初版発行日 2004年3月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編
私の評価
十津川警部vs謎の爆弾犯!アクアラインに張り巡らされた巧妙な罠に十津川が挑む。
あらすじ
飯田橋の狭いアパートの一室で見つかった中年男の絞殺死体。その傍らには、「タクサンノヒトガシヌ」という言葉とともに、ヨットの帆にも見える、奇妙な三角形の図形が描かれた便箋が、残されていた。大量殺人を予告する奇妙なダイイング・メッセージに、十津川警部と亀井刑事の捜査は難航する。その頃、川崎ー木更津を結ぶ東京湾アクアラインの爆破を予告し、五億円を要求する電話が、日本道路公団に。そして、アクアラインの海底トンネルには白煙が充満し、トンネル内はパニック状態におちいった……。
小説の目次
- 五月の風の中で
- 風の塔
- 爆発
- 爆風の中で
- 贈り物(プレゼント)
- 破壊の予感
- 炎上せず
冒頭の文
ゴールデンウィークが、終わってすぐの五月九日、飯田橋駅近くの小さなアパートの一室で、人が殺された。
小説に登場した舞台
- 東京湾アクアライン
- 海ほたるパーキングエリア(千葉県木更津市)
- 川崎人工島(神奈川県川崎市川崎区)
- 東京駅(東京都千代田区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 近藤:
警視庁レスキュー隊の隊長。 - 坂口:
青森県警の刑事。
日本道路公団
- 小早川綾子:
32歳。日本道路公団の交通管制室の職員。 - 手塚真治:
日本道路公団の交通管制室の職員。 - 河村みゆき:
日本道路公団の交通管制室の職員。 - 佐藤:
日本道路公団の秘書。 - 早川:
日本道路公団の総監。 - 沼田:
日本道路公団の副総監。
犯行グループ
- 幸山裕二:
40歳。経営コンサルタント。事業に失敗し負債を抱えている。 - 本間広昭:
50歳。革製品製造会社を経営していたが、バブル崩壊で倒産。 - 渡辺寛:
元自衛隊。 - 安藤俊夫:
24歳。無職。S大学文学部を卒業。 - 阿部文子:
29歳。シングルマザー。 - 玉木明:
59歳。S信用金庫浅虫温泉支店の支店長。
その他の登場人物
- 鈴木克己:
45歳。福井出身。事業に失敗し、東京の安アパートで仕事を探していた。飯田橋にある自宅アパートで死体となって発見された。 - 森本しのぶ:
日下刑事の恋人。 - 中山修:
36歳。東京湾アクアラインを建設した建設会社の社員。 - 中山裕子:
30歳。中山修の妻。修と同じ建設会社に勤務。 - 中山一郎:
6歳。中山夫妻の息子。 - 中山ゆみ:
4歳。中山夫妻の娘。 - 三原:
川崎市消防署の消防司令。 - 崎田:
富津にあるKタクシーの運転手。
印象に残った名言、名表現
■現代人の悩み。
夫はやさしいし、子供は可愛い。それに、二人とも、自分のやりたい仕事を持っている。だから、幸福であるはずなのだが、なぜか、物足りない気持ちがして、仕方なかった。
感想
本作は、東京湾アクアラインを舞台にした、ノンストップアクションミステリーである。
犯人当てのミステリーではなく、犯行グループは最初から明らかにされている。だから、十津川警部と犯行グループとの、対決が見どころになる。
この事件は、とにかくド派手。犯行グループが仕掛けた爆弾が至るところで炸裂する。死傷者も数多く出た。最初から最後まで、気の抜けない、スピード感あふれるストーリー展開が魅力的だった。
そして、今作の背景には、日本の不景気により、生活基盤を失い、社会から締め出されてしまった、”敗者たち”が、登場する。
彼らは、社会への恨みをもっている。将来への不安を抱えている。そんな彼らの心情をあらわす言葉が節々に登場する。
今の不景気な時代に、二十九歳の自分に、ちゃんとした仕事が見つからないのは、わかっているので、将来のことが、どうしても、不安になってきてしまう
「僕の事業の失敗は、僕自身のせいじゃない。この、社会的な不況のせいなんだ」
「落ち目というのは、ひどいもんでね。ダメになってくると、誰もかれもが、私から離れていった。家内も子供もね」
本作は、極端な勝者と敗者を作り出す、格差社会を描いた、社会派ミステリーでもあるのだ。
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