初版発行日 2000年10月18日
発行出版社 角川春樹事務所
スタイル 長編
私の評価
群馬ー東京に潜む、謎の殺意!
あらすじ
群馬県の温泉地で、ほぼ同時期に、3人の若い女性が行方不明となった。水上温泉で、三水めぐみ、草津温泉で山西ひろみ、伊香保温泉で広瀬香織。なかなか捜査にふみきらない警察に、業を煮やした広瀬香織の姉千鶴の依頼を受けた私立探偵橋本豊は、捜査の途上で、東京からきた十津川警部と出会う。一方、都内では少年によるホームレス狩りによる殺人事件が発生。一見、何の接点もないように思われた二つの事件の陰にあるものとは果たして……。
小説の目次
- 伊香保温泉
- 草津温泉
- 水上温泉
- 一枚の写真
- 身代金
- 過去を追う
- 王国の崩壊
冒頭の文
国道291号線沿いにある水上交番、正確にいえば、沼田警察署水上町交番に、四月二十三日の午後四時頃、五十代の女性が、入ってきた。
小説に登場した舞台
- 伊香保温泉(群馬県渋川市)
- 石段街(群馬県渋川市)
- 榛名湖(群馬県高崎市)
- 鬼押出し園(群馬県・嬬恋村)
- 白根山(群馬県・草津町)
- 草津温泉(群馬県・草津町)
- 草津温泉湯畑(群馬県・草津町)
- 西の河原公園(群馬県・草津町)
- 大道峠(群馬県・みなかみ町)
- 道の駅 たくみの里(群馬県・みなかみ町)
- 水上温泉(群馬県・みなかみ町)
- 水上駅(群馬県・みなかみ町)
- 上毛高原駅(群馬県・みなかみ町)
- 新宿中央公園(東京都新宿区)
- 出雲縁結び空港(島根県出雲市)
- 松江市立中央図書館(島根県松江市)
- 東京駅(東京都千代田区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 中村:
警視庁初動捜査班の警部。 - 中西:
警視庁捜査四課の警部。 - 橋本豊:
私立探偵。元警視庁捜査一課の刑事で十津川警部の元部下。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 三上昭子:
三上刑事部長の妻。
群馬県警
- 青木:
水上町交番の巡査長。 - 井上:
草津町交番の巡査。 - 土井:
草津町交番の巡査長。 - 白井:
伊香保町交番の巡査。 - 岩下:
群馬県警の警部。 - 宮本:
群馬県警の捜査一課長。 - 佐伯:
群馬県警の捜査一課長。
事件関係者
- 三水めぐみ:
22歳。OL。水上温泉に旅行中、行方不明になった。 - 三木治子:
三木めぐみの姉。東京都国立市在住。 - 三木豊広:
三木めぐみの父親。東京都国立市在住。銀行員。 - 三木治子:
三木めぐみの母親。東京都国立市在住。 - 山西ひろみ:
21歳。大学生。草津温泉に旅行中、行方不明になった。 - 山西康成:
山西通信の社長。山西ひろみの父親。松江出身。 - 広瀬香織:
23歳。モデル。伊香保温泉に旅行中、行方不明になった。 - 広瀬千鶴:
32歳。銀座にあるクラブのママ。広瀬香織の姉。 - 赤堀:代議士。警察組織の刷新委員会の委員長。元法務大臣。
- 細川亮太郎:
松江市商工会の会長。島根バンクの理事長。松江タイムスの社長。赤堀代議士の後援会長。 - 細川将史:
35歳。細川亮太郎の甥。赤堀代議士の個人秘書。 - 細川夕子:
細川亮太郎の娘。現在は山西夕子。山西康成の妻で山西ひろみの母親。 - 水島:
細川亮太郎のお抱え運転手。 - 竹田弘志:
新宿中央公園のホームレス。何者かに殴られ死亡する。細川会長の親戚でかつて細川の秘書をしていた。 - 柿沼舞:
5歳。松江市内に在住。交通事故で亡くなる。 - 柿沼あかね:
26歳。柿沼舞の母親。松江市内にあるファーストフード店の支店長。 - 小野寺洋:
柿沼舞の父親。松江市に在住。柿沼あかねとは離婚している。 - 白根達也:
36歳。K組の幹部。元自衛隊。
その他の登場人物
- 後藤:
広瀬千鶴が雇った弁護士。 - 長谷川:
松江放送の管理部長。 - 杉内:
松江市内のミニコミ誌「マツエレポート」を運営している。 - 大沢清:
60歳。松江市内にあるK組の組長。 - 森川三郎:
池袋が拠点のN組の組長。 - 小島啓介:
18歳。無職。恐喝で補導歴あり。ホームレスを襲った疑いで逮捕された。 - 菊池伸太郎:
17歳。無職。ホームレスを襲った疑いで逮捕された。 - 鈴木悠:
19歳。無職。ホームレスを襲った疑いで逮捕された。
印象に残った名言、名表現
(1)警察組織の限界。
「上司の指示がなければ、何も出来ないんですよ」
(2)榛名湖。
湖畔を、ゆっくり走ってみた。みやげ物店や、食堂などが並び、湖畔の宿の句碑があったが、全体に、ひっそりと、静かだった。
(3)群馬県の有名温泉ランキングベスト3。
「群馬県の中で、やはり、名前が通っている温泉というと、第一が、草津、第二が、伊香保、そして、第三が、水上かな」
(4)草津温泉湯畑。
湯畑は草津温泉の名物で、有名なシンボルでもある。
広場の中央に、六十度という高温の温泉が、噴出している。それを、何本もの木の樋を通して、適温まで下げ、各旅館に配る。細長い樋が、何本もずらりと並んでいるのは、壮観だった。
(5)警察への信頼は、国家の根幹に関わる。
確かに、今、警察は、受難の時代である。自業自得とはいえ、現在の警察機構が、崩壊しかねないような危機感も覚えるのだ。
(6)松江の良さ。
松江は、観光都市ではあっても、京都ほど、沢山の観光客は、押しかけて来ない。
それが、松江という町に、静けさを与えている感じだった。小泉八雲が愛した松江の面影が、まだ、残っているのだ。
(7)十津川警部の三上部長評。
どちらかといえば、小心で、実直で、実務的な性格であり、男である。
十津川は、その点で、三上部長を買っているのだ。管理職には、絶対必要な人間だと思っている。
感想
本作は、伊香保、草津、水上という群馬県を代表する温泉街で起きた3人の女性失踪と、新宿中央公園のホームレス殺害事件が、どうつながっているのか?が、捜査の中心になっている。
3人の共通点も行方もまったくつかめない状況に、十津川はこんな感想をもたらしていた。
「三人の女性が、ブラック・ホールに、落ち込んでしまったんじゃないか。眼に見えないブラック・ホールだ。」
この言葉とおり、捜査は難航したのだ。もちろん、難航したまま止まっていたら、物語にならない。
3件の失踪と1つの殺害事件は、島根県松江市でつながってくる。ここから、大きく事件が進展していくのだ。
背後にある大きな力がうごめき、十津川警部の上司である三上刑事部長も関係する、大きな事件。ここから先は、自分の目で確かめてもらいたい。
最後に。
今回は、伊香保温泉の石段街、草津温泉の湯畑、水上温泉のトテ馬車などが描かれており、トラベルミステリーらしい、旅情あふれる作品だったと思う。
また、十津川警部と三上刑事部長の間にある微妙な関係や、警察組織に対する十津川警部の考えも描かれており、そこに面白さを感じた。
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