初版発行日 1990年11月25日
発行出版社 角川書店
スタイル 長編
私の評価
【POINT】
「有明」に残された最後のメッセージとは?多すぎる容疑者、見えてこない動機。十津川警部のいらだちがつのる。
「有明」に残された最後のメッセージとは?多すぎる容疑者、見えてこない動機。十津川警部のいらだちがつのる。
あらすじ
有明海三角湾で東京在住の画家大田垣信也が水死体で発見された。熊本県警は他殺とみて警視庁に応援を求めた。大田垣最後のメッセージ「有明に行く」を手がかりに十津川と亀井の捜査が進む。画家仲間に起こる第2の殺人、和服の女性を描く1枚の謎の絵……。
小説の目次
- 画家の死
- 九州再訪
- 西海岸
- 容疑者たち
- 過去への旅
- 罠を張る
冒頭の文
有明海は、熊本、島原あたりになると、島原湾と、名前が変るが、遠浅の海であることに、変りはない。
小説に登場した舞台
- 羽田空港(東京都大田区)
- 福岡空港(福岡県福岡市博多区)
- 西鉄福岡駅(福岡県福岡市中央区)
- 西鉄柳川駅(福岡県柳川市)
- 松月乗船場(福岡県柳川市)
- 鶴味噌醸造(福岡県柳川市)
- 柳川藩主立花邸 御花(福岡県柳川市)
- 北原白秋生家・記念館(福岡県柳川市)
- 鳥栖駅(佐賀県鳥栖市)
- 肥前鹿島駅(佐賀県鹿島市)
- 祐徳稲荷神社(佐賀県鹿島市)
- 嬉野温泉(佐賀県嬉野市)
- 阿蘇くまもと空港(熊本県・益城町)
- 高知龍馬空港(高知県南国市)
- 松崎(静岡県・松崎町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 三浦:
熊本県警の刑事。 - 白木:
熊本県警の警部。 - 本橋:
松崎警察署の巡査。
事件関係者
- 太田垣信也:
58歳。画家。世田谷区駒沢の豪邸に在住。三角湾近くで水死体となって発見された。 - 後藤功:
54歳。画家。国立市内のマンションに在住。太田垣信也の親友。国立の雑木林で死体となって発見された。 - 生方治郎:
当時38歳。世田谷区内でスーパーを営む。3年前、伊豆の堂ヶ島近くで太田垣信也が運転する車に轢かれて死亡した。 - 生方あけみ:
生方治郎の妻。旧姓沢木あけみ。高知出身。 - 生方亜矢:
生方治郎の娘。 - 緒方哲二:
画家。太田垣信也と後藤功の友人。 - 平松貢:
画家。太田垣信也と後藤功の友人。 - 大西広行:
画家。太田垣信也と後藤功の友人。 - 黒田信夫:
新宿東口に事務所をかまえる画商。太田垣信也と後藤功の友人。 - 山崎浅治:
59歳。国立にある山崎医院の院長。太田垣信也と後藤功の友人。 - 広瀬とおる:
荻窪にある喫茶店「グロリア」の店主。太田垣信也と後藤功の友人。
その他の登場人物
- 太田垣宏美:
太田垣信也の娘。絵の勉強でパリに留学中。 - 広沢:
画家。 - 後藤敬子:
後藤功の妻。別居中。 - ツネ子:
嬉野温泉にある旅館「うれしの」の女将。 - 新保けい子:
生方亜矢が通っていた小学校の教師。 - 中川敬子:
生方亜矢の大学時代の親友。 - 前田:
高知市内にある沢木旅館の主人。生方あけみの両親の親戚。 - 磯崎:
有明海の鹿島近くにある療養所の医師。生方あけみの叔父。 - 広田宗男:
50歳。生方治郎のあとを継いで、スーパーの社長になった男。 - 崎田実:
生方治郎の叔父。新宿にあるレストランを経営。三鷹の豪邸に在住。 - 安田:
銀行の監査役。山崎浅治の隣家。 - 黒田みどり:
黒田信夫の娘で秘書。
感想
本作は、有明海の旅情あふれるトラベル・ミステリーの王道作品だったと思う。
川下りで有名な柳川の町を十津川と亀井が川下りをしながら巡ったり、嬉野温泉を訪れたりした。このシーンの情景描写が秀逸であった。
事件については、二人の画家が殺され、容疑者はこの二人の画家と親しい6人。だが、6人ともアリバイがあり、はっきりとした動機が見えてこない。そのため、事件の終盤まで捜査はかなり難航していた。
殺人の動機を解明することがカギを握るのだが、これは心理的なミスリードというか先入観が働き、事件の真相を見誤ってしまうところが面白い。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておこう。
取材で、有明海に行った時、丁度、潮が引いて、一面に、暗い、泥の海に変わっていた。その広さは、素晴らしいというより、異様な景色に見えた。私が、ミステリイ作家のせいか、眼の前の泥の海の中に、いくつもの死体が沈んでいるような幻想にとらわれたのを覚えている。それが、帰りの時には、また、平穏な普通の海に戻っていた。その変化が、この作品のヒントである。
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