初版発行日 1985年11月20日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編
私の評価
2重、3重に張り巡らされたミステリー。最後の最後まで、結末がわからない!
あらすじ
ワールド時計社長令嬢の楠木かおり(27)が、国鉄の人気欧風列車サロンエクスプレスから、忽然と姿を消した。列車は「京都号」と名づけられ、かおりは新製品ペア・ウォッチの売出しキャンペーンの責任者として八十組のカップルを招待し、京都へ向かっていたのだ。殺人か?それとも誘拐か?彼女には失踪や自殺の動機はないのだ。いかにして彼女は姿を消したのか?そして列車内のトイレで発見された女性客の不審な縊死体……。ご存知十津川警部の本格的捜査が、ただちに開始された!
小説の目次
- 天敵
- 第一の殺人
- 消えた
- 脅迫
- 身代金
- 帰りの旅
- ピノキオ
- 二つの方向
- ペンション
- ある接点
- 東山温泉
- 影の人物
冒頭の文
警視庁捜査一課の十津川警部は、急に、課長室に呼ばれた。
小説に登場した舞台
- 東京駅(東京都千代田区)
- サロンエクスプレス「京都号」
- 品川駅(東京都港区)
- 沼津駅(静岡県沼津市)
- 浜松駅(静岡県浜松市中区)
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 二子玉川(東京都世田谷区)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 山中湖畔(山梨県・山中湖村)
- 帝国ホテル東京(東京都千代田区)
- 祝田橋(東京都千代田区)
- 会津若松駅(福島県会津若松市)
- 東山温泉(福島県会津若松市)
- 成田空港(千葉県成田市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 北原早苗(後の北条早苗):
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。楠木かおり護衛のために、三沢刑事とコンビでサロンエクスプレスに乗車する。 - 三沢刑事:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。楠木かおり護衛のために、北原早苗刑事とコンビでサロンエクスプレスに乗車する。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 岩村:
築地署の刑事。 - 八代:
山梨県警の警部。 - 滝田:
福島県警の警部。
事件関係者
- 楠木社長:
57歳。ワールド時計の社長。 - 楠木かおり:
27歳。楠木社長のひとり娘。ワールド時計の宣伝部長。独身。 - 楠木昭子:
50歳。楠木社長の妻。 - 大場忠郎:
ワールド時計の企画課長。 - 原田幸子:
ワールド時計の企画でサロンエクスプレスに乗車していた客。浜松駅を出発した直後、トイレで死体となって発見された。 - 原田一夫:
原田幸子の夫。ワールド時計の企画でサロンエクスプレスに乗車していた客。晴海埠頭で死体となって発見された。 - 君原洋介:
カメラマン。楠木かおりの恋人。 - 水谷淳:
38歳。喫茶店「ピノキオ」のマスター。5年前、脱サラした喫茶店をはじめた。 - 水谷雅子:
35歳。水谷淳の妻。喫茶店「ピノキオ」の女将。 - 今村栄:
31歳。カメラマン。君原洋介の友人。水谷夫妻の遠戚。
その他の登場人物
- 鈴木清子:
楠木家のお手伝い。 - 安田由加里:
25歳。デザイナー。三沢の恋人。大会社の社長の娘。 - 羽賀進:
ワールド時計の企画でサロンエクスプレスに乗車していた客。原田夫妻と同じコンパートメントに乗車していた。 - 羽賀弘子:
羽賀進の妻。ワールド時計の企画でサロンエクスプレスに乗車していた客。原田夫妻と同じコンパートメントに乗車していた。 - 神林善吉:
もぐりの金貸し。原田一夫に100万円を貸していたと話していた男。 - 染子:
東山温泉の芸者。
印象に残った名言、名表現
(1)北条早苗刑事(本作では北原早苗)の十津川評。
「男嫌いかどうかは、わかりませんが彼女と仕事をするときは、女であることを忘れたほうがいいと、うちの連中にはいっています。とにかく、頭が切れるから、甘く見ると、手ひどくやられるんです。」
(2)資本主義の現実。
「海外旅行でも同じだと思うな。一週間で、あわただしく行ってくるのと、何ヶ月もかけて、悠々と、旅行して来られる人間とでは、人種が違うんです。住む世界が違うといってもいいかな」
(3)女好きの三沢刑事も、刑事である。
急に、三沢の顔が、険しくなった。刑事としての直感みたいなものだった。何か、大変なことを、見逃していたのではないかという不安だった。
(4)男から見た、男女の違い。
「女は、男に比べると、現実的だから、すぐ、相手の本質を見抜いてしまうんじゃないかな。その点、男は、いつだって、ロマンチックに相手を見ているんよだよ。女に、何回騙されても、本当は、いい女だと、思ってしまう」
感想
これぞ、本物のミステリーという作品だった。
貸切の臨時特急の中で起きた、謎の殺人事件と誘拐事件。乗客が誰も降りていないはずなのに、誘拐事件が起きてしまった。ここには、驚愕のトリックが仕掛けられていた。
だったら、このトリックを見破って、犯人が逮捕されたら、普通のミステリーである。この作品が、凄いのは、このトリックの上に、さらに、大きな仕掛けが用意されていることである。
その時々で、これは!と思う容疑者が浮上する。この容疑者が次々と切り替わっていく。誰が真犯人なのか、最後までわからないのだ。だから、最後の最後まで、緊張感がつづくのである。
この事件には、明確に”黒幕”が存在する。黒幕が絵を描き、それにふさわしい役者を集めて、動かしていたのだ。
この黒幕はいったい誰なのか?本書をぜひ、読んでもらいたい。
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