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「知床 望郷の殺意」感想レビュー。あらすじ、舞台、登場人物

知床 望郷の殺意小説

初版発行日 2007年3月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編

私の評価 4.6

POINT】
世界自然遺産・知床と欲望渦巻く大都会・歌舞伎町を繋ぐのは謎の脅迫状!
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あらすじ

都会の生活に敗れ、寝台特急「北斗星」と飛行機を乗り継いで帰った故郷・知床の町で、元刑事の水木を待っていたのは、一通の脅迫状だったー。東京に舞い戻った水木。だが、人探しを依頼した元同僚の葛城が殺され、年老いた母親の身にも危険が迫る!そして、十津川は!

小説の目次

  1. 敗者
  2. ウトロと海と
  3. 都会のジャングルに戻る
  4. 盛り場の匂い
  5. 知床と東京の間
  6. 五年前の傷痕
  7. 帰還ー倒木再生

冒頭の文

水木は、その日、自分を雇ってくれたサラ金大手の「トラスト」に辞表を出した。故郷の知床に帰る決意がついたのである。

小説に登場した舞台

  • 羽田空港(東京都大田区)
  • 上野駅(東京都台東区)
  • 夜行列車「北斗星」
  • 南千歳駅(北海道千歳市)
  • 新千歳空港(北海道千歳市)
  • 女満別空港(北海道・大空町)
  • オシンコシンの滝(北海道・斜里町)
  • 知床第一ホテル(北海道・斜里町)
  • ウトロの町(北海道・斜里町)
  • ウトロ漁港(北海道・斜里町)
  • 知床斜里駅(北海道・斜里町)
  • 新宿駅(東京都新宿区)
  • 歌舞伎町(東京都新宿区)
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登場人物

警視庁捜査一課

  • 十津川省三:
    警視庁捜査一課の警部。主人公。
  • 亀井定雄:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。
  • 西本明:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 三田村功:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。

警察関係者

  • 林:
    赤坂警察署の刑事。水木和俊の後輩だった。
  • 有田:
    新宿警察署の署長。
  • 小林:
    池袋警察署生活安全課の警部補。

坂井交易

  • 坂井啓一:
    坂井交易の社長。元新宿警察署の署長。
  • 鈴木:
    坂井交易の社員。
  • 野上:
    坂井交易の社員。

事件関係者

  • 水木和俊:
    サラ金大手「トラスト」を退職し、故郷の知床にUターンする。元刑事。
  • 水木ヨネ:
    72歳。水木和俊の母親。知床で一人暮らす。
  • 井上秀子:
    水木和俊の行きつけだった新橋にあるバーのママ。
  • 山口聡美:
    新橋にあるキャバクラ「ノワール」のホステス。水木和俊を痴漢扱いした女。自宅マンションで死体となって発見された。
  • 葛城:
    新宿にある葛城興行の社長。元刑事で水木和俊の同僚。
  • 宮田健太郎:
    元葛城興行の社員。歌舞伎町の便利屋。
  • みどり:
    本名、斉藤純。歌舞伎町のクラブ「ルージュ」のホステス。宮田健太郎の知り合い。
  • 黒田圭介:
    歌舞伎町のクラブ「ルージュ」を運営するフジ興行の副社長。元板橋警察署の警部。
  • 滝田洋一郎:
    歌舞伎町でバーを営む。5年前、歌舞伎町で売春組織を運営し、坂井に摘発された男。
  • 野村由美子:
    22歳。5年前、新宿歌舞伎町の売春組織で働いていた女性。北海道出身。現在、行方不明。

その他の登場人物

  • 水木陽子:
    水木和俊の元妻。
  • 田中:
    水木和俊の警察学校時代の同期。
  • 内藤:
    水木和俊の中学時代の友人。
  • 葛城加奈子:
    葛城の妻。
  • 池上:
    観光船運行「スピード知床」の店主。

印象に残った名言、名表現

(1)北海道の景色。

周囲の景色は、本州とは、全く違っている。とにかく、広いのだ。見渡す限りの平地が続いている。それも、真っ平らではなくて、緩く波を打ったような畑や、牧草地が、延々と続いているのである。

(2)ウトロの町。

落ち着きのない町に見える。無計画にニョキニョキと、観光客目当てのホテルやラーメン店や寿司屋、さらにはエゾシカの角を売る店が並んでいて、統一が、取れていないのだ。

これが、おそらく、観光客が急激に増えた新しい町というものなのだろう。

(3)新宿歌舞伎町の雑踏。

相変わらずの、雑踏である。ネオンが、明るいというようりも、目に痛い。

歌舞伎町の、アーケードをくぐると、今度は、耳が痛くなった。人々の声、パチンコ屋の、ジャラジャラする音、何やら喚いてる拡声器の声、そんなものが雨とごちゃ混ぜになって、水木の体を、包んでくる。うるさいが、なつかしい音でもある。

感想

本作の実質的な主人公は、水木和俊である。

元刑事。上司との衝突も厭わない一匹狼タイプ。痴漢冤罪事件で警察をやめ、東京から都落ちするかたちで、故郷知床に帰る男。不器用だが、正直者。ひと言でいえば、無骨な男である。

だから、物語全体に、無骨な雰囲気が漂っているのだ。これが、なんとも、新鮮である。

十津川警部は、人情に熱く、時にセンチメンタルだが、冷静で、論理的である。だから、いつもの十津川警部シリーズには、論理的かつ感傷的な雰囲気が漂う。だが、今回は、水木和俊が主人公なので、いつもとは、違った空気感になるのだ。

そして、水木和俊の無骨感が、知床の景色と、妙にマッチする。

何十年も知床の海岸で昆布を取り続けている母、水木和俊を心配して一緒に知床までついてきた井上秀子。この3人が、知床で幸せに暮らす姿が、涙を誘うのである。

最後に、水木和俊が十津川警部に宛てた手紙には、次のような言葉があった。

知床には、トドマツが多いんですが、そのトドマツが、倒れて、腐っていくと、そこから、新しいトドマツの芽が出るんですよ。そうやって、知床の森は、蘇っていくと、いわれています。これを、倒木再生といいます。

今日も、歩いていたら、それらしい朽ち木から、新しいトドマツの芽が、出ているのを発見しました。

私たちも、できれば子供を作って、水木家の跡を継いでもらいたいと思っていますが、そうなるかどうか。

確かに、水木和俊は、東京に敗れてしまった。それでも、水木和俊は、秀子との間に子供をつくり、新しい希望を生み出していくのだ、そんな余韻を感じさせる、最後だった。

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