初版発行日 1999年2月10日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 短編集
私の評価
コンビニに響いた銃声ーそれは復讐の始まりだったー。容疑者の拳銃を見た十津川警部は雪原を駆けた!
あらすじ
1.最上川殺人事件
元精密機器メーカーの社長・合田徹が、最上川で溺死した。現地の警察は、事故死としたが、娘の可奈子は、事故死に納得がいかず、一人で調べ始める。一方、東京・四谷で私立探偵が殺害された事件が発生。十津川班が事件の捜査に乗り出す。最上川の事件と四谷の事件が、繋がっていることがわかり、事件は意外な展開を迎える。
2.日高川殺人事件
短編集「日本縦断殺意の軌跡」に収録。下記を参照↓↓
→「日本縦断殺意の軌跡」
3.長良川殺人事件
短編集「東海道殺人エクスプレス」に収録。下記を参照↓↓
→「東海道殺人エクスプレス」
4.石狩川殺人事件
都内のコンビニエンスストアで殺人事件発生。殺された学生アルバイトには、北海道で暴行事件を起こして少年院に送られていたという前科があったー。手掛かりを求め十津川警部と亀井刑事は、北海道・層雲峡へ向かう。十津川と亀井の前に、暴行事件の共犯者を付け狙う、犯人の姿が現れるー。
小説に登場した舞台
1.最上川殺人事件
- 庄内空港(山形県酒田市)
- 最上川(山形県酒田市)
- 古口駅(山形県・戸沢村)
- 最上峡芭蕉ライン観光(山形県・戸沢村)
- 草薙温泉(山形県・戸沢村)
- 秋保温泉(宮城県仙台市太白区)
- 鬼怒川温泉(栃木県日光市)
- 竜王峡(栃木県日光市)
- 宇都宮駅(栃木県宇都宮市)
2.日高川殺人事件
短編集「日本縦断殺意の軌跡」に収録。下記を参照↓↓
→「日本縦断殺意の軌跡」
3.長良川殺人事件
短編集「東海道殺人エクスプレス」に収録。下記を参照↓↓
→「東海道殺人エクスプレス」
4.石狩川殺人事件
- 旭川空港(北海道旭川市)
- 旭川平和通商店街(北海道旭川市)
- 常盤公園(北海道旭川市)
- 石狩川(北海道旭川市)
- 旭橋(北海道旭川市)
- 旭川駅(北海道旭川市)
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- 層雲峡(北海道・上川町)
登場人物
1.最上川殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 木村:
酒田警察署の刑事。 - 池田:
世田谷署の刑事。 - 合田徹:
元精密機器メーカーの社長。最上川で溺死した。 - 合田可奈子:
合田徹の娘。翻訳の仕事をしている。 - 合田明江:
合田徹の妻。1年前、自動車に轢き逃げされ死亡。 - 合田琢:
合田徹の弟。精密機器メーカーの社長。 - 中条修:
42歳。四谷に事務所を構える私立探偵。事務所で死体となって発見された。 - 後藤秀:
最上川峡芭蕉ライン観光の広報担当。 - 久保正:
外車販売会社の営業。中条修の私立探偵の仕事を手伝っていた。 - 平野肇:
35歳。外車販売会社の営業。中条修の私立探偵の仕事を手伝っていた。自宅から転落死する。 - 桜田要:
45歳。エッセイスト。杉並区永福町に在住。 - 千鶴:
秋保温泉の芸者。
2.日高川殺人事件
短編集「日本縦断殺意の軌跡」に収録。下記を参照↓↓
→「日本縦断殺意の軌跡」
3.長良川殺人事件
短編集「東海道殺人エクスプレス」に収録。下記を参照↓↓
→「東海道殺人エクスプレス」
4.石狩川殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 吉田:
北海道警の刑事。 - 三浦:
北海道警の警部。 - 原田健二:
20歳。大学生。3年前、小田切まゆみ暴行で少年院に送られた。府中市内にあるアルバイト先のコンビニで何者かに射殺される。 - 木下健:
23歳。フリーター。原田健二殺害現場に居合わせたカップル。 - 白石めぐみ:
23歳。フリーター。原田健二殺害現場に居合わせたカップル。 - 小田切まゆみ:
当時17歳。旭川のろう学校に通っていた。3年前、原田健二らに暴行された後、層雲峡で死体となって発見された。 - 小田切章子:
小田切まゆみの母親。旭川市内で喫茶店を営んでいたが、2年前に自殺した。 - 橋本文夫:
20歳。札幌市内に住むフリーター。3年前、小田切まゆみ暴行で少年院に送られた。 - 中山弘史:
20歳。帯広市内に在住。3年前、小田切まゆみ暴行で少年院に送られた。 - 小林:
旭川市内のろう学校の教師。小田切まゆみの担任だった。 - 近藤肇:
50代。旭川市内のアパートに在住。かつてレストランのオーナーだった。 - 八代勇太郎:
札幌市内にあるフラン料理店「オーロラ亭」の店主。近藤肇の親戚。 - 片桐由美:
21歳。中山弘史の恋人。
印象に残った名言、名表現
(1)最上川下り。
舟は、桟橋を離れ、川の中流に向う。東北を代表する川だけに、川幅は広い。水量も多く、流れも早い。舟は下流に向って、滑るように、進む。船頭は、客扱いに慣れている感じで、駄洒落を連発して、笑いを誘い、対岸の景色を説明し、その中に、最上川舟唄を、歌い出した。
(2)警視庁捜査一課の刑事だからこそ言える言葉。
「最初から、人殺しの人間なんていません。ある日、突然、人を殺すことになるんです」
感想
今回は、最上川、日高川、長良川、石狩川と、川がテーマになった4つの短編集である。
いずれも劣らぬ秀作であったが、一番の推しは、やはり表題になった「石狩川殺人事件」であろう。
生きる気力を失っていた50代の男が、一人の少女に出会い、彼女との精神的な交流を通じて、希望と生きがいを見出していった。だが、3人の馬鹿な若者によって、少女は死んでしまう。少女の唯一の肉親だった母親も自殺してしまう。
若者は、未成年だったため、たった半年間、少年院に留置されただけであった。すべてを奪われた男の怒りは、いかほどのものだったのか。
現代の日本においても、こうした未成年の事件に対する法律には、大きな問題を抱えている。1988年に起きた足立区の女子高生殺害事件は、その最たる例であろう。
死刑になるべき残酷な犯罪を犯した男たちが、未成年というだけで、厳罰に処されなかったのである。
しかし、これが法律なのである。法律ではこれ以上、裁けないのである。
法律側にいる刑事の十津川警部も、今回の事件に対しては、やり切れない思いを抱えており、作中で次のように表現されていた。
人の命は、全て平等だという言葉を、十津川は信じていない。
もちろん、理屈としては、平等と思うし、刑事としては、そう信じて、行動しなければならない。
だが、一人の個人として考えた時、人間の生命が、同じように尊いとは、とても思えない。
層雲峡で死んだ十七歳の小田切まゆみと、彼女を暴行し、死に追いやった三人の若者の生命が、どうして、平等だといえるのか。三人の生命をプラスしても、小田切まゆみ一人に劣るだろう。
十津川警部の葛藤や正義感、少女を失った男の深い悲しみを、この作品はよく描いているのである。
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