初版発行日 1999年6月30日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 長編
殺人現場に残されたサクランボの謎。山形の果樹園をめぐる愛憎と欲望激。十津川警部の推理が冴える傑作長編ミステリー!
あらすじ
有名写真家・君原、女優の真木が相次いで殺され、そのどちらの犯行現場にも真っ赤なサクランボが残されていたー。何かを感じた十津川警部は産地である山形に向かう。そこに第三の殺人事件が発生。現場には、被害者の女社長・木元とその恋人の青い眼の美青年・沢木の写真が。三つの事件をつなぐ赤いサクランボと青い眼の美青年ー。
小説の目次
- 赤い殺意
- 青い殺意
- 赤の誘惑
- 青の誘惑
- 赤の終章
- 青の終章
冒頭の文
渋谷区松濤の高級住宅地の一角で、第一の惨劇が起きたのは、六月五日の夜である。
小説に登場した舞台
- 山形駅(山形県山形市)
- 天童温泉(山形県天童市)
- 作並温泉(宮城県仙台市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 坂口刑事:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 君原文明:
50歳。写真家。渋谷区松濤の自宅マンションで死体で発見される。 - 沢木謙一郎:
モデル、画家、音楽家。 - 真木昭子:
女優。世田谷区太子堂のアパートで死体で発見される。 - 木元綾:
42歳。人材派遣会社の社長。杉並区永福町に在住。 - 木本可奈:
木本綾の娘。アメリカに留学中。 - 片山直道:
天童の片山果樹園を営む。作並温泉へ旅行へ向かう途中で事故死した。 - 片山冴子:
片山直道の妻。作並温泉へ旅行へ向かう途中で事故死した。 - 片山明:
片山夫妻の息子。6歳の時、横浜のお寺に養子に出された。 - 田上フミ:
恐山にいた70代のイタコ。 - 広瀬明:
真木昭子の甥。片山果樹園で働き、片山夫妻の死後、養子になって片山果樹園を引き継いだ。 - 谷沢正:
池袋に事務所をもつ弁護士。 - 前川紀夫:
32歳。谷沢正が雇った私立探偵。元ボクサー。 - 荒木正一郎:
成城のMスーパーの社長。
その他の登場人物
- 中村:
警視庁初動捜査班の警部。 - 木下:
山形県警の刑事。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 君原妙子:
君原文明の妻。 - 五十嵐:
君原文明のマネージャー。 - 根本広明:
50歳。写真家。 - 池田:
山形農協の広報課長。 - 林晋一:
50歳。KIタクシーの運転手。 - 井口あけみ:
沢木謙一郎と同じマンションに住む女性。 - 皆川セツ子:
片山果樹園の従業員。 - 安藤伸吾:
片山果樹園の従業員。 - 飯田:
長距離トラック運転手。 - 笠松:
木元綾の顧問弁護士。 - 前原:
天童市役所の戸籍課長。 - 池谷:
天童新報の記者。 - 笠原:
山形駅前の物産店の店主。片山夫妻の友人。 - 木村:
宮城県のW村に住む住人。
印象に残った名言、名表現
(1)サクランボの世界、山形。
市内を抜けて、郊外に出る。たちまち、そこは、赤い世界になった。サクランボの樹が並ぶ。むき出しになっている樹もあれば、大きなネットの中に収まっている樹もある。枝につくサクランボの実が多くて、どの枝も、重く、垂れ下っている。
(2)正義と悪。
「正義なんて、見方が変われば、簡単に、悪になってしまうでしょう。その逆だってある」
(3)人物像をつかむこと、十津川警部の信念。
「沢木という名前が、本名かどうかも、わからない。私としては、彼という人間が、よくわかってから、もう一度、今回の事件を、考え直してみたいんだよ」
(4)サクランボと並ぶ、山形の名物。
例えば、山形には、いも煮会という風習がある。秋の一日、サトイモ、コンニャク、牛肉、ネギを具に、砂糖、酒、醤油を使って調理した鍋料理である。
感想
最初はよくわからなかったいくつもの点が、最後にひとつの線になる。芸術的である。すべてがつながったとわかった時は、感動すら覚えてしまう。この作品を読み終わったときの、最初の感想である。
本作の目次は、次の6章からなっている。
- 赤い殺意
- 青い殺意
- 赤の誘惑
- 青の誘惑
- 赤の終章
- 青の終章
最初、この目次タイトルをみたとき、「赤と青を交互に並べただけで、手抜きっぽいな」と感じてしまった。だが、これは大きな間違いだった。
この赤と青に大きな意味があり、「殺意、誘惑、終章」にも、大きな意味が隠されているのだ。
そして、本作の重要人物、沢木謙一郎。
この人物についての最初の印象と、真相がすべてわかった後の印象が、まったく違って見えるのもおもしろい。冷徹でいけ好かない若者が、愛と正義のために戦う好男子へと変貌していくのである。
これは西村京太郎先生が、読者にしかけた心理的なトリックだと思う。
前半と後半で人物の印象がまったく異なってしまうトリック作品は、他の作品でも発表されている。
1989年刊行の名作「十和田南へ殺意の旅」がまさにそれだろう。この作品も傑作なので、ぜひ手にとってみてほしい。
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