初版発行日 2014年11月15日
発行出版社 実業之日本社
スタイル 短編集
私の評価
東京、旭川、札幌、仙台、南紀白浜、伊豆熱川が舞台にした5つのトラベルミステリー。旅情と哀愁、愛憎がただよう傑作短篇集!
あらすじ
1.北の空 悲しみの唄
短編集「東京-旭川殺人ルート」に収録。下記を参照↓↓
→「東京-旭川殺人ルート」
2.若い刑事への鎮魂歌
警視庁捜査一課の若き刑事、崎田信介が、井の頭公園で何者かに射殺された。その条痕から、去年の夏、北海道で男女二人が射殺されたものと、同じ拳銃が使われていることがわかる。北海道に飛び、捜査を開始した十津川は、事件の裏に、崎田が信じた大学時代の友情があることを知る…。
3.事件の裏で
不眠不休で捜査した難事件がやっと解決し、クタクタになって地下鉄に乗って帰路についていた十津川警部に、一人の若い女性が「相談に乗ってほしい」と話しかけてきた。十津川は、疲れていたので「明日、警視庁に相談しなさい」といった。だが、翌日、その女性が死体となって発見される。殺された女性は、10年前、十津川が警部補時代に担当した、殺された母親の娘だった。当時、その娘に「困ったことがあったら、いつでも相談しにきなさい」と言っていたことを思い出した十津川は、自責の念にかられ、苦悩するー。
4.日高川殺人事件
去年の3月に、何者かに最愛の娘を殺され、天涯孤独になった坂田匡。娘の死後、趣味として始めたアユ釣りの大会を見学するために、龍神温泉へ出かける。が、坂田匡は龍神温泉近くの天誅倉で死体となって発見された。事件を知った十津川警部は、未解決事件になっている娘殺害の犯人と、同一犯と睨み、捜査を開始。そして、坂田匡が、アユ釣りを趣味にした、本当の理由を知る。
5.初夏の海に死ぬ
熱川海岸の砂浜で、ウエットスーツを着た中年の男が、死体となって発見された。だが、この男は去年の10月にヘリコプター事故で亡くなっていた!?捜査に着手した十津川警部は、捜査線上に妻と愛人の二人が浮上する。殺したのは、妻か愛人か?
小説に登場した舞台
1.北の空 悲しみの唄
短編集「東京-旭川殺人ルート」に収録。下記を参照↓↓
→「東京-旭川殺人ルート」
2.若い刑事への鎮魂歌
- 井の頭公園(東京都武蔵野市)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 札幌(北海道札幌市)
- 函館港(北海道函館市)
3.事件の裏で
- 四谷三丁目駅(東京都新宿区)
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
- 宮城刑務所(宮城県仙台市若林区)
4.日高川殺人事件
- 南紀白浜空港(和歌山県・白浜町)
- 龍神温泉(和歌山県田辺市)
- 上御殿(和歌山県田辺市)
- 天誅倉(和歌山県田辺市)
- 熱川(静岡県・東伊豆町)
5.初夏の海に死ぬ
- 熱川海水浴場(静岡県・東伊豆町)
- 東山温泉(福島県会津若松市)
- 石垣空港(沖縄県石垣市)
- 底地ビーチ(沖縄県石垣市)
登場人物
1.北の空 悲しみの唄
短編集「東京-旭川殺人ルート」に収録。下記を参照↓↓
→「東京-旭川殺人ルート」
2.若い刑事への鎮魂歌
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 崎田信介:
28歳。警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。非番の日に、井の頭公園で何者かに射殺される。 - 小池みどり:
25歳。OL。練馬区に在住。崎田信介と親しくしていた。 - 中村千秋:
22歳。大学生。杉並区に在住。崎田信介の大学時代の後輩。 - 串田公子:
26歳。中野区に在住。崎田信介の友人の妹。 - 原田:
S銀行三鷹支店の行員。 - 保坂:
北海道警の警部。 - 堀内啓太郎:
35歳。札幌市豊平区にあるサラリーローン「バロン」の社長。去年の8月に何者かに射殺される。 - 石塚しのぶ:
28歳。「バロン」の副社長。堀内啓太郎の内縁の妻。去年の8月に何者かに射殺される。 - 清川正:
45歳。札幌市内に住むサラリーマン。堀内と石塚射殺事件の目撃者。 - 矢沢健志:
四谷で喫茶店を営む。崎田信介の大学時代の同級生で同じラグビー部だった。 - 島田哲次:
元S大学のラグビー部。崎田信介の友人。 - 島田綾子:
島田哲次の姉。R宝石の社長秘書。崎田信介の大学時代の恋人。3年前、R宝石横浜支店に入った強盗に襲われて死亡。 - 小坂:
M鉄鋼のラグビー部員。島田哲次と大学時代の同級生。
3.事件の裏で
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 小早川圭子:
21歳。銀座にあるサラ金会社「大島商事」に勤めるOL。かつてM銀行四谷支店に勤務していた。自宅で死体となって発見される。 - 松田:
大島商事銀座支店の支店長。社長の親戚。 - 新井英子:
32歳。シングルマザー。小早川圭子の母親。10年前、自宅で殺される。 - 菊池保夫:
新井英子の元夫。サラ金に多額の借金があった。新井英子を殺害した罪で逮捕され、服役中。 - 大田:
宮城刑務所の所長。 - 北原徹:
29歳。宮城刑務所に服役中の男。菊池保夫と同部屋だった。 - 安井:
M銀行四谷支店の支店長。 - 早野和子:
大島商事銀座支店の社員。 - 大島幸雄:
大島商事の社長。
4.日高川殺人事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 坂田匡:
64歳。三鷹にある精密機器メーカー「有田工業」の管理課に勤める会社員。定年間近。趣味は釣り。去年の3月、娘を殺された。 - 坂田はるか:
24歳。坂田匡の娘。R商事の国際第一課に勤務。去年の3月、何者かに首を絞められ殺される。 - 米村:
タクシー会社の社長。坂田匡の釣り仲間。 - 福田真也:
44歳。アユ釣り名人戦の名人。 - 土井寿美:
43歳。アユ釣り名人戦の挑戦者。 - 加東:
30歳。東京在住の釣り人。 - 大野:
龍神村駐在の巡査。 - 木村:
田辺署の警部。 - 吉田:
田辺署の刑事。 - 早川順:
32歳。伊豆の熱川で旅館を営む父親の息子。米村のアユ釣り仲間。 - 三浦信彦:
K大学の助教授。フランス文学専攻。米村のアユ釣り仲間。
5.初夏の海に死ぬ
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 古木:
熱川にある病院の医師。 - 佐伯:
32歳。静岡県警の警部。 - 田島:
練馬区石神井の歯科医。 - 戸田正:
52歳。ヘリコプターの近距離旅客事業会社「アサヒ旅客」の社長。去年の10月にヘリコプターの事故で亡くなったとされていた。 - 戸田志津子:
戸田正の妻。 - 川合やよい:
会津若松でホテルを営む。戸田志津子の短大時代の友人。 - 中井由美:
28歳。ハワイ生まれ。アサヒ旅客の元秘書。戸田正の愛人だった。 - 西尾博:
戸田志津子の甥。東京で私立探偵をしている。
印象に残った名言、名表現
(1)学生時代の友情は、社会人になると、往々にして続かない。
「大学時代というのは、それぞれの生活に差は少ないし、毎日のように会っているから、友情が保たれる。しかし、卒業したあとは、生活がそれぞれ違う。ノーマルな生活をしている奴は、同じ友情を持ち続けやすいだろう。だがな、悲惨な、苦痛に満ちた生活をしている奴は、同じ友情は持ち続けられなくなってくる。友情なんて、甘っちょろいものに、すがれなくなるんだ。」
(2)被害者遺族にとっては、逮捕されても、事件は終わらない。
一応、犯人は逮捕され、事件は解決したが、あの少女が、これから、どうなっていくのかを考えたら、乾杯など出来はしない。多分、あの子は、一生、眼の前で、両親と兄を殺された光景を忘れられないだろう。それでも、強く育ってくれるだろうか、それとも、駄目な人間になってしまうか、十津川にもわかりはしない。
(3)十津川と亀井の、いつものスタイル。
亀井は、コーヒーを飲む。十津川は、煙草に火をつける。問題にぶつかった時のいつものスタイルだった。
感想
本作は、東京、旭川、札幌、仙台、南紀白浜、伊豆熱川を舞台にした5つの短編集である。
それぞれ、短編集とは思えないほどの、熱量で書かれた力作である。どの作品にも人間ドラマが描かれており、話を膨らませれば、長編にできたのではないか?と思えるほどである。
甲乙つけがたい5作品であるが、個人的な最優秀作品は、「事件の裏で」である。
本作はのあらすじはこうだ。
10年前、十津川が警部補の頃、シングルマザーだった実の母親を殺された一人の少女がいた。しかも、母親を殺した犯人は、実の父親だったという悲しい事件である。
母親が殺され、父親は殺人犯で刑務所に入ってしまった、娘の少女に、十津川は「何か困ったことがあったら、相談してきなさい」と話していたのだ。
もちろん、現在の十津川は、その助言が、無責任であることを知っている。
殺人事件では、必ず犠牲者が出る。殺された被害者の家族も苦しむが、犯人の家族も、時には、被害者の家族以上に、苦しむことになる。それに、いちいち、力になってやるといっていたら、身体が、いくつあっても足りないだろうし、無責任というものだ。
だが、当時の十津川はまだ30歳。若い。刑事になって6年目の警部補である。
若さゆえの青臭い同情心で、つい、「力になる」と話してしまったのである。もちろん、十津川は、10年前に言った言葉を忘れていた。だが、当時11歳の少女は、その言葉を覚えていた。そして、十津川に頼ろうとしていたのだ。
しかし、その事を忘れていた十津川は、彼女の相談を断った結果、彼女は殺されてしまう。
自責の念にかられた十津川は苦悩する。その思いを十津川は、次のように話している。
「地下鉄の車内で、私に、話しかけて来た小早川圭子の顔が、眼の前にちらついて仕方がないのです。私は、彼女を助けてやれませんでした。十年前に、助けてやると約束したのにです」
事件解決を誓った十津川は、執念の捜査を開始する、という内容である。
母親を殺された犯人を探していた娘の執念、それでも殺された娘の無念、守ってやることができなかった十津川の自責と悔恨の念。
それぞれの思いが交錯した、悲しい事件。短編作品の中でも、上位に入る作品だと思う。
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