初版発行日 1993年1月30日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
「つばさ」が運ぶ都会の殺意。十津川警部、山形・宮城県警と対立!
あらすじ
山形新幹線「つばさ」で東北に向かった若い女性が相次いで蒸発!女子大生井岡和美と、OL小倉マキの二人が山形で消えてしまったのだ。囮として、単身「つばさ」に乗り込んだ警視庁・北条早苗刑事に近づく謎の男平沼!ところが、平沼は仙山線の踏切で自動車事故死、その車のトランクには若い女性の右足が……。右腕、胴体、首とバラバラになって発見された猟奇殺人の被害者は、小倉マキだった!平沼犯人説に傾く山形・宮城県警に対し、十津川警部は独自の推理を展開するが……。
小説の目次
- 旅の始まり
- 「つばさ」117号
- 容疑者一号
- 秋保温泉
- 捜索
- 新たな失踪
- 茅葺きのハーレム
- 毀れた夢
- 犯人に迫る
- 救出
- 告白
- 終章へ
冒頭の文
「今日、大学時代の女友だちが、突然、訪ねて来たんだけど、ちょっとショックだったわ」と、妻の直子が十津川にいった。
小説に登場した舞台
- 東京駅(東京都千代田区)
- 山形新幹線つばさ
- 山形駅(山形県山形市)
- 天童温泉(山形県天童市)
- 秋保温泉(宮城県仙台市太白区)
- 釜房ダム(宮城県・川崎町)
- 宇都宮駅(栃木県宇都宮市)
- 川治温泉(栃木県日光市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 木田:
山形県警の刑事。 - 佐伯:
山形県警の警部。 - 広瀬:
宮城県警の刑事。 - 矢田:
宮城県警の警部。 - 向井:
栃木県警の警部。
事件関係者
- 井岡和美:
19歳。大学2年生。山形県を旅行中、行方不明になる。 - 平沼良祐:
32歳。旅行ライター。杉並区高井戸のマンションに在住。仙山線の陸前白沢と愛子の間の踏切で、運転していた車が列車と衝突し死亡した。死んだ平沼良祐の車のトランクから脚が、釜房ダムから腕、国道48号線沿いの森林の中で胴体が、秋保温泉近くの林の中から首が見つかった。 - 小倉マキ:
21歳。東京のK工業のOL。山形で旅行中、行方不明になる。 - 小笠原律子:
アメリカの大学に通っている。井岡和美の友人。川治温泉近くの渓谷で転落している車の中で死体となって発見された。 - 菊池正則:
30歳。世田谷区松原在住。最近、山形県内の農家の家を投資目的で購入した。農家の家にある水車小屋で死体となって発見された。 - 神埼明彦:
栃木県佐野市出身。山形の農家の家を購入。東京から移り住んだ。 - 大江直子:
25歳。東京のOL。山形へ旅行中、行方不明になる。天童市内の喫茶店に入ったところを保護された。
その他の登場人物
- 山脇ひろ子:
小笠原律子の友人。 - 白石かおり:
小笠原律子の友人。 - 鈴木弘道:
52歳。東京八重洲口にあるS工業の部長。最近、宮城県内の農家の家を別荘として購入した。 - 黒木要:
41歳。大手電器メーカーの課長。練馬区大泉在住。最近、宮城県内の農家の家を別荘として購入した。 - 足立:
K銀行に勤務。神埼明彦の高校時代のクラスメート。 - 森中:
大蔵省の職員。神埼明彦の高校時代のクラスメート。 - 木本:
弁護士。
印象に残った名言、名表現
■都会人が憧れだけで田舎暮らしをはじめた末路。
以前、そこに住んでいた人たちは、自然しかない生活に疲れて、手放し、たぶん都会に行ってしまったのだ。従って、その一軒家を買ったとしても、とても、そこで生活していくことはできないだろう。農家の人たちが、生活できなくて、捨てていった農家なのだ。都会の人間に、そこで生きていけるはずはない。
感想
山形新幹線は、1992年7月1日に東京-山形間が開通した。本作は、1993年1月に刊行されたので、時流にあわせて書かれた作品であった。
これまでの十津川警部シリーズの傾向では、山形新幹線の紹介や、山形県内の観光スポットを細かく紹介することが多い印象だが、本作は、観光スポットの案内は手短に済ませ、血なまぐさい殺人事件の捜査がメインになっている。
ただ、殺人事件の舞台は山形県と宮城県なので、”タイトルで釣った”作品ではない。しっかりと、作品タイトルに沿った事件になっている。
この事件について詳細を語ることはしないが、病的な男と女が引き起こした事件であり、ある意味、都会的な殺人事件でもあった。
この”都会的な殺人事件”の意図は、本作刊行にあたって発表された西村京太郎先生のことばを、読めば理解できるだろう。
私は取材のため、三回山形に出かけている。前の二回は、山形新幹線が通る前だった。今回、この作品を書くために、「つばさ」に乗って山形まで行き、そのあと天童から宮城県へ抜ける旅行をした。
私がしりたかったのは、山形新幹線が走ったことによって、山形やその周辺がどう変わるのかということだった。一見したところ、大した変化はないように見えたが、聞いてみると、山形を訪れる観光客は確実に増えているというし、今後も増えるだろうという。それが、山形の風土にどう影響を与えていくのだろうか。
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