初版発行日 1994年7月30日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編
私の評価
罠をしかけた敵はあそこだ!?十津川は国会議事堂を睨む。殺人事件の点と線、秘密クラブの謎を解きつつ現代の犯罪に挑む!
あらすじ
奇妙に妖しい女だ。かつて十津川の部下だった私立探偵・橋本は渓谷美で名高い祖谷で、依頼人から「直接渡してくれ」と預かった五百万円をその女に手渡したが、翌日ホテルの部屋で彼女は殺されていた……。いったい何があったのか?
小説の目次
- 雨の祖谷かずら橋
- 東京の夜
- 解明への旅
- 会員たち
- 罠をかける
- ビジネスホテル七〇一号
- 淡路洲本温泉
冒頭の文
七月十五日。
土讃線を阿波池田で降りる頃から、雨になった。今年は、やたらに雨が多い。ここ四・五日、ほとんど雨である。
小説に登場した舞台
- 阿波池田駅(徳島県三好市)
- 祖谷(徳島県三好市)
- 大歩危(徳島県三好市)
- 小歩危(徳島県三好市)
- 特急南風
- 瀬戸大橋(岡山県倉敷市)
- 岡山駅(岡山県岡山市北区)
- 高円寺(東京都杉並区)
- 新大阪駅(大阪府大阪市淀川区)
- 十三(大阪府大阪市淀川区)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 明治神宮外苑(東京都新宿区&港区)
- 奥湯河原(神奈川県・湯河原町)
- 強羅(神奈川県・箱根町)
- 芦ノ湖(神奈川県・箱根町)
- 仙石原(神奈川県・箱根町)
- 高井戸駅(東京都杉並区)
- 徳島阿波おどり空港(徳島県・松茂町)
- 大鳴門橋(徳島県鳴門市)
- 洲本温泉(兵庫県洲本市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
四谷の秘密クラブ「夢園」
- 岸田由美:
30歳。十三にある「クラブ・夢園」と四谷にある秘密クラブ「夢園」のママ。祖谷のKホテルで死体となって発見された。 - レイコ:
池袋の女王様。四谷の秘密クラブ「夢園」のホステスをしていた。目白のマンションに在住。京王多摩川の川原で死体となって発見された。 - みほ:
秘密クラブ「夢園」のホステス。 - 加代子:
秘密クラブ「夢園」のホステス。 - 秀美:
秘密クラブ「夢園」のホステス。 - 冴子:
秘密クラブ「夢園」のホステス。 - 竹内恵:
24歳。秘密クラブ「夢園」のホステス。鶯谷のホテルで死体となって発見された。 - 水島みずほ:
秘密クラブ「夢園」のホステス。竹内恵の友人。 - 山崎豊:
新宿西口に本社のある山崎製菓の社長。秘密クラブ「夢園」の会員。 - 小柳弘:
タレント。秘密クラブ「夢園」の会員。 - 井上秀夫:
Y建設社長。世田谷区成城に在住。秘密クラブ「夢園」の会員。 - 野上憲太郎:
52歳。政務次官。秘密クラブ「夢園」の会員。 - 細野建:
新宿東口にある細野美容整形の院長。秘密クラブ「夢園」の会員。 - 柳:
新橋に画廊のある画家。秘密クラブ「夢園」の会員。 - 浜野:
警視庁総務部の警部。秘密クラブ「夢園」の会員。
事件関係者
- 橋本豊:
私立探偵。元警視庁捜査一課の刑事で、十津川警部の元部下。 - 小池保男:
以前、野上憲太郎の個人秘書をしていた男。 - 神田:
以前、野上憲太郎の個人秘書をしていた男。 - 小田邦彦:
36歳。岸田由美が営んでいた十三の「クラブ・夢園」の元マネージャー。大歩危近くで谷に転落した車の中で死体となって発見された。 - 浦田:
フリーライター。
その他の登場人物
- アキ子:
岸田由美が営んでいた十三の「クラブ・夢園」のホステス。 - 長谷部:
新宿二丁目にあるM興業の社長。四谷の秘密クラブ「夢園」が入るビルの管理会社。 - 広瀬:
赤坂にショールームのあるK自動車販売の責任者。 - 関:
元銀行員。池袋界隈の夜の世界に詳しい男。 - 大内:
弁護士。
印象に残った名言、名表現
(1)大歩危小歩危。
吉野川の上流が見える場所に出た。この辺りまでくると、吉野川は川幅は狭く、両側は切り立った断崖になっている。いわゆる大歩危、小歩危の渓谷美である。
(2)十三の街。
十三は、ごたごたした町である。パチンコ屋、ピンクキャバレー、バー、すし屋などが、ひしめいている。
感想
「限られた成功者だけが入れる秘密クラブがある。そこには、極上の美人ホステスがいて、何やら妖しいパーティーが開かれている」
こんなクラブがあると言われたら、興味津々になるのが、男の性。とくに、好色で虚栄心の強い男は、そうだろう。
今回は、この秘密クラブが事件の震源地であった。犯行につながった手口はこうだ。
金のある成功者を秘密クラブに招待する。この秘密クラブでは、極上の美人が接待をする。この秘密クラブには、隠れた個室があり、客とホステスがこの部屋に入り、男女の営みをする。ときには、破廉恥なこともする。
この部屋には、隠しカメラがついていて、客の情事をカメラに収めておき、これをもとに、お金を強請るというやり方であった。
隠し撮りされた客は、地位も名誉も知名度もある者ばかり。こうしたスキャンダルネタに、最も弱い。だから、強請られても抵抗できないのだ。
こんないかがわしい秘密クラブで、いかがわしい恐喝が行われているのだから、当然、殺人事件にも発展していくだろう。
では、どんな事件に発展したのか?それは、本書を手にとって、確かめてもらいたい。
最後に、本書の終盤、十津川警部が、犯人について話していた言葉が、印象的だったので、紹介しておこう。
「正義感の周囲は、世間智だとか、欲望だとか、傲慢さだとかが、どんどんくっついていって、肝心の正義感というやつが、見えなくなるくらいこびりついてしまったんだ。本人は、それに気付かずに今でも自分の正義感は、昔のままだと思い込んでいるのさ」
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