初版発行日 2007年10月25日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
疑惑と殺意、絶望と哀しみを乗せ、夜行列車は、北へ向かう!二重三重に仕掛けられた「罠」。上野駅のホームに残された「謎」に、十津川警部が挑む!
あらすじ
北海道から、成功を夢みて上京した青年・本田剛。だが、職を失い、絶望のなか母の見舞いのため、北斗星が発車する上野駅に向かった。そこで同郷の成功者・小池と出会った本田は、はずみで彼を殺害してしまう!小池の持つ「カシオペア」の切符を手に入れ、「カシオペア」に乗り込むが、客室には、謎の女性が乗り込んでいた。数日後、東京に戻った本田の目の前で、見知らぬ女性が刺殺された!場所は上野駅13番線ホーム……!夜行列車が行き交う上野駅での殺人事件に、十津川警部の名推理は!?
小説の目次
- 敗者の一撃
- 二番目の犠牲者
- 脅迫
- 買収
- 追跡
- 予感を信じて
- 再び13番線ホーム
冒頭の文
本田剛は、北海道の美唄市で、生まれた。
小説に登場した舞台
- 上野駅(東京都台東区)
- 寝台特急「北斗星」
- 寝台特急「カシオペア」
- 品川駅(東京都港区)
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- 定山渓温泉(北海道札幌市南区)
- 洞爺湖温泉(北海道・洞爺湖町)
- 寝台特急「あけぼの」
- 秋田駅(秋田県秋田市)
- 東能代駅(秋田県能代市)
- 快速「リゾートしらがみ」
- 十二湖駅(青森県・深浦町)
- 福島駅(福島県福島市)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 黄金崎不老ふ死温泉(青森県・深浦町)
- 大曲温泉(秋田県大仙市)
- 釜石(岩手県釜石市)
- 陸中海岸(宮城県気仙沼市)
- 石巻駅(宮城県石巻市)
- 銀山温泉(山形県尾花沢市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 横田:
鉄道警察隊の隊長。 - 田口:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。
相川興業
- 相川昇:
55歳。都内の焼肉チェーン「相川興業」の社長。 - 相川優子:
25歳。相川昇の娘。相川昇の秘書。 - 小田:
相川興業の幹部。 - 平田圭介:
30歳。相川興業の幹部。 - 小堺了:
相川興業の幹部。 - 佐伯勝夫:
35歳。相川興業の幹部。 - 富田清隆:
相川興業の幹部。 - 江川麻里:
小池慎太郎の個人秘書。青森県弘前市出身。 - 江川由里:
江川麻里の妹。 - 戸田麻美:
25歳。世田谷区三軒茶屋のマンションに在住。上野駅13番線ホームで何者かに刺殺される。殺される1週間前まで小池慎太郎がオーナーのジンギスカンチェーン店に勤務していた。
事件関係者
- 本田剛:
北海道美唄市生まれ。成功を夢見て上京したが、東京に敗北した落語者。上野駅の身障者用トイレで小池慎太郎を突き飛ばし死なせてしまった。 - 小池慎太郎:
60歳。ジンギスカンチェーンのオーナー。港区白金在住。北海道江別市生まれ。上野駅のトイレで本田剛に突き飛ばされて死亡する。 - 小池康子:
小池慎太郎の妻。うつ病で中目黒の病院に入院中。 - 安田:
小池慎太郎の秘書。
その他の登場人物
- 本田聡子:
本田剛の母親。美唄市内の病院に入院していが、病死した。 - 伊藤:
40歳。弁護士。 - 笠井:
寝台特急「北斗星」の車掌。 - 上原知子:
小池慎太郎の元秘書。
印象に残った名言、名表現
(1)電車や飛行機の座席グレードは、ある種のパラメーターになる。
本田は、いつも、東京で成功して、13番線ホームから「カシオペア」のスイートルールに乗って、故郷の美唄に帰ることを、夢見ていた。
(2)駅のホームには郷愁がある。
上野駅の13番線ホームに行くと、このホームが、どこかで、故郷と繋がっているような気がして、心が休まるのである。
感想
本作の冒頭にかかれた、石川啄木の歌。
ふるさとの訛なつかし停車場の
人ごみの中にそを聴きにゆく
なんとも、哀愁ただよう始まりである。
かつて、上野駅には、郷愁を感じさせる特別な何かがあった。それは、東北を行き来する夜行列車の発着駅になっていたからでる。
石川啄木の歌にあるように、上野駅には、東北訛りの言葉が行き交っていたし、そこに、郷里の懐かしさを感じていた人も、いたのかもしれない。
そして、上野駅には、夢抱えて上京する者、夢叶えて郷里へ凱旋する者、そして、夢やぶれて出戻りする者たちの、さまざまな思いが、交錯していたのである。
だが、すでに夜行列車や寝台特急は廃止され、東北を行き来するのは、もっぱら新幹線となってしまった現在、上野駅が東北の玄関口であった、かつての面影は急速に失われている。
だから、本作は、玄関口であった古き良き上野駅の、最終盤を描いた、貴重な書でもあるのだ。
もちろん、ミステリーとしての、本書も、秀逸な作品である。
真犯人たちの計画の中に、突然、紛れ込んだひとつの出来事。これが、事件を複雑にし、犯人たちも十津川警部たちも、撹乱されてしまう。
今回の事件は、連続殺人事件でもあり、”不連続殺人事件”でもあった。
そして、一番のおもしろさが、本田剛と江川麻里による、逃避行である。犯人たちから追われる緊張感と、東北各地の温泉を巡る旅情が、うまく溶け合っていた。
十津川警部シリーズの逃避行は、おもしろい。わたしが、一番好きなシチェーションの一つである。この逃避行は、2006年に刊行された「北への逃亡者」も、非常におもしろいのでこちらもぜひ読んでもらいたい。
最後に、本作刊行にあたり、発表された西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
列車名では白鳥、路線では北陸本線が好きだが、駅となると、やはり、上野駅ということになってくる。京都駅は、航空母艦みたいになってしまったし、函館駅は、円筒形のケーキみたいになってしまった。その点、上野駅は改修したといっても、昔の面影を残してくれているのが、ありがたい。上野駅で一番好きな所というと、どうしても13番線ホームになる。もちろん、北斗星や、カシオペアという夜行列車が出発するからだ。夜行列車の乗客は、朝まで顔を合わせないから、その中に、上野駅で別れた恋人もいるだろうし、殺人犯だっているかもしれない。
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