初版発行日 1992年2月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
十津川警部、殺人容疑で逮捕か!?刺殺された女性が持っていた十津川の名刺と東武特急の切符。それは、思いもかけない黒い罠だった!
あらすじ
井の頭公園で刺殺体で発見されたホステス、原田みゆきのハンドバッグに、十津川警部の名刺と、浅草発東武特急「スペーシア」の切符が入っていた。単身「スペーシア」に乗り込んだ十津川に、女性の声で「会津若松から喜多方、新潟へ廻れ」という電話が!それは、十津川を殺人犯に仕立てる恐るべき罠だった……!!
小説の目次
- 甘い餌
- 磐越西線の女
- 女の肖像
- 釈放への道
- 対決
- 再び越後・会津
冒頭の文
五月十三日の早朝、井の頭公園で、若い女の刺殺体が発見された。
小説に登場した舞台
- 浅草駅(東京都台東区)
- 特急スペーシア
- 下今市駅(栃木県日光市)
- 会津田島駅(福島県・南会津町)
- 田島高校前駅(福島県・南会津町)
- 塔のへつり駅(福島県・下郷町)
- 会津若松駅(福島県会津若松市)
- 東山温泉(福島県会津若松市)
- 喜多方駅(福島県喜多方市)
- 新潟駅(新潟県新潟市中央区)
- 岩室駅(新潟県新潟市西蒲区)
- 岩室温泉(新潟県新潟市西蒲区)
- 高志の宿 高島屋(新潟県新潟市西蒲区)
- 燕三条駅(新潟県三条市)
- 上野駅(東京都台東区)
- 新宿中央公園(東京都新宿区)
- 成田空港(千葉県成田市)
- 千葉駅前(千葉県千葉市中央区)
- 三宅島空港(東京都・三宅村)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 佐伯:
警視庁初動捜査班の警部。 - 水口:
会津若松署の刑事。 - 坂口:
新潟県警の刑事。 - 広田:
新潟県警の刑事。 - 白木:
八王子署の刑事。
事件関係者
- 原田みゆき:
25歳。新宿のクラブ「ロイヤル」のホステス。井の頭公園で死体となって発見された。 - 渡辺ひろみ:
カメラマン。喜多方のラーメン屋で十津川に話しかけてきた女。中野本町のマンションに在住。岩室温泉で死体となって発見された。 - 小坂井めぐみ:
目白のマンションに在住。東山温泉のT神社で死体となって発見された。 - 小暮明:
沢木プロに所属するタレント。調布市深大寺のマンションに在住。八王子の浅川の河川敷に停めてあったベンツの中で死体となって発見された。 - 三浦アキ:
小暮明のマネージャー。八王子の浅川の河川敷に停めてあったベンツの中で死体となって発見された。 - 仙道肇:
59歳。城南ポンプの社長。渋谷区松濤に在住。 - 浦辺:
城南ポンプの部長。元警視庁の刑事部長。八王子に在住。 - 早見明:
元プロ野球選手。2年前、菊池のり子を交通事故に見せかけて殺害したとして有罪判決を受けて府中刑務所に服役中。 - 菊池のり子:
早見明の恋人だった。2年前、車に轢かれて死亡した。 - 小原実:
35歳。傷害の前科あり。 - 大野木三郎:
39歳。傷害の前科あり。阿佐ヶ谷のアパートに在住。 - 久保田:
興信所を営む。元警視庁の刑事で浦辺の部下だった。
その他の登場人物
- 本橋けい子:
新宿のクラブ「ロイヤル」のホステス。原田みゆきと親友だった。 - 浅野功:
渋谷・道玄坂でパーラーを営む。原田みゆきの客だった男。 - 尾崎英公:
商社マン。国立のマンションに在住。原田みゆきの客だった男。 - 田中祐介:
世田谷区松原のマンションに在住する男。 - 新井由加:
渡辺ひろみの友人。インテリアデザイナー。 - 山下恵子:
渡辺ひろみの友人。主婦。 - 島田アキ:
銀座のクラブのホステス。小坂井めぐみの隣室に住む。 - 小暮明子:
小暮明の妹。 - 沢木:
芸能事務所「沢木プロ」の社長。 - 池田:
K局のプロデューサー。 - 仙道功:
56歳。仙道肇の弟。元厚生大臣。
印象に残った名言、名表現
(1)変わる東京、変わらない浅草。
東京の街は、猛烈な勢いで変化しているが、この浅草の周辺だけは、昔のままの景色と、雰囲気を残している。
(2)東武鬼怒川線から見える渓谷美。
十津川は、窓の外に広がる渓谷美に、眼を奪われた。
鬼怒川の深い渓谷は、ある時は、急流となって、岩を噛むかと思えば、時には、深く澱んで、真っ青な水面を見せる。
(3)蔵とラーメンの町、喜多方。
喜多方は蔵の町として発達した。酒蔵、味噌蔵、醤油蔵など、今でも、二千の蔵が残っているといわれる。しかし、今は、ラーメンの町として、有名になってしまった。
(4)十津川警部の正義感。
「あんたに、いっておくが、私は、取きは、絶対にしない。それに、あんたみたいな男は、どんなことをしても、刑務所に、送り込んでやる」
感想
本作は、前半、中盤、後半で物語の様相が大きく変わっていく。
前半は、十津川警部が、会津や喜多方をめぐる旅の要素が強い。もちろん、事件の捜査であり、犯人の罠だということを勘付きながらも、会津の自然を楽しみ、温泉につかり、喜多方のラーメンを味わう姿が、旅情たっぷりに描かれる。
中盤は、十津川警部の危機である。
十津川警部が罠にはめられて、新潟県警に逮捕寸前まで追い込まれる。逮捕までの時間が迫る中、亀井刑事らが部下と一緒になって、必死の捜索を行う。サスペンスフルな展開だった。
後半は、十津川警部と犯人の対決である。
犯人の姿を明確にとらえた十津川警部が、どのようにして犯人を追い込んでいくのか?逆に、犯人は十津川を出し抜き、逆に罠にかけようとするのか?その戦いである。激しいアクションもあった。
物語全体にただようスピード感と緊張感。あっという間に、読み終わってしまった。本作はまさに秀作と言えるだろう。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
刑事は、生命の危険があるとわかっていても、逃げることが許されない職業の一つである。越後から会津にかけて巧妙に仕組まれた罠。それを、十津川が、自分に仕掛けられたものと予想しながら、立ち向っていくのも、彼が、刑事だからである。
犯人も、また、刑事の十津川が、絶対に逃げないこと、必ず、自分を追いかけてくることを予期して、罠を張るのである。どちらが勝ちを収めるのか、皆さんも、楽しんで読んで下さい。
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