初版発行日 2013年9月10日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編
すったもんだで大騒ぎした八ッ場ダムが舞台。利権と感傷がからみあう長編ミステリー!
あらすじ
東京で弁護士が射殺された。一週間前、静岡で毒殺されたコンビニ経営者夫婦がこの弁護士の名刺を所持していたと判明。さらに十津川警部は、2週間前に長野で起こった刺殺事件に注目した。いずれも水曜日に発生していたのだ。しかし十津川は、各事件を無関係とする上司と対立、窮地に陥る。やがて、被害者たちが吾妻線沿線の出身と判明、闇社会の大物の名も浮上し……。
小説の目次
- 三つの事件
- 川原湯温泉
- ファンクラブ
- 別の関係
- 真相を追って
- 最後の疑問
- 私の吾妻線
小説に登場した舞台
- 隅田公園(東京都墨田区)
- 飛騨高山(岐阜県高山市)
- 長野市役所(長野県長野市)
- 特急「草津」
- 長野原草津口駅(群馬県・長野原町)
- 八ッ場ダム(群馬県・長野原町)
- 川原湯温泉駅(群馬県・長野原町)
- 軽井沢(長野県・軽井沢町)
- 長野市内(長野県長野市)
- 大前駅(群馬県・嬬恋村)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
その他の警察関係者
- 小山:
静岡県警捜査一課の警部。 - 佐伯:
長野県警の警部。 - 島田ななみ:
警視庁専属のカメラマン。鉄道ファン。
事件関係者
- 磯村圭吾:
40歳。城山法律事務所に所属する弁護士。隅田公園で銃殺される。 - 原田清之:
52歳。静岡市清水区内でコンビニを経営している。何者かに毒入りワインを飲まされ死亡。 - 原田敏江:
48歳。原田清之の妻。何者かに毒入りワインを飲まされ死亡。 - 横山弥生:
30歳。長野市内の飲み屋「のみすけ」の従業員。路地で何者かに刺され死亡した。 - 大河内昭:
都内で経営コンサルタントを営んでいる。八義建設連合の社長。60歳。 - 川口健一:
八義建設連合に所属していたが、大河内昭に反旗を翻し退職する。 - 村田悟:
八義建設連合に所属していたが、大河内昭に反旗を翻し退職する。 - 野々村大輔:
八義建設連合に所属していたが、大河内昭に反旗を翻し退職する。 - 緑川恵子:
新宿のクラブで働くホステス。野々村大輔と交際している。
その他の登場人物
- 城山聡:
60歳。城山法律事務所の所長。 - 鈴木:
長野市役所戸籍係の担当者。 - 田口:
中央新聞の社会部に所属している。十津川警部の大学時代の同級生。 - 佐々木:
中央新聞の記者。八ッ場ダムの取材をしている。 - 金子雅之:
30歳。群馬県から上京し中野のコンビニで店長をしている。 - 沢田喜美:
30歳。横山弥生と親しかった女性。 - 蛭田健吉:
吾妻線ファンクラブの責任者。
印象に残った名言、名表現
■八ッ場ダムに行って捜査することを反対した三上本部長に対し、それでも現地に行くと主張した十津川警部のことば。徹底した現場主義であることが垣間見れる。
「いや、向こうに行けば、何かが、分かるに違いないと、私は、期待しているんです。」
総評
本作は、八ッ場ダムと園周辺をはしる吾妻線が舞台になっている。
八ッ場ダムは、1952年に計画が発表され、民主党政権時代の事業仕分けで2009年に工事が中止。その後、2011年に工事の再開が決定され、2013年から実際に工事が再開された。2019年3月にはコンクリート打設が完了し、その後試験運用。2020年4月から本稼働している。
八ッ場ダム建設の目的は、当初は治水、次に利水(飲料水や工業用水確保のため)目的が追加になり、最後に発電目的が追加されました。すったもんだしたことで、八ッ場ダムの事業費は5,320億円に膨らみ、当初計画の2.5倍もの費用がかかってしまった。
これだけのお金が動いた大事業なので、当然、利権があり、この利権に群がる輩が次々と湧いてくる。国の保証金目当てに川原湯温泉に引っ越してくるもの、土地の買い占めをするもの、建設利権を狙うもの。
それとは逆に、いままでの吾妻線をそのままにしてほしいと願う人たちもいた。
八ッ場ダム建設に際し、吾妻線の路線が移動されてしまったり、駅が消滅するという噂もあった。(実際、川原湯温泉駅は移設され、岩島~川原湯温泉~長野原草津口間の約10kmを新しいルートの線路に付け替えられた。)
現地に住む人びとは、自分が生まれ育った美しい景色が消滅してしまうことに対する悲しみや怒りも合った。そんな人々のひとりに、被害者となった横山弥生がいた。
「今のままの、吾妻線が好きなのだ。今のままの駅舎で、満足なのだ。巨大なダム湖の縁を、遠慮がちに走るような、そんな吾妻線では、困るのだ」
「吾妻線は、春は、満開のサクラの花の中を、五月には、緑の中を、今の時期は、紅葉の中を、走るべきなのだ。決して、ダムの縁を、走るべきではない。」
上記の一節は、消えゆく故郷への思い、変わってしまう吾妻線に対し、横山弥生が寄稿した記事の一節である。
事件は、八ッ場ダムの利権と、それに翻弄された現地の人との間で、起こった。ここから先を明かすことは出来ないが、中止から再開が決定された八ッ場ダムについて、人々がどのように考えていたのか?2013年当時の状況がわかる書籍にもなっている。
個人的な感想としては、八ッ場ダムの利権がらみの情報が少々多すぎて、トラベルミステリー本来のロマンに欠ける作品になってしまったと感じている。事件の解決も、西村京太郎先生にしては珍しく、最後にドタバタした印象がある。
本作についてどのように感じるか?は人それぞれである。ぜひあなたも一読してその感想を聞かせてほしい。
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