初版発行日 2010年12月25日
発行出版社 小学館
スタイル 長編
私の評価
すべては、武芸の神を祀る鹿島神宮から始まった。平成の巷を襲う連続人斬り殺人!
あらすじ
古来、”鹿島立ち”という言葉がある。関東武士が防人として九州へ旅立つ前に鹿島神宮で祈りを捧げたことに由来する。鹿島神宮は常陸国一の宮で武芸の神、武甕槌神を祀る。物語は、現職の刑事横井哲が全国剣道大会で優勝、祈願のお礼にと木刀を鹿島神宮に奉納したことから始まる。横井は鹿島臨海鉄道に乗り故郷水戸へ出向き、そこで殺人事件に巻き込まれる。舞台は一転、東京上野公園。「江戸歴史研究会」の一行に突如襲いかかる羽織袴姿の一人の男。それも名刀・備前長船による斬殺である。平成の巷にあらわれた辻斬りともいえる凶行犯の時代錯誤に戸惑う十津川。犯行後、逃げも隠れもせず現行犯逮捕された男の名は、松平優。鹿島新当流の使い手という。犯行の動機の裏に隠された謎に挑む十津川の前に、次から次と明らかになる日本刀による斬殺事件。連続人斬り事件である。更に、驚愕の事実が……。横井刑事と松平は県道仲間であり、深い親交があったのだ。十津川の疑念は募るー。
小説の目次
- 剣士の旅
- 古武士の剣
- 狂気の階段
- 故郷熊野
- 事件の再検討(前)
- 事件の再検討(後)
- 道北拘置所
- 最後の試合
冒頭の文
横井哲、三十五歳、池袋警察署の現職の刑事である。と同時に、日本一の剣士でもある。
小説に登場した舞台
- 高速バスかしま号
- 鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)
- 鹿島臨海鉄道大洗鹿島線
- 大洗駅(茨城県・大洗町)
- 水戸駅(茨城県・水戸市)
- 上野駅(東京都台東区)
- 西郷隆盛銅像(東京都台東区)
- 上野公園(東京都台東区)
- 花園稲荷神社(東京都台東区)
- 上野東照宮(東京都台東区)
- 東叡山寛永寺(東京都台東区)
- 伊勢神宮(三重県伊勢市)
- 梅ヶ谷駅(三重県・大紀町)
- ツヅラト峠(三重県・大紀町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川警部:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 横井哲:
35歳。池袋警察署の刑事。日本一の剣士。水戸生まれ。田中道場に通っている。 - 佐々木誠:
58歳。水戸市内の興行会社の社長。衆議院の補欠選挙の候補だったが、水戸駅前で何者かに木刀で殴られ死亡。 - 梅木清一郎:
61歳。「江戸歴史研究会」のリーダー。国立歴史館の元館長。東叡山寛永寺で松平優に斬り殺される。 - 高田文子:
40歳。「江戸歴史研究会」のメンバー。東叡山寛永寺で松平優に斬り殺される。 - 小池誠:
35歳。東叡山寛永寺の職員。東叡山寛永寺で松平優に斬り殺される。 - 松平優:
25歳。上野に住むフリーター。東叡山寛永寺で梅木清一郎ら3人を備前長船で斬り殺した犯人。 - 松平慎太郎:
松平優の父親。現在は行方不明。 - 松平裕子:
松平優の母親。3年前に死亡。 - 野村功:
42歳。T大学の教授。社会心理学が専攻。去年の夏、何者かに斬り殺される。 - 五十嵐秀之:
水戸の郷土史家。水戸斉昭公顕彰会の会長。現在、行方不明。 - 神原真太郎:
剣の達人。去年の2月、道北拘置所内で死刑囚二人を殺し自殺したと言われている。 - 安藤久雄:
58歳。道北拘置所の所長。
その他の登場人物
- 田中:
水戸中央警察署の署長。 - 柳沼:
茨城県警の警部。 - 小島:
東京の弁護士。横井の弁護をすることになった。 - 中村:
警視庁初動捜査班の警部。 - 田中陽造:
田中道場の道場主。松平優の剣友。 - 寺西:
巣鴨総合病院の医師。 - 真田:
鹿島臨海鉄道の広報担当。 - 片山:
水戸斉昭公顕彰会の会長代理。 - 安田:
三重県警の刑事。 - 池内:
茨城県警の警部。 - 川上:
茨城県警の刑事。 - 武田定之:
50歳。日本剣道館に勤めている。剣の達人。 - 井川敬助:
56歳。浅草田原町で道場を開いている。剣の達人。 - 田島:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。 - 大西:
警視総監。
印象に残った名言、名表現
(1)鹿島臨海鉄道の風景。
鹿島臨海鉄道の周辺は、畑だったり、原野だったり、そして、ところどころに、小さく整地された場所があって、そこには、かわいらしくて、真新しい家が建っている。
(2)水戸の独特な静けさ。
水戸の町が、東京に比べて、静かだということである。
ただ単に、静かということではなくて、静謐とでも、いったらいいのだろうか。のんびりと、ただ静かなのではない。内に秘めた強い力を持ちながら、表面は静か。そんな感じがするのである。
(3)水戸っぽの気質。
水戸の人間は、こんな時に、やたらと、興奮するのである。水戸っぽは、とにかく、勝負がつくようなこと、白黒つけるようなことに対して、興奮を抑えられなくなるのだろう。
(4)伊勢神宮の言い伝え。
「昔から、伊勢の遷宮が、時代を変えるといわれているんだ。二十年ごとに、内宮の本殿が東と西に交互に遷わるんだが、内宮が東にある時代は、世の中が平和な時で、西にある時には、戦争があったり、地震があったりと、いろいろなことが起きる。」
感想
本作は、一風変わった、ミステリー小説だと思う。
物語の序盤で、犯人が3人を斬り殺し、逃げも隠れもせず、逮捕されてしまったのである。すでに、犯人がわかっている状態で物語が進んでいく。
ただし、それ以外にも、水戸で殺人事件が起き、その前にも何件かの殺人事件が発生している。本作は、それらの事件の真犯人と動機を探していく物語である。そして、これらの捜査は、3人を斬り殺した男につながっているのだ。
この男が、なぜ、3人もの男を殺したのか?なぜ、逃げずにそのまま逮捕されたのか?この謎の答えが、本作の重要なキーにもなっており、動機にもなっている。
物語全体に漂う、無骨な空気感。それは、この男がもつ”侍魂”が反映されているのだろうと思う。クライマックスの”試合”は、見応え抜群である。
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