初版発行日 1993年1月1日
発行出版社 朝日新聞社
スタイル 長編
私の評価
戦慄の国際謀略に対決する十津川!綿密な取材のもとに描かれた雄大なスケールの国際トラベル・ミステリーの傑作!
あらすじ
新宿・歌舞伎町で外国人娼婦の絞殺事件が発生!遺された名刺の主・栄交易の長谷部功はニセ社員!?捜査陣にかかる上層部からの圧力。さらにロシアに逃亡した長谷部を、外務省の官僚・沢木と協力し、極秘裏に追えとの密命が、警視総監から直々に、十津川警部のもとに……。
長谷部たちは、ロシアで何を画策しているのか?空路ハバロフスクに飛ぶ十津川を待ち受ける罠と孤立無援の闘い。酷寒の広大な平野をモスクワへとひた走るシベリア鉄道を舞台に国際的謀略が渦巻く。十津川警部が追いつめる真の敵とは?
小説の目次
- 北への旅立ち
- ハバロフスク
- 雪に埋まる町
- 殺人
- 逃走と追跡
- モスクワ
- 亡霊との戦い
- 脱出成功
- 真の勝利者
冒頭の文
ベッドに横たわる女の白いのどのあたりに、犯人が強く絞めたと思われる鬱血の跡が、はっきりと浮き出ていた。
小説に登場した舞台
- 東京駅(東京都千代田区)
- 新潟駅(新潟県新潟市中央区)
- 新潟空港(新潟県新潟市東区)
- ハバロフスク空港(ロシア連邦)
- ハバロフスク駅(ロシア連邦)
- ハバロフスク自由市場(ロシア連邦)
- バイカル湖(ロシア連邦)
- イルクーツク駅(ロシア連邦)
- イルクーツク国際空港(ロシア連邦)
- クラスノヤルスク駅(ロシア連邦)
- マリインスク駅(ロシア連邦)
- タイガ駅(ロシア連邦)
- ノヴォシビルスク駅(ロシア連邦)
- クラスナヤ通り(ロシア連邦)
- チュメニ駅(ロシア連邦)
- ダニーロフ(ロシア連邦)
- ヤロスラヴリ駅(ロシア連邦)
- コムソモール広場(ロシア連邦)
- 在ロシア日本国大使館(ロシア連邦)
- アルバート通り(ロシア連邦)
- コムソモーリスカヤ駅(ロシア連邦)
- シェレメーチエヴォ国際空港(ロシア連邦)
- ベラルースキー駅(ロシア連邦)
- ブレスト中央駅(ベラルーシ)
- ワルシャワ東駅(ポーランド)
- 成田空港(千葉県成田市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 尾ノ内:
警視総監。 - 沢木:
外務省対外戦略指導部の職員。ロシア語、英語、フランス語、アラビア語が話せる。 - ロドリゲス:
ブラジル大使館の書記官。
栄交易
- 長谷部功:
30歳。商社「栄交易」業務六課の社員。シベリア鉄道の車内で何者かに射殺される。 - 菊池久幸:
42歳。商社「栄交易」業務六課の課長。 - 浅田亮:
38歳。商社「栄交易」業務六課の社員。 - 瀬川哲也:
35歳。商社「栄交易」業務六課の社員。 - 杉みゆき:
26歳。商社「栄交易」業務六課の社員。 - 三崎:
「栄交易」の人事部長。
ロシア
- バラナフ:
ハバロフスクの刑事。男性。 - アレクサンドル・グーロフ:
60歳。ハバロフスクに住む科学者。男性。 - ニーナ・チモーヘイワ:
イルクーツクに住む科学者。女性。 - ラリーサ:
シベリア鉄道の車掌。女性。 - イリーナ:
シベリア鉄道の車掌。女性。 - J・ザルギン:
十津川警部と沢木が雇ったイルクーツクのブローカー。男性。実はCIAの人間。 - クリシン:
シベリア鉄道の車掌。男性。 - パトリシア:
アメリカ人のカメラマンと名乗る女性。 - コーペレフ:
ノボシビルスク地方管理局の次長。 - アレクセイ・ドルジコフ:
60歳。核融合の専門家。クルチャトフ原子力研究所に勤務。男性。 - イリヤ・オレイニク:
30歳。レーニン物理学賞を受賞した物理学者。男性。 - ユーヌフ・ツボフ:
クルチャトフ原子力研究所に勤務している。男性。 - ウラジーミル・レチボフ:
元KGBの局長。男性。 - アンドレ:
シェレメーチエヴォ国際空港にいたマフィア。男性。 - ナターシャ:
アンドレの連れ。女性。 - ナボコフ:
オスト・ウエスト・エクスプレスの列車長。男性。
印象に残った名言、名表現
(1)拝金主義。
「ここでは、オミヤゲと現金、特にドルで、すべてが解決すると承知してください」
(2)当時のロシアの混乱が垣間見える。
今のロシアでは、ロシア人自身、約束といったものを信じていないだろう。
(3)当時のロシアの流通事情。
「表の流通機構ががたがたになってしまっていて、裏の流通機構だけが辛うじて働いている」
感想
十津川警部シリーズでは、国内のみならず、海外が舞台の作品も数多く刊行されている。
例えば、フランスのパリを舞台にした「パリ発殺人列車 十津川警部の逆転」、中国の上海を舞台にした「上海特急殺人事件」、台湾を舞台にした「愛と絶望の台湾新幹線」、韓国を舞台にした「韓国新幹線を追え」などがある。
こうした海外舞台の作品の中でも、本作「シベリア鉄道殺人事件」は、最高傑作であり、最高の力作だと思う。
それくらい、この当時のロシアの混沌とした状況が描かれているし、ロシアのみならず、アメリカのCIAも登場するなど、サスペンスフルで緊迫感に満ち溢れていた。
ロシアの東端から西端まで縦断したダイナミックさも素晴らしい。
ロシアの東端であるハバロフスクからシベリア鉄道に乗って、シベリアを横断し、モスクワまで行き、さらに東へ進み、ベラルーシやポーロンドまで到達する。
本作は、「シベリア鉄道殺人事件」という名前にふさわしい、1万キロにも及ぶ追跡劇なのだ。
最後に、本作刊行にあたって発表された、西村京太郎先生のことばを紹介しておこう。
ソビエトが崩壊したとき、一番の不安は、原爆・水爆の流出だった。爆弾そのものというより、その知識である。経済的にも崩壊してしまったロシアでは、いちばん手っ取り早く売れるものといえば、それしか考えられないからだった。
そんなロシアを書くたくて、資料の収集に努めて、この作品を書きあげた。シベリア鉄道の車内風景などは、すべて事実に基づいている。最近、ロシア国内の事情は、少しは安定に向かっていると思うが、原水爆のノウハウ流出の危険は、いぜんとして残っている気がしてならない。
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