初版発行日 1999年4月30日
発行出版社 徳間書店
スタイル 短編集
私の評価
刑事時代の若き十津川がとりくんだ五つの事件。
あらすじ
1.危険な判決
フリーターの上条雄一郎が、恋人の田口ゆかりに会いに行く途中、浅草の路地で刺殺された。お金や貴金属が盗まれていたことから、当初は物取りの犯行と思われた。だが、上条を射したナイフが、高価なものだったことが判明。怨恨による殺人と睨んだ十津川警部補は、捜査を開始したが、進展がないまま二件目の事件が発生する!
2.回春連盟
大手企業の部長・酒井忠夫のもとへ突然訪ねてきた「回春連盟」と名乗る藤本晃が、「あなたが老けているのは、妻との関係が冷え切っているからだ。1千万円払えば、あなたの悩みのタネである妻を消しましょう」という提案をしてきた。酒井は一度は申し出を断ったのだが……。
3.第二の標的
終電車の車内で刺殺された男は、商事会社の社員。真面目で仕事第一、怨まれる理由などなかった。動機が皆目つかないまま、目撃者の女性が殺され、さらに容疑者も自殺!これで事件のけりをつけようとする上司に、納得できない刑事がいた。十津川である。
4.一千万人誘拐計画
「私は東京都民を誘拐する計画をたてた。もちろん、一千万人全部をだ。身代金は十億円!」 都知事の秘書室長日高にかかってきた電話は奇怪なものだった。最初は精神異常者からの電話だと思っていた日高も、それが現実のことだと認めざるを得なくなった。だがどうやって……!? 連絡を受けた警視庁捜査一課の十津川警部補が捜査にのりだしたが……。
5.人探しゲーム
この人を見つけて下さい。見つけた方に百万円を差し上げます――顔写真と体の特徴だけでその男を探し出せ、という企画が「週刊ジャパン」に載った。たまたまその記事を読んだ小田雄太郎と松木順子は、二人が同棲するアパート近くのマンションにその男がいたことを思い出し、その男の部屋を訪ねるが、そこで発見したのは、男の刺殺体だった……!?
小説に登場した舞台
1.危険な判決
- 浅草(東京都台東区)
2.回春連盟
- 伊豆(静岡県)
3.第二の標的
- 三鷹駅(東京都三鷹市)
- 深大寺(東京都調布市)
4.一千万人誘拐計画
- 東京都庁(東京都新宿区)
5.人探しゲーム
- 原宿(東京都渋谷区)
- 六本木(東京都港区)
- 阿佐ヶ谷(東京都杉並区)
登場人物
1.危険な判決
- 十津川省三:
32歳。警視庁捜査一課の刑事。主人公。 - 鈴木:
警視庁捜査一課の刑事。十津川の同僚。 - 吉牟田:
警視庁捜査一課の主任警部補。十津川の上司。 - 千葉:
鑑識の技官。 - 八木:
多摩川署の刑事。 - 角田:
58歳。元多摩川署の刑事。去年の10月まで静岡県警に勤務していた。1か月前に退職している。 - 上条雄一郎:
25歳。フリーター。東京郊外のアパートに在住。田口ゆかりに会いに行く途中、浅草の路地で何者かに刺殺される。 - 田口ゆかり:
20歳。ショーガール。上条雄一郎の恋人。 - 二宮弘:
20歳。四谷三丁目にあるスナック「ルブラン」のバーテン。田口ゆかりの恋人の一人。 - 島野涼子:
20歳。M女子短大に通う短大線。渋谷区に在住。去年の夏、伊豆半島で溺死した。 - 島野幸一:
27歳。島野涼子の兄。 - 鈴木尚子:
43歳。インチキブローカー。車の中で何者かに刺殺される。 - 守谷徳太郎:
69歳。資産家。3月に多摩川で死体となって発見された。 - 西沢豊:
49歳。不動産業者。 - 小池哲也:
29歳。石神井公園近くのマンションに在住。自宅で服毒死する。
2.回春連盟
- 十津川省三:
32歳。警視庁捜査一課の刑事。主人公。 - 酒井忠夫:
59歳。大手企業の部長。 - 酒井文子:
酒井忠夫の妻。 - 青木美子:
酒井部長の秘書。 - 藤本晃:
回春連盟を名乗る男。
3.第二の標的
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の刑事。主人公。 - 宮本:
警視庁捜査一課の刑事。十津川刑事の相棒。 - 大木:
N電鉄の車掌。 - 坂西宏:
38歳。太陽物産の社員。N電鉄の最終列車で刺殺された。 - 坂西孝子:
坂西宏の妻。 - 田村晋太郎:
太陽物産の会計課長。三鷹市に在住。深大寺の雑木林で死体となって発見された。 - ユキ:
新宿にあるバー「ナイトゲーム」のホステス。本名は堀本美也子。自宅で死体となって発見された。 - 伊東:
新宿にあるバー「マッハⅠ」のバーテン。 - 柳沼明:
40歳。新宿にある大手銀行の副支店長。
4.一千万人誘拐計画
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部補。主人公。 - 藤原:
警視庁捜査一課長。 - 吉岡:
警視庁捜査一課の刑事。 - 日高孝司:
都知事の秘書室長。 - 野中妙子:
都知事秘書室の職員。 - 小山:
東京都の副知事。 - 鈴木徳子:
36歳。浅草にある八百屋の女将。浅草寺の境内で死体となって発見された。 - 渡辺晋吉:
59歳。大田区田園調布に在住。多摩川の河原で死体となって発見された。 - 川崎秀太郎:
39歳。電話の主。
5.人探しゲーム
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部補。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 小川:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中:
池上署の刑事。 - 松木順子:
阿佐ヶ谷の安アパートで小田雄太郎と同棲している。100万円が賞金の「人探しゲーム」に参加。その後、自宅アパートで死体となって発見される。 - 小田雄太郎:
阿佐ヶ谷の安アパートで松木順子と同棲している。100万円が賞金の「人探しゲーム」に参加。その後、自宅アパートで死体となって発見される。 - 三田村:
神田にある「週刊ジャパン」の編集長。原宿のマンションに在住。朝日岳近くの山岳道路で死体となって発見された。 - 小笠原孝夫:
劇団ペガサスの若い団員。自宅マンションで死体となって発見された。 - 三田村冴子:
劇団ペガサスの若い団員。資産家の一人娘。三田村の妻。小笠原孝夫の恋人でもある。 - 坂井一郎:
30歳。自動車のセールスマン。 - 福井良夫:
32歳。六本木にある「福井内科」の院長。
感想
本作は、十津川警部が、刑事時代、警部補時代の事件を描いた、貴重な短編集であった。
いずれも、小気味よくテンポよく読める作品になっており、ミステリーも切れ味鋭い。そして、若き日の十津川は、やはり優秀な刑事だったことがよくわかるエピソードばかりである。
今回は5作品が収録されていたが、「危険な判決」は、まるで長編のようなボリューム感を感じさせる力作であったし、「回春連盟」は、タイトルが怪しげだが、最後の最後のオチが面白い。どんでん返しのさらに、どんでん返しがあった。
また、「一千万人誘拐計画」は、パンチの効いた十津川の罠が印象的であり、「人探しゲーム」は、読者側には犯人がわかっており、十津川が犯人を追い詰めていく姿が見られると思いきや、最後にどんでん返しが起こる巧妙なミステリーだった。
いずれも、秀作である。
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