初版発行日 2003年6月20日
発行出版社 双葉社
スタイル 長編
私の評価
事件に誘う手帳の謎!?厚いヴェールに覆われた真相に、十津川警部の推理が迫る!
あらすじ
仙台で食品会社の社長・田中伸彦が病死した。田中が病床で記した手帳には、なぜか何の接点もないはずの十津川の名が残されていた。田中の妻・啓子から葬儀に招かれた十津川は、興味にかられて手帳を譲り受けるが、帰りの新幹線の車中、不覚にも何者かにそれを奪われてしまう。その後、この手帳を巡って繰り返される殺人事件。そこにはどんな謎が隠されているのか?
小説の目次
- 死の便り
- 東北の秋
- 青葉の裏切り
- 死亡診断書
- 駆け引き
- 真実の姿
- 最後の罠
冒頭の文
十津川に、電話があった。中年の女性の声で、「十津川省三さまでいらっしゃいますか?」と、丁寧に、きいてから、「実は、主人の田中が、昨日亡くなりました」「田中さん?」田中という名前の知り合いは多いが、その中の誰なのだろうか?
小説に登場した舞台
- 仙台城跡(宮城県仙台市青葉区)
- 一番町(宮城県仙台市青葉区)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 吉祥寺(東京都武蔵野市)
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
- 秋保温泉(宮城県仙台市太白区)
- 塩釜水産物仲卸市場(宮城県塩竈市)
- 会津若松(福島県会津若松市)
- 満田屋(福島県会津若松市)
- 湯元公園(宮城県仙台市太白区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 高梨:
警視庁捜査一課の警部。十津川警部の先輩。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 田中伸彦:
65歳。仙台にある田中食品の社長。病死する。 - 田中啓子:
田中伸彦の妻。 - 高見明:
私立探偵。三鷹市に在住。井の頭公園近くに停めてあった車のトランクの中で死体となって発見された。 - 江口ゆき:
吉祥寺駅前商店街で喫茶店「チックタック」を営む。高見明の恋人。店が放火され入院していたが亡くなった。 - 池宮信成:
仙台市議会の議員。高見明の高校・大学時代の同級生で友人。秋保街道沿いの山中で死体となって発見された。 - 樋口克郎:
65歳。池宮信成の大学時代の同級生。秋保温泉や天童温泉でホテルを経営している。池宮信成の後援会長。 - 沢木:
青葉区のR病院の医師。田中伸彦の死亡診断書を書いた。 - 北村亜紀:
田中伸彦の隠し子。 - 川西邦男:
50歳。仙台市内でラーメンチェーン店を営む。田中伸彦の友人。広瀬川で死体となって発見された。 - 中島圭介:
53歳。蒲鉾会社の社長。田中伸彦や川西邦男の友人。元市議会議員。 - 永井ゆか:
28歳。六本木のクラブSのホステス。自宅マンションで殺される。
その他の登場人物
- 杉浦:
宮城県警の警部。 - 有沢勝之:
40歳。タレント。宮城県気仙沼市出身。 - 三浦匡:
20歳。大学生。 - 梅田正和:
私立探偵。かつて高見明と同じ探偵事務所で働いていた。 - 関口孝次:
高見明の大学時代の同級生。 - 藤本進:
池袋にあるサン建設の営業課長。かつて高見明が働いていた。 - 安岡:
新宿にあるSデパートの営業部長。高見明と付き合いがあった。 - 小花:
秋保温泉の芸者。 - 戸田節子:
R病院の看護師。 - 西野美奈子:
R病院の看護師。 - 町村公一:
一番町にある法律事務所の弁護士。
印象に残った名言、名表現
(1)一見、当たり前のできごとだが、よく考えると、おかしなことばかり。
「ちょっと考えると、どこもおかしいところはないんだ」
「だが、よく考えると、奇妙に思えてくるんだよ」
(2)筋書きを書いた黒幕がいる。
「今度の事件なんだが、誰かが芝居の脚本を書いて、全員がその脚本で、動かされているんじゃないか。そんな気がする瞬間があるんだよ」
感想
夫を殺された妻の、燃え盛るような怒りと執念に、圧倒された作品だった。
妻は、復讐に燃えて、ただただ怒りを満たしていただけではない。冷静に事態を見極め、筋書きを書き、計画を立てた。そして、それを実行し、いろんな人物を動かしていき、事件に引きずり込んでいった。
十津川警部も、引きずり込まれた一人である。
この妻は、十津川警部や宮城県警をはじめとした警察組織を、うわまわったと言わざるを得ない。それほどまでに、執念を燃やし、頭を働かせたのである。
最後、十津川警部がこの妻について、思いを馳せるシーンがある。
彼女は何を考えていたのだろう?ただひたすら夫の仇を討つことを、生きがいと感じていたのだろうか?それとも、犯人を捕まえてくれない警察に腹を立て、自分の手で捕まえようと決心したのだろうか?
十津川警部も、この妻の思いの強さに、胸を打たれたのだ。
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