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十津川警部「家族」感想レビュー。あらすじ、舞台、登場人物

家族小説

初版発行日 2003年9月10日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編

POINT】
弟は人殺しなのか?部下の刑事が退職願をおいて失踪。部下を信じたいと思い悩む十津川警部。単純な事件の陰からやがて姿を見せる<黒い悪意>
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あらすじ

警視庁の田中刑事が突然、辞表を残して姿を消した。飲酒運転で人をはね、死体を奥多摩湖に埋めた弟を守るためだった。部下の苦境を掴んだ十津川警部が対処に苦悩する一方、田中は追い詰められていた。兄弟の実家を監視する謎の男が出現。さらに埋めたはずの死体が消失していたのだ!上層部から田中逮捕の圧力がかかる中、部下を信じる十津川の推理は?単純に見えた事件の陰から、やがて貌を現わした黒い悪意とは?

小説の目次

  1. ある刑事の辞表
  2. 崩壊拒否
  3. 目撃者
  4. 消失
  5. 展開
  6. 死体を探せ
  7. 最後の戦い

小説に登場した舞台

  • 小田原駅(神奈川県小田原市)
  • 小田原城址公園(神奈川県小田原市)
  • 小田原税務署(神奈川県小田原市)
  • 鴨宮(神奈川県小田原市)
  • 羽村(東京都羽村市)
  • 奥多摩(東京都・奥多摩町)
  • 戸田漕艇場(埼玉県戸田市)
  • 三浦半島(神奈川県・葉山町)

登場人物

警視庁捜査一課

  • 十津川省三:
    警視庁捜査一課の警部。主人公。
  • 亀井定雄:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。
  • 西本明:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 日下淳一:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 北条早苗:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 三田村功:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 片山明:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 本多時孝:
    警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
  • 三上刑事部長:
    刑事部長。十津川警部の上司。

事件関係者

  • 田中大輔:
    十津川警部の部下で警視庁捜査一課の刑事。突然、辞表を置いて失踪する。
  • 田中伸男:
    24歳。田中大輔の弟。「タナカ蒲鉾店」の営業部長。
  • 田中専造:
    田中大輔の父親。タナカ蒲鉾店の社長。
  • 田中文子:
    田中大輔の母親。
  • 田中あすか:
    田中大輔の妹。来年、市の助役と結婚する予定。
  • 脇田加代:
    田中伸男の大学時代の友人。フリーター。S大学でミスキャンパスに選ばれたことがある。
  • 早川由紀:
    立川の女子大生。N大学の国文科の3年生。徳島生まれ。
  • 川上良祐:
    30歳。フリーター。
  • 大下:
    代議士。徳島出身。厚生労働委員会の委員。
  • 武井清:
    武井製薬の取締役。社長の息子。
  • 八木正明:
    大下代議士の秘書。32歳。

その他の登場人物

  • 今井真美:
    田中大輔の大学の後輩で彼女。
  • 佐々木修:
    田中伸男の大学時代の友人。
  • 永井みゆき:
    田中伸男の大学時代の友人。
  • 十津川直子:
    十津川の妻。
  • 尾山:
    小田原警察署の刑事。
  • 田口:
    中央新聞社の記者。十津川の大学時代の同級生。
  • 早川夕子:
    早川由紀の母親。
  • 松島:
    文楽振興会の事務局長。
  • 玉木:
    向島に三代続く人形師。

印象に残った名言、名表現

(1)十津川の人間性の一端がわかる一節。

上司には、二通りの種類がある。部下のことを、何から何まで知ろうとする上司と、ある程度以上には、部下のプライバシーに踏み込まない上司である。どちらがいいとはいえない。一長一短である。十津川は後者の方だった。

(2)田中大輔が母の言動を見て、思い出したことば。

母親というのは、子供を守るために、ある時は菩薩にもなるし、ある時は悪魔にもなる

(3)十津川警部が部下に言ったことば。

「田中にしてみたら、必死になって、自分の家族を、かばおうとしているんだ。それを、私は、わかってやりたいと、思うね」

(4)十津川の田中刑事に対する思い。

田中刑事は、自分の大事な部下である。どうにかして、彼を、かばってやりたい。何か一つぐらい、かばってやれる理由が、あるのでは、ないだろうか

総評

本作の主人公は、十津川警部の部下・田中大輔刑事。

彼は十津川班に所属している刑事だだ、シリーズに毎回登場する常連ではない。常連は、十津川、亀井、西本、日下、三田村、北条早苗である。変な言い方をすれば、彼らが”一軍”である。

田中大輔はコンビを組む片山明とともに登場するが、毎回ではない。登場したとしてもチームの一人としての扱いであり、その存在が大きくクローズアップされることは少なかった。変な言い方をすれば、影の薄い”二軍”であった。

今回は、そんな田中大輔刑事が主役である。

大学時代はラグビー部だった彼は、身長180センチ、体重80キロの大柄な体型。恵まれた身体を活かした突破力が武器の刑事。直情径行で責任感が強く、それでいて普段は温厚という、彼の人となりがよくわかる作品になっている。

自分が愛する家族が事件を起こしてしまった。刑事である田中大輔は、その事件がどんなものであるか想像がつく。刑事としてどんな振る舞いをすべきかも理解している。

しかし、彼は刑事である前に人である。どんなことがあっても、愛する家族を守りたい。その一心で警察組織を飛び出す。たとえ自分が犯罪に手を染めようとも、家族を守るために行動する。

十津川警部も、田中大輔の思いが痛いほどよくわかる。だから、何とかして助けたい。もちろん、亀井をはじめ、十津川班のメンバーは同じ思いで動く。

田中大輔の思いと、十津川班の思い。この二つが重なったとき、事件は大きく動き出す。

最後に、この作品について、西村京太郎先生のことばを紹介する。

当たり前の話だが、刑事にも家族がある。妻子がいる場合もあれば、きょうだい、両親ということもある。

もし、その家族の一人が、刑事事件を起こしたら、当の刑事は、どうするだろうか。冷静に、その家族のことは第三者に委せ、自分は、動かず、上司の指示を仰ぐのが賢明だが、人間は、理屈では動かず、往々にして、情で動いてしまうものである。当の刑事が、優しい心の持ち主であればあるほど、情に流されてしまう筈なのだ。

この作品でも、自分の家族の一人が、刑事事件を起こしてしまった、生真面目な刑事が主人公である。彼が、どう行動するか、見守って頂きたいと思います。

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