初版発行日 2005年4月20日
発行出版社 双葉社
スタイル 長編
思い込みや常識的な判断に、ひとつの”作為”が紛れこむことで、本質とはまったく別の見え方になってしまう。それを痛感した本作。
あらすじ
大手銀行監査役を退職し、歴史研究会で活躍していた桜井信行が自宅で自殺した。そこには元警視庁刑事部長・塩田久男宛に「神話の里で、人を殺してしまった」という遺書が残されていた。捜査に乗り出した十津川警部は遺書に書かれた事件を追う。
小説の目次
- 奇妙な自殺者
- 被害者
- 謎の手帳
- 再検証の旅
- 疑問の壁
- 交錯する謎
- 逆転
小説に登場した舞台
- 金谷(静岡県島田市)
- 奈良市内(奈良県奈良市)
- 明日香村(奈良県・明日香村)
- 高松塚古墳(奈良県・明日香村)
- 奈良公園(奈良県奈良市)
- 東大寺(奈良県奈良市)
- 奈良の大仏(奈良県奈良市)
- 飛鳥寺(奈良県・明日香村)
- 吉野川(奈良県五條市)
- 南紀白浜(和歌山県・白浜町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 桜井信行:
65歳。大手のN銀行を退職。趣味は日本史の研究と旅行。世田谷区給田の庭にある桜の樹の下で自殺しているのが発見される。 - 青木真由美:
25歳。桜井と交際していた女性。 - 柿崎健太郎:
柿崎食品の社長。65歳。 - 柿崎伸介:
柿崎健太郎の息子。柿崎食品の総務部長。 - 柿崎綾子:
柿崎伸介の妻。 - 三木淳子:
39歳。世田谷区奥沢に住む既婚女性。 - 三木潤一郎:
三木敦子の夫。50歳。大会社の役員をしている。
その他の登場人物
- 木村幸助:
桜井信行の歴史研究家仲間。 - 塩田久男:
元刑事部長。桜井信行の大学の同級生。 - 藤原香代子:
桜井信行行きつけの六本木のクラブ「紫」のママ。 - 桜井久信:
桜井信行の息子。NY在住。 - 深田:
奈良県警捜査一課の警部。 - 斎藤:
R病院の職員。 - 関口:
神田に事務所を構える私立探偵。 - 井上:
和歌山県警の刑事。 - 加藤:
柿崎健太郎と大学時代の同級生。元大手電機メーカーの営業部長。
印象に残った名言、名表現
(1)初夏の飛鳥の美しい景色。
初夏の飛鳥は、花の季節でも、あった。車を走らせていくと、道の両側には、花が咲き乱れている。
聖徳太子生誕の地といわれる、飛鳥寺を見て、飛鳥川に、沿って走ると、目の前に、棚田が、広がる。そこには、菜の花や、チューリップが、咲き誇っていた。
飛鳥は、古墳で有名だが、花の美しい場所でも、あるのだ。
(2)神話の里殺人事件について議論を交わす十津川警部と亀井刑事。事件の流れを整理するが、納得できない点が多すぎる。納得できない点を絶対にそのままにしない十津川警部。
「どうも、最初から、この事件はおかしいが、終わり方も、どうもおかしいな。」
総評
本作は、”非常にややこしい事件”であった。
被害者がはっきりしている。それぞれの人間関係もわかる。動機も容易に想像できる。しかし、新たな人物が登場したことで、推理が振り出しに戻る。
やっとこさ、事件の全貌が見えてきたと思ったが、どうにも合点のいなかいことが出てくる。普通の刑事ならば、いくつか矛盾点があるが、概ね間違っていないので事件は終わりとする。しかし、十津川警部は違った。
「ひょっとすると、今回の事件について、私たちは、大変な、思い違い、考え違いを、していたのかも、知れないな。」
こう言った十津川警部は、事件の全容に対し、まったく違うアプローチを試みる。
「事件はすべて解決した」といい、捜査本部を解散させようとする三上本部長に対し、食い下がる。
「部長のいわれるように、これで、事件が解決したと考えて、捜査本部を、解散してしまったら、本当の犯人を、見逃すことになってしまうかも、知れませんよ。それでも、いいんですか?」
ここから先の展開はぜひ自分の目で確かめてもらいたい。あなたも十津川警部やほかの刑事たちと同じように、事件の全容をミスリードしながら終盤を迎えるだろう。わたしもミスリードしてしまった。
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