初版発行日 2003年3月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編
十七文字に詠み込まれた復讐へのカウントダウン。未曾有の復讐劇に十津川警部、大ピンチ!復讐を仄めかす俳句が詠まれ、未曾有の殺人撃が開幕する長編ミステリー!
あらすじ
松山市の俳句祭りで、「血の匂い・怨念・死ぬ」といった言葉が詠み込まれた俳句が見つかった。殺意を秘めた不吉な響きに、十津川警部は警戒を強め、過去の事件を洗い直した…。やがて事故死とされた二つの事件が結びついた。被害者は大学教授とOL。何ら接点が見えない二人だが、実は俳句の同人誌仲間だったー。
小説の目次
- 亀井刑事の休日
- 二つ目の事件
- HAKUBA
- ある句集
- 二匹の蛾
- 花冷えの
- テープは語る
- 公判
- 疑惑の根
- 朧夜の、最後の
冒頭の文
新春早々、亀井刑事が、捜査一課長に、休暇を願い出た。
小説に登場した舞台
- 松山空港(愛媛県松山市)
- 道後温泉(愛媛県松山市)
- 松山市役所(愛媛県松山市)
- 箱根(神奈川県・箱根町)
松山観光港(愛媛県松山市) - 石和温泉(山梨県笛吹市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 橋本豊:
私立探偵。警視庁捜査一課の元刑事で十津川警部の部下だった。 - 田口:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。 - 鈴木:
化学警察研究所の筆跡鑑定の専門家。 - 土井:
神奈川県警捜査一課の警部。 - 長谷川:
山梨県警の刑事。 - 小杉:
検事。
事件関係者
- 山下俊吾:
58歳。S大学の物理学教授。資産家。4月に奥多摩の山中で死体で見つかった。 - 山下保子:
38歳。山下俊吾の妻。 - 鹿島さとみ:
22歳。東京のN製薬で働くOL。4月に道後温泉への旅行中、松山観光港の岸壁近くで水死体で発見される。 - 関根浩司:
S大学の化学科の助教授。山下俊吾の後輩。 - 笠原文彦:
サラ金の経営者。「HAKUBA」の同人。笠原だるまの名前で多聞賞を受賞している。 - 庄司弘:
笠原文彦の秘書。空手三段。読唇術の専門家。 - 大石翔:
26歳。S大学の学生。山下俊吾の教え子。 - 安岡麻美:
20歳。S大学の学生。山下俊吾の教え子。 - 向井朝香:
23歳。S大学の学生。山下俊吾の教え子。 - 野田公一:
21歳。S大学の学生。山下俊吾の教え子。 - 関真一郎:
23歳。S大学の学生。山下俊吾の教え子。 - 丸山かおる:
20歳。S大学の学生。山下俊吾の教え子。
その他の登場人物
- 松崎健:
松山市役所の秘書室長。 - 石井史夫:
松山市長。松山市俳句賞の選者。 - 畑宏子:
山下家の通いのお手伝い。 - 関根洋子:
関根浩司の妻。 - 久保田匡:
65歳。俳句同人誌「HAKUBA」の責任者。 - 川村:
東京で喫茶店を営む。「HAKUBA」の元同人。 - 辻:
80歳。K高校の元教師。 - 川藤:
有名アナウンサー。山下教授を偲ぶ会の司会をつとめる。 - 丹羽三郎助:
75歳。有名な俳人。 - 三田あやか:
俳人。丹羽三郎助の弟子。 - 谷口:
聾学校の教師。 - 水元:
37歳。弁護士。S大学の卒業生。 - 柏木信:
弁護士。S大学の卒業生。 - 森中恵子:
弁護士。S大学の卒業生。 - 吉野貴子:
目黒代議士の秘書。S大学の卒業生。 - 小坂井要:
65歳。小坂井工業の元社長。世田谷区に住む資産家。自宅で不審死。 - 里川実:
経営コンサルタント。小坂井要の親戚。 - 里川恵子:
里川実の妻。小坂井要の親戚。 - 羽田京子:
小坂井要の親戚。 - 金田:
56歳。小坂井工業の秘書をしていた。現在は金田メカニックを経営している。小坂井要の遠い親戚。 - 加東:
67歳。弁護士。小坂井要の友人。 - 青木:
弁護士。 - 福田:
27歳。元消防署の救急隊員。現在は都内の警備会社勤務。
印象に残った名言、名表現
(1)亀井の妻孝行。
妻の公子は、食事の支度も、後片付けもしなくて、豪華な食事が出来ると、そのことを、やたらに、喜んでいる。改めて、亀井は、日頃、公子が働き過ぎていたのだと感じて、心が傷んだ。
(2)私立探偵の仕事術。
橋本はいろいろな肩書の名刺を作っている。道義的には、いけないのだろうが、私立探偵というと、相手は、引いてしまって、何も喋ってくれないことが多い。そんな時に、仕方なく、もっともらしい肩書きの名刺を出す。
(3)夫婦についての考察。
夫婦というのは、いったい、何だろうと、十津川は考える。愛していたら、夫婦というのは、お互いに、影響し合うものではないのか。
夫が、俳句をやっていれば、妻も、やってみようと思うものではないのか。もちろん、夫が、絵が好きで、妻がピアノが好きで、お互いの趣味を尊重して、干渉しないということも考えられるし、それも夫婦の一つの形だろう。
(4)寒の戻りの春。何か起きそうな、嵐の前の静けさ。
四月二十日は、朝からよく晴れていたが、寒かった。箱根は仙石原に、霜がおりたといわれる。さすがに、昼近くになると、気温もあがったが、風の冷たいのに変りはなかった。
(5)松山観光港にて思いを馳せる、橋本豊。
橋本は、港へ着いた。
今日は、まだ、明るかった。彼は、岸壁に腰を下し、瀬戸内海に、眼をやった。
だが、海の向うを見つめていた。そこにあるのは、去年の四月二十八日に、ここで死んだ、若い女のことである。
感想
旅情あり、大どんでん返しありの、壮大な作品だった。
物語の冒頭は、亀井刑事と妻の道後温泉旅行という、旅情あふれる冒頭からはじまる。亀井が道後温泉に来た目的は、単なる旅行できたのではなく、亀井刑事が松山で投稿した俳句が、松山市の俳句特別賞を受賞し、その授賞式で呼ばれたことであった。
この特別賞には裏があった。実は、亀井が特別賞を受賞し、松山市役所に呼ばれたのは、「死」を匂わせる、3つの句について、松山市が亀井に相談したいことが理由だったのだ。
ここから、事件の幕があける。
この後のあらすじについては、大どんでん返しの伏線にも関わってくるので、ここで明かすことは出来ないが、本作の中で、とても面白いシーンがあった。
それは、劇中で開かれた「山下教授を偲ぶ会」の一幕。
ここには、山下教授の仇討ちを目論む勢力、仇討ちを目論む勢力を暴こうとする人物たち、それを阻止しようとする警察。3つの勢力がいることになる。当然、警察は仇討ちを目論む勢力も、暴こうとする人物たちも、誰なのかわからない。
この3つの思惑がひとつの場所で、複雑に絡み合う、この微妙な空気感が、実にミステリーらしく、緊張感があった。こうした密室の思惑の絡み合い、探り合いは、ミステリーの醍醐味だと思う。
最後に、本作の根底には、たしかに俳句があった。
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