初版発行日 2000年8月30日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
ホームレスの謎の集団焼死事件。そして事件を追求していた記者も……。真相を闇に葬らんとする巨大な力に十津川警部が奮然と挑む!
あらすじ
東京・上野公園のホームレスのテントが燃え、十六人が焼死した。取材中に火事に遭遇した中央新聞の白木記者は、撮った写真から放火の疑いを持つ。さらに火元の男性が岐阜・長良川周辺の出身と知り、独自に調査に乗りだした矢先、白木は何者かに射殺された!白木の足跡を追い、岐阜に乗り込んだ警視庁の十津川警部と亀井刑事。二人は、二年前、長良川の鵜飼い見物で屋形船から転落し、行方不明となった人物との接点を見出したが、関係者の口は、なぜか一様に重い。そのうえ、不可解なことに岐阜県警まで捜査に非協力的態度をとり始める。十津川警部、孤立無援の闘いが続く!
小説の目次
- ホームレス
- 標的を追う
- 鵜飼いの日
- 岐阜の賢人
- 警告殺人
- 共謀
- 終幕の混乱
冒頭の文
中央新聞社会部の白木は、師走を迎えるホームレスの実態を調べるために、上野公園へ出かけた。
小説に登場した舞台
- 上野公園(東京都台東区)
- 上野警察署(東京都台東区)
- 長良川温泉(岐阜県岐阜市)
- 長良橋(岐阜県岐阜市)
- 高山駅(岐阜県高山市)
- 高山陣屋(岐阜県高山市)
- 下呂温泉(岐阜県下呂市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
岐阜県警
- 児島:
岐阜県警の警部。 - 加賀四郎:
長良川の派出所の警官。 - 佐々木:
岐阜県警の本部長。 - 立花:
岐阜県警の刑事。 - 荒井:
岐阜県警の刑事。 - 小暮:
岐阜県警の刑事。 - 鈴木:
岐阜県警の刑事。 - 水沼:
岐阜県警の刑事。
事件関係者
- 白木:
中央新聞社会部の記者。 - 田島:
中央新聞社会部のデスク。十津川警部の大学時代の同級生。 - 小野田雄作:
上野公園のホームレス。長良川出身。火事で亡くなる。 - 吉原綾:
32歳。長良川のホテルGの仲居。シングルマザー。 - 金重良一郎:
参議院議員。長良川にある「日本刃物」の社長。 - 小野田浩子:
40歳。小野田雄作の妻。 - 小野田貢:
小野田雄作の息子。岐阜駅前の物産店の社長。 - 寺西円明:
長良川にあるS寺の住職。 - 杉下:
長良川の喫茶店「鮎」の店主。 - 河原英一:
長良川に住むフリーター。32歳。元弁護士。 - 杉本忠男:
2年前まで岐阜新報で働いていた記者。高山にある親戚の旅館で岐阜県史を書いている。 - 仁科典介:
2年前まで岐阜新報で働いていた記者。現在は東京の「人と温泉」の出版社で働いている。 - 木原:
岐阜新報の社長。
その他の登場人物
- 青野:
上野警察署の警部補。 - 木村:
台東区役所福祉課の係長。 - 新田:
岐阜新報のデスク。 - 井上:
岐阜新報の記者。 - 笠松:
岐阜新報の記者。 - 吉原徳次郎:
吉原綾の父親。 - 相原:
金重良一郎の顧問弁護士。 - 広沢:
新岐阜タイムスの記者。
印象に残った名言、名表現
(1)十津川が犯人の心理について洞察する。
「犯人というのは、そんなふうに、楽観的には考えないものさ。心のどこかにおびえがあるから、どうしても、最悪を考えてしまう」
(2)犯人が自滅していく過程。「殺人」を「嘘」に言い換えることもできる。
「犯人が自滅していく過程の一つだろう。一つの殺人の秘密を守るために、また一つの殺人をやる。そうやって、犯人は、自滅していくんだ。今回の犯人も、その第一歩を踏み出したと、私は思っている。」
(3)今回の事件の難しさを現している。
がんじがらめの糸を解かなければ、今回の事件は解決しないのか。
総評
都会と地方の住みやすさを比較するとき、かならず対象にあがるのが「人間関係」である。
都会は人間関係が希薄で寂しい。地方は人間関係が濃いので温かい。逆にいえば、都会はしがらみがなく、地方はしがらみが強い。人間関係の濃さは、メリットにもなり得るし、デメリットにもなり得る。どちらを好むかは、その人次第である、と。
本作は、地方における人のつながりの強さや深さのデメリットが、もたらした事件であると思う。本作になんども登場した「がんじがらめ」という言葉が、それを象徴している。
公私ともに、お互いが利害関係で結ばれており、その絆が数珠つなぎのように連鎖している。ひとつの”運命共同体”を形成しているである。
こうなると、自分の言動がすぐ周囲に影響を与えてしまうため、容易に動けない。あるいは、影響を与えてしまうのを恐れて、動けなくなってしまうのだ。
こうした運命共同体の中で起きた事件。外様の十津川警部たちの捜査は難航する。まわりが敵だらけのなか、どのようにして、突破口を開いていったのか?本書を手にとって確かめてほしい。
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