初版発行日 2004年12月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
函館新撰組、蝦夷共和国、箱館戦争。明治維新の歴史をなぞらえた、企業内戦争の物語。
あらすじ
東京・四谷のウィークリーマンションで、ひとりの男性の刺殺体が発見された。床には<ゴリョウカクト>という血文字のダイイングメッセージが……。被害者はIT産業の技術者で、函館に会社設立を計画する「函館新撰組」の中心人物だった。彼が遺した言葉の意味と事件の真相を、十津川は解き明かせるか。
小説の目次
- ダイイングメッセージ
- 捜索願
- 刺す
- 作並温泉
- 明と暗
- 逆上陸
- 終焉の地・函館
小説に登場した舞台
- 湯の川温泉(北海道函館市)
- 函館空港(北海道函館市)
- 函館市街(北海道函館市)
- 五稜郭(北海道函館市)
- 競馬場前駅(北海道函館市)
- 碧血碑(北海道函館市)
- 伊豆下田(静岡県下田市)
- 堂ヶ島(静岡県・西伊豆町)
- 戸田(静岡県沼津市)
- 作並温泉(宮城県仙台市青葉区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
その他の警察関係者
- 浅野:
品川警察署の刑事。 - 原田:
宮城県警捜査一課の警部。 - 鈴木:
北海道警の警部。
新北洋エレクトロニック(函館の新会社)
- 近藤英輔:
30歳。四谷三丁目のウィークリーマンションで死体として発見される。 - 朝倉隆:
50歳。新北洋エレクトロニックの社長。北洋エレクトロニックで部長を勤めていた。 - 塩田良:
新北洋エレクトロニックで副社長。 - 木下明:
新北洋エレクトロニックの社員。 - 吉川:
新北洋エレクトロニックの社員。 - 林麻美
新北洋エレクトロニックの社員。近藤英輔と交際していた。 - 安田正和:
新北洋エレクトロニックの社員。行方不明になる。 - 平田啓介:
28歳。新北洋エレクトロニックに参加する予定だったが、行方不明になる。 - 新田:
新北洋エレクトロニックの若手社員。
北洋エレクトロニック(東京の本社)
- 小林:
北洋エレクトロニックの広報部長。 - 佐々木:
北洋エレクトロニックの社員。平田啓介の大学時代からの同期。
その他の登場人物
- 横山:
S大学の助教授。新撰組について研究している。 - 川野奈美:
平田啓介と交際していた女性。 - 塩田亜希子:
塩田良の妻。 - 太田:
函館の建築事務所の社長。 - 長谷川:
函館の木工工場の社長。 - 小野:
函館の電気関係の社長。 - 前田:
函館の鉄骨屋の社長。 - 竹村:
函館の家具メーカーの社長 - 桜井:
M銀行函館支店の支店長。 - 金石:
桜井と交代でM銀行函館支店の支店長になった男。 - 永谷弁護士:
函館の永谷法律事務所の弁護士。 - 田島:
函館の新聞社のデスク。
個人的メモ
- 十津川警部と亀井刑事は、重要なことを聞くとき「もう一度確認しますが、」ともう一度確認する。読者に重要なことだとわからせる工夫をしている。
- 榎本武揚、土方歳三、相馬主計、沢忠輔、永倉新八、島田魁。函館新撰組を自分たちになぞらえる。
総評
本作に興味を惹く一節があった。
「十津川にも、その気持は、わからないではなかった。彼だって、生まれてから四十年。いろいろと挫折を味わったこともあるし、人生そのものに悩んだこともある。
そんな時、仕事をするのが辛くて、房総の海岸や、遠い沖縄の海に行って、一日中、海を見つめていたこともある。海を見つめていたからといって、何か答えが、出るわけでもない。それはわかっているのだが、なぜか、そうしていたかったのだ。山が好きな人間なら山に登るだろう。そして、山と向かい合う。」
これは十津川警部が失踪した平田啓介について考察した一節である。「人は人生に悩むと、なぜか自然を見に行きたくなるものだ」ということである。
わたし自身、納得の考察である。では、なぜ人は人生に悩むと旅に出るのか?
その理由は3つあると思う。
1つ目は、「景色を変える」ということである。
毎日の生活で同じルーティーンを続けていると、どうしても同じ景色ばかり見てしまう。人生に行き詰まったと感じたときは、景色を変えることで、新しい発想を得たいという欲求の現れなのだと思う。
2つ目は、「あるべき環境への回帰」である。
人生に迷いが生まれて、旅に出たいと思うのは、都会人が多い。都会人は普段、殺伐としたコンクリートジャングルに囲まれて、生活している。人も多い。圧迫感がある。ストレスがたまる。
人間は本来、自然に囲まれて生活してきた。周囲に自然があるのが”自然”なのだ。都会人は普段、人間にとって”不自然”な生活をしている。
だから、人生に疲れたとき、人間が本来あるべき環境に戻りたいと本能的に感じるのだ。自然の中で自分を取り戻したいと思うのだ。
3つ目は、「記憶の追想」だ。
人生の帰路に立たされたとき、人は”思い出のあるあの場所”に行きたいと思うものだ。それは、自分が美しいと感じた場所であるかもしれない。若き日の青春の日々を送った場所であるかもしれない。大切な人と大切な時間を過ごした場所であるかもしれない。
素晴らしい思い出のある場所にもう一度行くことで、素晴らしかったときの感情をもう一度自分に蘇らせたいという欲求なんだと思う。
今回紹介した一節はミステリーの本筋ではない。しかし、十津川警部シリーズには、人生の深い考察がたびたび登場する。こうした一節に思いを馳せながら読むのも、面白い。
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