初版発行日 1989年6月28日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
十津川警部、生涯最大のピンチ!
あらすじ
伊豆・西海岸にポルシェが墜ち、運転していた男は事故死した。ところが遺品の手帳に、半年前の3億円強奪事件犯行メモがあり、十津川はこの男を主犯と断定!残された共犯者たちが第2の犯行を企てていることを知り、亀井刑事を囮にグループに接近するがウラをかかれてしまう。
小説の目次
- 魅力的な死体
- 留守番電話の声
- 目標を確認せよ
- 決行の日
- 敗北
- 追跡
- 対決
冒頭の文
転落している車体が発見されたのは、朝になってからである。
小説に登場した舞台
- 婆娑羅峠(静岡県下田市)
- 松崎海岸(静岡県・松崎町)
- 堂ヶ島(静岡県・西伊豆町)
- 上野公園(東京都台東区)
- 昭島(東京都昭島市)
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- 師崎港(愛知県・南知多町)
- 新横浜駅(神奈川県横浜市港北区)
- 横須賀港(神奈川県横須賀市)
- 川奈海水浴場(静岡県伊東市)
- 館山(千葉県館山市)
- 西崎海岸(千葉県館山市)
- 波左間港(千葉県館山市)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 旭川空港(北海道旭川市)
- 稚内空港(北海道稚内市)
- 名寄(北海道名寄市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 入江:
静岡県警の本部長。 - 新井:
35歳。静岡県警の刑事課長。 - 富永:
静岡県警の刑事。 - 水野:
石川県警の警部。 - 大木:
昭島署の刑事。 - 石田:
愛知県警の警部。 - 水島:
名古屋にある海上保安庁第四菅区本部の本部長。 - 矢木:
千葉県警の警部。 - 三浦:
北海道警の警部。
事件関係者
- 高田弘:
42歳。東京・世田谷区桜上水のマンションに在住。以前、中央工業に勤務していた。西伊豆の海岸に転落した車の中で死体となって発見されたが、実は身代りの男だったことが後にわかる。 - 田代勇一郎:
37歳。世田谷区太子堂のマンションに在住。以前、N自動車の世田谷営業所でセールスをしていた。 - 川北操:
30歳。以前、N自動車の世田谷営業所でセールスをしていた。田代勇一郎と同じ日に退職した。 - 青木淳:
37歳。大学時代にスピードスケート選手をしていた。 - 辻村哲也:
25歳。10代の時、江東区内の暴走族Sのサブ・リーダーだった男。 - 浅野司郎:
新宿にあるS大附属病院の医師。 - 井原さよ子:
29歳。新宿にあるS大附属病院の元看護師。浅野司郎と交際していた。
その他の登場人物
- 加藤:
東京・八重洲に本社がある中央工業の人事部長。 - 白木:
国税庁査察課の課長補佐。 - 羽田:
国税庁査察課の課長。 - 近藤哲:
29歳。元調布税務署の職員。 - 沢野肇:
45歳。元西船橋税務署の職員。 - 田原:
神田にある出版社の出版部長。 - 深見潔:
調布市内にあるパチンコ店「人生航路」のオーナー。 - 村上:
設計技師。パチンコ店「人生航路」の設計を行った。 - 三村:
N自動車世田谷営業所の所長。 - 赤木:
42歳。N自動車世田谷営業所のセールス。 - 野村ゆう子:
「詩の世界」編集部の編集者。 - 安井:
中央警備保障会社の主任。 - 松本:
中央警備保障会社の社長。 - 三田徹:
三田興業社長の息子。ディスカウントストア「三田興業昭島店」の店長。 - 若林:
三鷹にある火葬場の場長。
印象に残った名言、名表現
(1)日本人の特性。
日本人、特に会社勤めの人間は、命令されれば動くが、相談すると、逆に動かなくなってしまうところがある。
(2)南伊豆の秋。
南伊豆の海でも確実に秋は、深まりを見せていた。相変らず、太陽は、強烈だが、海から吹いてくる風は、冷たさを増していたからである。
感想
本作は、3つのポイントがあった。
1つ目は、十津川たちを完全に欺いた、その鮮やか過ぎる手口である。
今回は、亀井刑事が犯人グループになりすまし、犯人たちの情報を取っていたわけだが、亀井の存在は最初からバレていて、犯人たちは、警察に嘘の情報を流すことで、欺いた。
陽動作戦をすることを警察に知らせ、偽の本丸の場所を伝え、十津川たちを偽の本丸に集め、実際は、別の場所が本丸だったという展開である。
十津川にとっても、これほどの完全は敗北は、初めての経験だった。
50名以上の刑事を動員したにも関わらず、陽動作戦に引っかかってしまった十津川。刑事人生始まって以来の屈辱だっただろう。
2つ目は、二転三転する展開である。
これぞという犯人が二転三転し、本当の真犯人がなかなか見えてこない。これぞミステリー、これぞサスペンスという展開が続くのである。そして、最後には、意外過ぎる結末が待っていた。
読者は最後に、「お前かよ!」と、叫びたくなるだろう。
3つ目は、どこまでも追いかけていく、十津川警部の執念である。
今回は、伊豆、東京都内、東京郊外、知多半島、横須賀、房総半島、そして、北海道まで犯人を追い続けた。その執念はすさまじい。とくに、北海道でヘリコプターを使って、犯人を追跡するシーンは、見ごたえがある。スピード感溢れ、アクションフル。これも十津川警部シリーズの魅力である。
最後に、本作刊行にあたって、発表された、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
ミステリイでは、たいてい殺人が起きるので、それに頼って、ストーリーを進めてしまうが、本当の面白さは、殺人そのものよりも、犯人と探偵の智慧比べにあるだろう。犯人が、どうやって、探偵なり刑事を欺して、犯行計画を成功させようとするか、また、探偵側は、いかにして、それを見破って、逮捕するか。しかし、あまりに、智慧比べに拘ると、サスペンスが、稀薄になってしまう。その兼合いが、果して上手くいったかどうか、その判定は、読者にお委せしたいと思っている。
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