初版発行日 2015年3月31日
発行出版社 徳間書店
スタイル 長編
私の評価
豪華寝台特急がトレイン・ジャックされた?本気かいたずらか?犯人の狙いは?各社社会に警鐘を鳴らす、社会派ミステリー。
あらすじ
JR西日本の社長宛てに脅迫状が届いた。「大阪発の寝台特急トワイライトエクスプレスに爆弾を仕掛けた。爆破を回避したければ、金沢駅到着までに現金一億円を列車内に積みこめ。ただし、金沢までに爆弾を見つけることができたなら爆破はしない」という奇妙なものだったのだ!翌日、トワイライトエクスプレスは何事もなく終着の札幌に到着したのだが……。
小説の目次
- 二人の男
- 謎の脅迫状
- トレイン・ジャック
- 七人の失踪者
- 消えた元大統領
- 転職者たち
- 道路行政の論客
- 箱根の山荘
- さよなら「トワイライトエクスプレス」
冒頭の文
1DKの、いかにも質素な部屋だった。ベットがあり、テレビがあり、パソコンが置いてある。しかし、それだけである。ほかには何もない。
小説に登場した舞台
- 大阪駅(大阪府大阪市北区)
- 金沢駅(石川県金沢市)
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- トワイライトエクスプレス
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- 小樽駅(北海道小樽市)
- 快速エアポート
- 東京駅(東京都千代田区)
- 箱根(神奈川県・箱根町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 権藤:
大阪府警の警部。 - 佐々木:
北海道警の警部。 - 大山:
28歳。北海道警の刑事。
JR
- 園田:
JR西日本の社長。 - 綿引:
JR西日本の秘書室に勤務。 - 野崎:
JR西日本の秘書室長。 - 相沢:
JR北海道の社長。 - 上村:
JR北海道の社長室秘書。 - 横田健夫:
48歳。JR北海道に勤務。トワイライトエクスプレスの車掌。 - 江上由紀夫:
30歳。JR北海道に勤務。トワイライトエクスプレスの車掌。1年前、関東高速道路会社から転職。 - 八木沢:
JR東日本の社長。 - 小高:
JR東海の秘書室長。
トワイライトエクスプレスの乗客
- 広田良治:
61歳。東京巣鴨に住むハイヤーの運転手。 - 広田麻子:
57歳。広田良治の妻。 - 根本啓太郎:
根本フーズの社長。 - 根本美由紀:
根本啓太郎の娘。根本フーズの秘書。 - グエン:
東南アジアのR国の元大統領。クーデターで国外退避し日本に亡命していた。 - 佐久裕之:
27歳。A学院大学卒業。青森県。8年前、R国へのボランティア活動に参加した。 - 山本有也:
34歳。札幌市内にある信号機保守会社に勤務。8ヶ月前に前職から転職。 - 坂田章:
29歳。札幌市内にる自動車教習所に勤務。10ヶ月前に前職から転職。 - 清水翔:
30歳。函館市内にある建設会社に勤務。10ヶ月前に前職から転職。 - 殿園弘治:
45歳。青森市内にある生命保険会社に勤務。7ヶ月前に前職から転職。 - 村松洋一郎:
32歳。函館市内にある建設会社に勤務。9ヶ月前に前職から転職。
事件関係者
- 根本啓次郎:
根本フーズの専務。世田谷区在住。 - 高城保:
神楽坂にある道路建設会社の社員。坂田章と同期だった男。 - 朝倉慶介:
62歳。関東高速道路会社の副社長。
その他の登場人物
- 山野辺恭:
外務省アジア大洋州局の東南アジア第一課の課長。 - 柿本:
清水翔が10ヶ月前前まで勤めていた飯田橋駅前にある建設会社の総務部長。 - 牧田:
清水翔が10ヶ月前まで勤めていた飯田橋駅前にある建設会社の総務部課長。 - 山口:
村松洋一郎が9ヶ月前まで勤務していた千代田区にある大手ゼネコンの総務部課長。 - 長谷川:
山本有也が8ヶ月前まで勤務していた港区にある道路信号機の保守会社の総務課長。 - 北川:
坂田章が10ヶ月前まで勤めていた神楽坂にある関東高速道路会社の総務部長。 - 小野聡美:
関東高速道路会社の庶務課の職員。坂田章の恋人。 - 末次:
新宿西口にあるレストラン・バー「ギャバン」のオーナー。朝倉慶介行きつけ。 - 谷岡:
千代田区にあるT病院の医師。朝倉慶介のかかりつけ医。
印象に残った名言、名表現
(1)十津川警部の経験に裏打ちされた直感。
「この脅迫状の、文章からは、差出人の強い意思が、伝わってくるんだ」
(2)刑事は刑事の匂いを嗅ぎ分ける。
職業柄、同じような雰囲気をまとう人間には、敏感なのだ。物陰にいたり、風景にとけ込むようにしていても、目に飛び込んでくる。
感想
本作は、冒頭から緊張感が漂っていた。
失うものはない、と思う。名誉へのこだわりも、生きていくことへの執着も、なかった。
人生も、最終盤に入った。妻もなくなった。子どももいない。大したことはないが、私財の処分も、ほぼ終えた。
悪あがきはしない。残りの人生を賭けて、決行するまでである。
これから事を起こす男の、覚悟が感じられる。背水の陣をひいて、一歩も引かないという、断固たる決意である。
そして、事件が起こった。この事件は、いわゆる、トレイン・ジャックであり、身代金の要求だけでなく、この列車に乗車していた東南アジアのR国の元大統領が誘拐されたというものである。
捜査をすすめていった十津川は、ある結論に達する。それは、この事件には、二つの強い意思が感じられるというものだった。
「第二の意思が、犯行の舞台を、提供するかわりに、第一の意思の『能力』を、借りる」
犯人は誰か?なぜ、犯行に至ったのか?敬意と結末は、本書を手にとって確かめてもらいたいが、この作品には、2つのメッセージが込められていたと思う。
一つは、格差社会に警鐘を鳴らすことである。本書では、格差社会に敗れた、人物たちが数多く登場する。この如何ともし難い格差について、西村京太郎先生からのメッセージと思われる言葉が、随所に登場するのだ。
さほど能力の違わない、同じ人間なのに、なぜ、こんなに、人生に差がつくのか!?
「ただいえることは、若者に未来のない国は、必ず、滅びる、ということです」
もう一つは、本書のタイトルにもなっている「消えたトワイライトエクスプレス」についてだ。
トラベルミステリーの第一人者として、鉄道ファンの一人として、数多くのトレインミステリーを描いた西村京太郎先生。
本作が刊行された2015年に、トワイライトエクスプレスもブルートレインも廃止されることになったのだが、効率化ばかり重視する現代の鉄道への思いを、十津川警部のことばに乗せて、語っている。
「速いって、悪いことじゃないと思う。しかし、速さを手に入れて、そこにゆとりが生まれるか、といったら、そうでもない。ものごとが速くなって、時間に隙間ができると、もっと何かを詰め込もうとする。それでは、ストレスが増すばかりだよ」
寝台特急には、哀愁があった。旅情があった。ゆとりがあった。
西村京太郎先生は、失われていく古き良き日本の象徴に、寂しさと不安を覚えているのではないだろうか。
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