初版発行日 2011年2月16日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 長編
私の評価
怪・異・蠢・動。小野篁の遺した予言書の謎を解き明かせー。本作を読めば、京都のマニアックな知識がわかる!
あらすじ
平安時代に活躍した小野篁。現世と霊界とを自由に行き来したという彼の予言書には京都に災いが起こると記されていた。その予言書の持ち主が十津川を訪れ、忌まわしい来歴について語り調査を依頼すると、行方を絶った。京都で次々と起こる怪事件。予言書との関連は何か?悲劇を食い止めるべく、十津川は京都へ向かった!
小説の目次
- 予言の書
- もののけともののふ
- 百人委員会
- 祗園祭の裏で
- 夜と昼の戦い
- 決戦第一夜
- 古都再見
冒頭の文
中央テレビの、毎週日曜日午後八時からのゴールデンタイムに「本物か偽物か」という番組がある。
小説に登場した舞台
- 白峯神宮(京都府京都市上京区)
- 六道珍皇寺(京都府京都市東山区)
- 晴明神社(京都府京都市上京区)
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 下鴨神社(京都府京都市左京区)
- 桂川(京都府京都市)
- 四条通(京都府京都市)
- 引接寺(千本ゑんま堂)(京都府京都市上京区)
- 化野(京都府京都市右京区)
- あだし野念仏寺(京都府京都市右京区)
- 羅城門跡(京都府京都市南区)
- 産寧坂(三年坂)(京都府京都市東山区)
- 渡月橋(京都府京都市右京区)
- 貴船神社(京都府京都市左京区)
- 鞍馬山(京都府京都市左京区)
- 北野天満宮(京都府京都市上京区)
- 鞍馬寺(京都府京都市左京区)
- 崇道神社(京都府京都市左京区)
- 文子天満宮社(京都府京都市下京区)
- 比叡山延暦寺(滋賀県大津市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 高田秀之:
世田谷区三軒茶屋で質屋を営む。「本物か偽物か」に小野篁の予言書を披露する。 - 高田文子:
高田秀之の妻。 - 横山:
高田秀之の友人。八王子に在住。火事で焼死する。 - 白梅:
京都の芸姑。自宅マンションで死体となって発見される。 - 小野亮一郎:
32歳。国立大学の准教授。小野篁の子孫を自任している。 - 安倍貞光:
32歳。安倍晴明の子孫を自任している男。 - 荒木:
京都市長。 - 小柴喬:
40歳。R大学の准教授。日本史が担当。京都の歴史に詳しい。 - 平将之:
平将門の子孫を名乗る男。
その他の登場人物
- 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 井上:
中央テレビのプロデューサー。 - 大倉隆司:
中央テレビのアナウンサー。 - 木下明日香:
中央テレビの女性アナウンサー。 - 鈴木:
「本物か偽物か」に出演しているアマチュアの研究家。 - 三浦:
京都府警の警部。 - 青木麻矢:
小柴教授のゼミに参加している大学生。 - 柴田:
京都府警の警視。
印象に残った名言、名表現
(1)サッカーの守護神、白峯神宮。
現在の白峯神宮は、サッカーの上達を願う若者が、参拝することが多い。元々、ここは蹴鞠と和歌の宗家である飛鳥井家の邸宅があった場所で、精大明神を祀る神社があり、その神社を引き継ぐ形で、白峯神宮が、できあがったからである。
(2)京都の鳥野辺。
六道とは、仏法の地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上という六つで、人間は生前の行いによって、いずれかに落ちていく。そして、この辺りは、鳥野辺と呼ばれ、平安時代以前から、葬場の入り口だった。
(3)もののふから武士へ。
「もののけ退治のために生まれたもののふ集団は、その後、どんどん専門家していき、戦国時代の武士集団になって、刀や槍、弓矢から、鉄砲を武装するようになり、もののけと戦うことを忘れてしまったのです。
(4)化野。
京都の西、小倉山の麓に広がる化野は、平安時代、北の蓮台野、東の鳥辺野と並ぶ平安京の三代葬送地と呼ばれた。
感想
本作は、西村京太郎先生の、京都愛にあふれた作品である。と同時に、十津川警部シリーズとして刊行したことに、違和感を感じえない作品でもある。
物語の都は、千年の都といわれる京都。この京都について、作中では、次のように記されている。
京都は美しい街だが、同時に、怨念の渦巻く魔界でもある。
桓武天皇が都を平城京から平安京、今の京都にうつしてから千二百年。その間に、さまざまな怨念が生まれ、京都の町をさまよっている。魔界と呼んでも少しも不思議ではない街、それが京都である。
この京都で、源氏物語の夕顔役の芸姑が服毒死する。源氏物語さながらの事件が起き、それを安倍晴明と小野篁の子孫が解決に向けて動き出すのだ。
「小野篁の方は、武術、呪術、幻術に秀れた者たちを集めて、研鑽に励み、悪魔たちの襲来に備えているそうです。安倍晴明の方は、晴明神社に、式神を集めて、悪霊退散の祈りを捧げているといわれています」
何とも、京都らしい怪しげな雰囲気に包まれた事件である。
本作には、京都のさまざまな場所が登場する。北野天満宮や下鴨神社のように有名なお寺も登場すれば、文子天満宮社など、かなりマニアックな場所も登場する。
こういった地名の豊富さも、京都に実際に住んだ西村京太郎先生ならではの、知識なのだと思う。
本作は、ミステリーという媒体を通して、京都の歴史について解説した書にもなっている。本作を読めば、マニアックな京都の知識が得られると言っても過言ではないと思う。
ただし、個人的には、ここまでやるなら、十津川警部シリーズの中でやらなくても良かったのではないか?と思う。
京都についての予備知識がない人や、京都に興味がない人は、本作を読んでも、まったくついていけないと思う。だから、本作は、読む人が限られた作品であろう。
多分、西村京太郎先生は、本当は歴史小説を書きたいのだろうと思う。
だが、出版社の依頼との兼ね合いで、仕方なく、自分が書きたい歴史ものを、十津川警部シリーズに組み込むしかなかったのだと、推察される。
コメント