初版発行日 1992年6月20日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 短編集
私の評価
大自然に抱かれた四つの鉄路を辿る傑作トラベルミステリー4選。
あらすじ
1.謎と殺意の田沢湖線
国立市の豪邸で殺害された夫妻は、秋田県・田沢湖近くの出身だった。彼らの生家は、すでにダムの底に沈んでいる。故郷を喪失した村人をめぐる悲劇に、十津川警部は何を感じたのか。
2.謎と憎悪の陸羽東線
荒川放水路の土手でバラバラ死体が発見された。被害者の身元は、東鳴子にある温泉治療院の患者で仙台の資産家だったことがわかる。東京に住む被害者の娘のマンションのバスルームで被害者の血痕が検出された。娘が父親をバラバラにしたのか?捜査をすすめた十津川は、意外な真実にたどり着く。
3.謎と幻想の根室本線
短編集「恋と哀しみの北の大地」に収録。下記を参照↓↓
→「恋と哀しみの北の大地」
4.謎と絶望の東北本線
「かおりを見つけ出せ。さもないと東北本線を爆破する」という脅迫状が警視庁に届く。犯人の真の目的とは。
小説に登場した舞台
1.謎と殺意の田沢湖線
- 盛岡駅(岩手県盛岡市)
- L特急「たざわ」
- 田沢湖駅(秋田県仙北市)
- 田沢湖(秋田県仙北市)
- 秋田県庁舎(秋田県秋田市)
- 東中野(東京都中野区)
- 後生掛温泉(秋田県鹿角市)
2.謎と憎悪の陸羽東線
- 古川駅(宮城県大崎市)
- 陸羽東線快速いでゆ
- 鳴子御殿湯駅(宮城県大崎市)
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
- 東一番丁通(宮城県仙台市青葉区)
- 秋田空港(秋田県秋田市)
- 飯坂温泉(福島県福島市)
3.謎と幻想の根室本線
短編集「恋と哀しみの北の大地」に収録。下記を参照↓↓
→「恋と哀しみの北の大地」
4.謎と絶望の東北本線
- 青森駅(青森県青森市)
- 上野駅(東京都台東区)
登場人物
1.謎と殺意の田沢湖線
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 村越:
60歳。三鷹にある家具メーカーの社長。国立市の豪邸に住む。秋田県のダムに沈んだK村出身。刺殺体となって自宅にある池に浮かんでいた。 - 村越良子:
57歳。村越の妻。K村出身。自宅の洋間で刺殺された。 - 田村:
村越家の運転手。 - 及川ちよ子:
村越家のお手伝い。 - 立石:
村越が経営していた家具メーカーの副社長。 - 山中:
M銀行三鷹支店の支店長。 - 中島:
秋田県庁建設局の課長。 - 永井徳太郎:
62歳。ダムに沈んだK村の村長をしていた。7年前、秋田県の保証金21億円を持ち逃げした。 - 永井冴子:
永井徳太郎の妻。 - 八木晋助:
55歳。元K村の村民。田沢湖の湖岸で土産物店を営む。 - 安田進:
30歳。元K村の村民。後生掛温泉にある旅館で働いている。 - 新藤研一郎:
37歳。元K村の村民。東中野で喫茶店「たざわ」を営む。 - 新藤みさよ:
35歳。元K村の村民。新藤研一郎の妻。
2.謎と憎悪の陸羽東線
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 青木:
秋田県警の刑事。 - 津田順造:
51歳。東鳴子にある「玉木温泉治療院」の患者。仙台の資産家。荒川放水路の土手でバラバラ死体となって発見された。 - 津田めぐみ:
津田順造の娘。東京・向島近くのマンションに在住。 - 市川公子:
「玉木温泉治療院」の看護師。 - 玉木:
「玉木温泉治療院」の院長。 - 榊原斉一郎:
仙台市内に事務所をかまえる弁護士。津田順造の顧問弁護士。JR新屋駅近くの山林で瀕死の状態で発見されたが、その後死亡した。 - 佐伯:
榊原法律事務所の弁護士。 - 白木:
新屋駅近くの山林で倒れている榊原斉一郎を発見した男。 - 水沼はるみ:
25歳。都内在住。家事サービスの会社に勤務していた。秋田県のT村出身。 - 吉牟田恵子:
水沼はるみの高校時代の同級生。
3.謎と幻想の根室本線
短編集「恋と哀しみの北の大地」に収録。下記を参照↓↓
→「恋と哀しみの北の大地」
4.謎と絶望の東北本線
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 武田:
青森県警の刑事。 - 波多乃かおり:
27歳。吉原のハーレム・ワンのホステス。青森市出身。浅草寺の境内で死体となって発見された。 - 井上弓子:
28歳。池袋ローズマリーのホステス。宮城県石巻市出身。池袋のビルの間で死体となって発見された。 - 田崎:
池袋ローズマリーの支配人。 - 久保治子:
26歳。ピンク・ドールのホステス。石川県輪島市出身。新宿中央公園で死体となって発見された。 - 堀内卓也:
神田の雑居ビルに事務所をかまえる私立探偵。 - 波多乃良子:
51歳。波多乃かおりの母親。青森駅近くで土産物店を営む。 - 川中広志:
吉原のハーレム・ワンのマネージャー。 - 黒井均:
青森市内で大衆食堂を営んでいる。 - 黒井邦夫:
青森市内に住むコンサルタント。 - 小田恵子:
黒井邦夫の元妻。東京都三鷹市井の頭のアパートに在住。 - 平野あかね:
19歳。黒井邦夫の事務所で働く事務員。 - 近藤信一郎:
東京都世田谷区に住む大企業の係長。
印象に残った名言、名表現
(1)亀井刑事の夢。
「私の夢は、警察を退職したら、東北の片田舎に住んで、川で魚を獲り、山に登って、ぼんやり青空を眺めることです」
(2)ダムは人を消す。
「ビルや工場が建っても、人間がそこにいます。しかし、ダムのために村が消えてしまうと、人間も消えてしまう。その方が、不気味ですよ」
(3)かつての上野は、上京した東北人にとって、特別な意味をもっていた。
「私も東北生れで、上京してしばらくは、アパートの窓から、いつも上野の方を見ていました。上野を通して、故郷の方向を見ていたのかも知れません」
感想
すごく、完成度の高い、短編集だったと思う。
本作は、東北と北海道を舞台にした4つの作品が収録されているが、いずれも、作品全体に哀愁というものが漂っていた。それは、東北や北海道の雰囲気を、作品にのせているのだろうと思う。
さらに、東北の玄関口とよばれていた上野についての描写も秀逸だ。
「私も東北生れで、上京してしばらくは、アパートの窓から、いつも上野の方を見ていました。上野を通して、故郷の方向を見ていたのかも知れません」
十津川警部シリーズには、寝台特急がよく登場していた。(近年、寝台特急はほとんど姿を消してしまっているため、残念ながら、最近の作品にはほとんど登場していない。)
東京都内における寝台特急の発着駅といえば、やはり上野であった。北国の人にとって上野駅には、特別な意味があり、故郷の匂いを感じることができる駅でもあったのだ。
上京した東北人が上野駅を見て、故郷を偲ぶ。そんな哀愁漂うシーンが、本作には、よく登場するのだ。
十津川警部の短編集の中でも、とくにおすすめしたい作品である。
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