初版発行日 1987年5月30日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
降り注ぐ火山灰に台風接近、復讐に燃える元服役囚までもが!南の終着駅で事件発生。失意の十津川警部、悲しみにこらえて犯人に迫る!
あらすじ
西鹿児島駅行きの寝台特急「明星51号」の車内で刺殺された男性は「あなたを愛しています」と書かれた手紙を持っていた。同じ内容の手紙を謎の女から渡された警視庁の田中刑事も殺されてしまう。桜島の降灰に加え、服役を終えて復讐を企む男が西鹿児島駅を混乱に陥れる。部下を亡くした十津川警部が犯人を追う!
小説の目次
- 八月九日(金)
- 八月十日(土)
- 八月十日(土)午後
- 八月十日(土)夜
- 八月十一日(日)朝
- 八月十一日(日)昼
- 八月十一日(日)午後
- 八月十一日(日)夜
- 八月十二日(月)朝
冒頭の文
国鉄西鹿児島駅では、午前十時に、木田駅長が、臨時に助役たちを集めて、会議を開いた。
小説に登場した舞台
- 西鹿児島駅(現・鹿児島中央駅)(鹿児島県鹿児島市)
- 天文館通り(鹿児島県鹿児島市)
- 千日町(鹿児島県鹿児島市)
- 銀天街(鹿児島県鹿児島市)
- 新大阪駅(大阪府大阪市淀川区)
- 寝台特急「明星51号」
- 姫路駅(兵庫県姫路市)
- 久留米駅(福岡県久留米市)
- 大牟田駅(福岡県大牟田市)
- 熊本駅(熊本県熊本市西区)
- 水俣駅(熊本県水俣市)
- 串木野駅(鹿児島県いちき串木野市)
- 伊集院駅(鹿児島県日置市)
- 城山ホテル鹿児島(鹿児島県鹿児島市)
- 福岡空港(福岡県福岡市博多区)
- 博多駅(福岡県福岡市博多区)
- 特急「有明3号」
- 西郷隆盛洞窟(鹿児島県鹿児島市)
- 鹿児島駅(鹿児島県鹿児島市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 田中:
35歳。警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。休暇を利用して家族と鹿児島へ訪れたが、西鹿児島駅のコンコースのトイレで何者かに刺殺された。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 伊東:
鹿児島西警察署の警部。 - 森口:
鹿児島西警察署の刑事。 - 君原:
鹿児島西警察署の刑事。 - 小林:
鹿児島西警察署の刑事。 - 池谷:
鹿児島西警察署の刑事。 - 若山:
鹿児島西警察署の刑事。 - 村上:
鹿児島西警察署の署長。 - 常田:
西鹿児島駅の公安官。 - 川原:
西鹿児島駅の公安官。 - 三浦:
大阪府警の警部。 - 田中ユミ:
田中刑事の妻。 - 田中徹:
3歳。田中刑事の息子。
西鹿児島駅の関係者
- 木田:
西鹿児島駅の駅長。あだ名は「西郷さん」。 - 吉村:
西鹿児島駅の助役。 - 山本:
西鹿児島駅の助役。西鹿児島駅で小西晋吉に刺され重症を負う。 - 伊集院:
西鹿児島駅の主席助役。 - 木田:
木田駅長の弟。鹿児島鉄道管理局CTC室の係長。あだ名は「小さな西郷さん」。 - 島崎:
鹿児島鉄道管理局の局長。
事件関係者
- 小西晋吉:
32歳。柏崎の生まれ。8年前殺人事件を起こし府中刑務所に服役していたが、出所した。 - 竹内ひろみ:
27歳。小西晋吉の恋人だった女性。銀天街にある風俗店に勤務。天文館通りにある喫茶店「紫」のウェイトレスをしていた。 - 向井田俊二:
寝台特急「明星51号」の車内で死体となって発見された男。 - 神田ゆう子:
26歳。N電気の開発部に勤務する研究員。大阪市阿倍野区のマンションに在住。 - 白木豊:
鹿児島市内に事務所をもつ法律事務所の所長。 - 藤田一衛:
鹿児島市内にある東西工業の社長。 - 藤田仁:
藤田一衛の弟。東西工業の副社長。 - 宮沢剛:
元暴力団員。 - 大木力:
元暴力団員。
その他の登場人物
- 金子:
50歳。銀天街にあるサウナ店のオーナー。 - 小島みどり:
鹿児島市観光バスのバスガイド。 - 井原アキ:
鹿児島市観光バスのバスガイド。 - 仁村:
鹿児島市観光バスの運転手。 - 下川:
53歳。神田ゆう子がかつて勤めていた公害研究所の副所長。
印象に残った名言、名表現
(1)水俣の海。
右手に、ずっと見えている海は、美しい。車窓からも、水が透き通って見えていたのだが、この美しい海が、あの水俣かという思いだった。
(2)鹿児島の街に降り注ぐ火山灰。
人口五十三万の街が、灰色の霧の中に、かすんでいるように見えた。眼をすえると、窓ガラスの向こうに、灰が、音もなく降り注いでいるのが、わかった。
(3)台風の眼。
台風が、動きを止めてしまったのか、無風状態が続いている。台風の眼に入った鹿児島市は、気温が、三十度を超し、その上、風がやんでしまったので、むし風呂の中に入ったような暑さになった。
感想
2021年現在、駅シリーズは9作品が刊行されている。
- 東京駅殺人事件(1984年)
- 上野駅殺人事件(1985年)
- 函館駅殺人事件(1986年)
- 西鹿児島駅殺人事件(1987年)←本作
- 札幌駅殺人事件(1988年)
- 長崎駅殺人事件(1991年)
- 仙台駅殺人事件(1995年)
- 京都駅殺人事件(2000年)
- 新・東京駅殺人事件(2014年)
本作は、第4作である。
個人的には、この「西鹿児島駅殺人事件」が、駅シリーズの最高傑作だと思っている。
桜島の噴火で火山灰が降り注ぐ鹿児島の町。その中で奮闘する西鹿児島駅の人々、そこに訪れる台風。これらが実によく描かれているし、火山灰や台風の描写が、事件にリアリティと緊張感を与えている。
「ここは鹿児島なのだ」ということを、実感しながら読み進めることができるのだ。
事件については、謎の女から「あなたを愛しています」というラブレターをもらった男が相次いで殺されるという、ミステリアスな展開。さらに、警視庁捜査一課の現役刑事が殺されてしまうショッキングな事件が拍車をかける。
中盤から最終盤にかけて怒涛の勢いで一気に読み進められた。最終章のエピローグでは、台風が過ぎ去り、風向きが変わったことで降灰もなくなった。事件も終わり、ようやく鹿児島市に明るさが戻ってくるのである。この明るさに感動すら覚えてしまう。
繰り返しになるが、本作は、駅シリーズの最高傑作で間違いない。
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