡温泉(静岡県伊豆の国市)
- 石和温泉(山梨県笛吹市)
- 三津海岸(静岡県沼津市)
- 大瀬崎(静岡県沼津市)
登場人物
1.愛と死 草津温泉
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 浜口功:
29歳。R食品に勤務するサラリーマン。11月初旬、自宅マンションから転落死する。 - 深井勇作:
52歳。草津温泉にある土産物店「深井商店」の店主。 - 深井里美:
47歳。深井勇作の妻。 - 深井みゆき:
22歳。深井勇作の娘。ミス草津に選ばれた美人。10月27日に死亡した。 - 田口:
高崎市内にあるM病院の医師。深井みゆきの死亡診断書を書いた。 - 宮口麻美:
22歳。草津町役場の職員。
2.友の消えた熱海温泉
短編集「十津川警部の休日」に収録。下記を参照↓↓
→「十津川警部の休日」
3.青に染まる死体 勝浦温泉
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。大学時代の友人・浜田に会うため、紀伊勝浦温泉に訪れる。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 浜田:
M銀行勝浦支店に勤務。日下刑事の大学時代の友人。 - 吉田:
和歌山県警の刑事。 - 原口裕:
48歳。ブランド品の輸入販売を営む。世田谷区等々力に在住。紀伊勝浦の海岸で遊覧船から転落し、溺死体となって発見された。 - 原口ひろみ:
32歳。原口裕の妻。元モデル。渋谷区松濤の自宅マンションから転落死した。
4.偽りの季節 伊豆長岡温泉
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 早川克郎:
N賞を受賞した人気作家。世田谷区用賀に在住。 - 木下みずえ:
伊豆長岡温泉K旅館の女将。 - 前田:
S出版の編集者。 - 三浦:
静岡県警の警部。 - 山本:
静岡県警の刑事。 - 寺田:
静岡県警の警部。 - 神田:
月刊タイムス編集部の記者。 - 堀:
山梨県警の警部。 - 小田みゆき:
28歳。六本木にあるKクラブのホステス。早川克郎の愛人だった。伊豆長岡温泉K旅館で死体となって発見された。 - 山中京一:
私立探偵。石和温泉のWホテルで死体となって発見された。
印象に残った名言、名表現
(1)草津行きのバスから見える景色。
天気が良いので、左手前方に白根山系が、はっきりと見える。その反対側が、志賀高原である。
(2)若い刑事の悩み。
いくら犯人を逮捕しても、東京の街はよくなっているのかという疑問と、無力感が、若い日下を悩ませるのだ。
感想
本作は、それぞれ草津温泉、熱海温泉、紀伊勝浦温泉、伊豆長岡温泉が舞台となった4つの短編集である。いずれも、旅情とサスペンスが”効いた”秀作であった。
一つだけ挙げるとすれば、「愛と死 草津温泉」だろうか。
チンピラ男に孕まされ、亡くなってしまった親友を思う気持ちが殺人事件に発展してしまった悲しい事件である。
犯人を逮捕した十津川警部の、人情あふれる対応が秀逸だった。
「私はね、男と女、どちらが悪いと決めつけたことはないが、今度の事件については、全く男の方が悪いと思っている。死者に鞭打つ気はないが、殺された浜口が、自分で殺される原因を作ってしまったと、私は思う」
例え刑事の立場であっても、人間味を忘れないからこそ、多くの共感が集まるのであろう。
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