初版発行日 1995年12月25日
発行出版社 中央公論新社
スタイル 長編
なぜ犯人は旧天城トンネルとガーラ湯沢のゴンドラを爆破したのか?雪の越後を舞台に繰り広げられる、傑作長編ミステリー!
あらすじ
JRと道路公団に届いた脅迫状。それは四億円を支払わなければ、クリスマスに大清水、関越両トンネルを爆破するという犯行予告だった。折しも同一犯の手によって、天城峠と湯沢で爆破事件が起きたばかりであった。一連の事件解明のため、十津川警部が越後湯沢に駆け付ける。巧妙な手口で捜査陣を翻弄する犯人たち。果たして十津川は、怜悧狡猾な犯人を捕らえることができるのか?
小説の目次
- 旧天城トンネル
- 越後湯沢
- 雪の戦場へ
- コントロール・ルーム
- 脱出
- 更に北へ
- 一つの結末
小説に登場した舞台
- 旧天城トンネル(静岡県伊豆市)
- ガーラ湯沢駅(新潟県・湯沢町)
- レストハウス「チアーズ」(新潟県・湯沢町)
- 越後湯沢駅(新潟県・湯沢町)
- 大清水トンネル(新潟県・湯沢町)
- 関越トンネル(新潟県・湯沢町)
- 上毛高原駅(群馬県・みなかみ町)
- 谷川岳パーキングエリア(群馬県・みなかみ町)
- 土樽パーキングエリア(新潟県・湯沢町)
- 石打トンネル(新潟県南魚沼市)
- 六日町トンネル(新潟県南魚沼市)
- 塩沢石打インターチェンジ(新潟県南魚沼市)
- 湯沢インターチェンジ(新潟県・湯沢町)
- 新潟市街(新潟県新潟市)
- 新潟空港(新潟市東区)
- 新潟港(新潟県新潟市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
その他の警察関係者
- 三浦:
静岡県警の警部。 - 中田:
新潟県警捜査一課の警部。 - 松本:
新潟県警の刑事部長。 - 三木:
群馬県警の警部。 - 吉田:
警視庁の警部。十津川の同期。 - 岩井:
警官。 - 見城:
警官。
事件関係者
- 上条ゆき:
21歳。S大学国文科に通う女子大生。旧天城トンネルの爆発に遭遇する。 - 森田みどり
- 21歳。S大学国文科に通う女子大生。旧天城トンネルの爆発に遭遇する。
- 小笠原明美:
21歳。東京在住。N大学の3年生。ガーラ湯沢のゴンドラの爆発で負傷する。 - 関口悠:
26歳。小笠原明美の彼氏。M銀行大泉支店に勤めている。N大学卒業。ガーラ湯沢のゴンドラの爆発で負傷する。 - 松田一夫:
S工業のサラリーマン。杉並区永福町に住む。 - 安藤正:
運転代行の男。 - 檜山功:
以前、関越トンネルの事故で亡くなった。 - 桜井ひろみ:
以前、関越トンネルの事故で亡くなった。 - 桜井由紀:
桜井ひろみの姉。 - 原田俊一:
檜山功の大学の先輩。かつて刑事をしていた。 - 池内文彦:
医師。原田俊一と同じ高校を卒業。
その他の登場人物
- 武藤:
JR東日本の保全部長。 - 渋谷:
日本道路公団の保全部長。 - 奥井:
ガーラ湯沢保全基地の部長。 - 仁科:
日本道路公団の湯沢管理事務所の所長。 - 上野:
日本道路公団の総裁。 - 中根:
日本道路公団の管理部長。 - 石川:
M火災に勤務。原田俊一と池内文彦の同級生。 - 小林:
原田俊一と池内文彦の同級生。
個人的メモ
- 電車の窓に雪がぶつかる様子の表現が実にうまい→「雪は、ぱさぱさと、音を立てる感じで、窓ガラスに衝突し、水になって、流れていく。それでも、窓ガラスにへばりつく雪片もある。よく見ると、それは、きれいな六角形の結晶になっているのだ」
- 十津川警部は旧天城トンネル事件とガーラ湯沢事件の「匂いが同じ」と言った。刑事のカンというやつか。
- 犯人像を描き出すのが難しい事件。捜査は難航。
- 犯人像についての分析が鋭い。「(一人は)単純な、割り切り型の性格。男らしいが単純。(二人目は)頭がいい。ただ、育ちのいい感じで他人にひきずられやすい。(3人目は)美人でそこそこ頭もいいが男に惚れっぽい」。
総評
われわれ一般人は警察を一括にしてみてしまう。しかし、警察は巨大な組織である。
内閣総理大臣-国家公安委員会のもとにある警察庁、東京都-東京都公安委員会のもとにある警視庁。そして、各知事-県の公安委員会のもとにある県警。それぞれ、協力はしているが独立した組織である。たとえ、総理大臣であっても各都道府県警を動かす権限はない。
それぞれに組織のルールがあり、面子がある。各県警同士の関係もあるだろう。
そして、そこで働く警察官は公務員であり、ひとりの人間である。それぞれの生活がかかっているし、出世競争もある。出世競争を勝ち上がりたければ、手柄をとりたいと思うのが自然であり、他都道府県の県警に手柄を横取りされたくないと思うのも当然だ。
本作には、そんな警察組織や警察同士の関係をあらわした一節がある。
あの若い警部にとって、一世一代の晴れの舞台になるだろう。
十津川は、亀井、西本、日下の三人に向かって、
「今日は、われわれは、あくまで、脇役に徹したいと思っている。主役は、新潟県警だ。ときに応じて、助力はするが、それは、県警の要請があったとき、初めて、実行することに限る。」と話した。「県警が、邪魔するなと、いっているわけですか?ここまで、こちらは、県警と協力して、捜査に当って来たのに」と、西本が、文句を、いう。
十津川は、笑って、
「今日は、今回の事件のフィナーレなんだ。県警に、花を持たせてやろうじゃないか」
といった。
この一節だけでなく、本作全体で新潟県警の中田警部が自分の手柄をえたいと張り切る様子がありありと描かれていた。
警察だって人間なのだ。組織人なのだ。
登場人物をひとりの人間として、家族をもつ人間として、組織の中でいきる人間として描く。西村京太郎先生のこうした気くばりと思考の広さが好きなのだ。
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