初版発行日 2005年7月1日
発行出版社 小学館
スタイル 短編集
望郷の殺人者を追えー十津川警部、旅立つ。北海道、東北、山陰と舞台を変えて十津川班の追跡行が続く珠玉の旅情ミステリー。
あらすじ
1.十津川、民謡を唄う
飲み会の帰り道、十津川警部は安来節を唄う、温泉芸者に出会う。翌日、京王多摩川でその芸者が殺されていた。捜査線上に浮上したひとりの男に、十津川警部は安来節をつかった罠を仕掛けるー。
2.北の空 悲しみの唄
短編集「東京-旭川殺人ルート」に収録。下記を参照↓↓
→「東京-旭川殺人ルート」
3.北への殺人ルート
短編集「十津川警部 みちのくで苦悩する」に収録。下記を参照↓↓
4.哀しみの余部鉄橋
新宿のクラブホステスが殺された。捜査線上に浮かんだのは、なんと新宿署の警部だった。それも、十津川警部の同級生……。余部鉄橋でむかえる哀しいラストシーン。
小説に登場した舞台
1.十津川、民謡を唄う
- 出雲縁結び空港(島根県出雲市)
- 玉造温泉(島根県松江市)
- 三朝温泉(鳥取県・三朝町)
2.北の空 悲しみの唄
短編集「東京-旭川殺人ルート」に収録。下記を参照↓↓
→「東京-旭川殺人ルート」
3.北への殺人ルート
短編集「十津川警部 みちのくで苦悩する」に収録。下記を参照↓↓
4.哀しみの余部鉄橋
- 余部鉄橋「空の駅」(兵庫県・香美町)
登場人物
1.十津川、民謡を唄う
- 十津川警部:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 白井:
島根県警の刑事。 - 秀佳:
玉造温泉の芸者。 - 白崎美代:
玉造温泉の芸者。置屋の社長。京王多摩川の河原で死体で発見される。 - 井上敬一郎:
60歳。東京にあるW機械の副社長。 - 佐々木保:
35歳。日本インフォーメーション㈱の社長。詐欺師。 - 夕子:
三朝温泉の芸者。
2.北の空 悲しみの唄
短編集「東京-旭川殺人ルート」に収録。下記を参照↓↓
→「東京-旭川殺人ルート」
3.北への殺人ルート
短編集「十津川警部 みちのくで苦悩する」に収録。下記を参照↓↓
4.哀しみの余部鉄橋
- 十津川警部:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 中村愛:
30歳。新宿歌舞伎町のクラブ「河」のホステス。西落合の自宅マンションで殺されていたのが発見される。 - 鈴木:
警視庁初動捜査班の警部。 - 高橋:
新宿署生活安全課の警部。十津川警部の同期。中村愛と不倫していた。 - 井上香織:
新宿歌舞伎町のクラブ「河」のホステス。中村愛の同僚。 - 金井:
歌舞伎町A交番の巡査。 - 田中:
新宿署生活安全課の刑事。
印象に残った名言、名表現
(1)十津川警部の直感。
「もちろん、安来節の名手は、東京にもいるだろうが、私は、なんだか、山陰の匂いみたいなものを感じたんだよ。これは、直感だがね」
(2)正調安来節。
出雲名物 荷物にゃ ならぬ
聞いて お帰れ 安来節
アラ エッサッサ宍道湖水に 舟唄 小唄
波に消え行く 追分は
わたしゃ出雲の 舟のり稼業
唄いながらに
好きな お方と二人で
竿さす すずみ舟
(3)いつだってフェアな十津川警部。
「容疑者の中に、同僚がいたからといって、手心を、加えるわけには行かないんだ。正々堂々と、捜査をしようじゃないか」
感想
本作は、旅情あふれる短編ミステリー集である。
「十津川警部、民謡を唄う」では、島根県・玉造温泉の安来節がテーマになっており、「北の空 悲しみの唄」は、石狩川が流れる旭川が登場する。
「北への殺人ルート」では、岩手県盛岡市のつなぎ温泉や御所湖が舞台になり、「哀しみの余部鉄橋」は、兵庫県の余部鉄橋がでてくる。
いずれも、悲喜こもごもな哀愁が漂う、秀作だった。
この4作の中でひとつ取り上げたいシーンがある。それは、「哀しみの余部鉄橋」のラストシーンだ。
晴れていて、少しばかり、風が強かった。
十津川が、普通列車を余部駅で降りたのは、午後四時半過ぎだった。すでに、周囲は、暮れようとしていた。
駅のホームには、高橋が一人、ベンチに、腰を下ろして、海を、見つめていた。人気のない余部駅のホームは、まるで、景色を楽しむための、展望台のように見える。
十津川は、黙って、高橋の隣に腰を下ろした。
夕暮れ時、すべてを悟った一人の男が、故郷の余部駅のベンチに座り、海をながめている。なんとも、哀愁漂う風景だ。
その隣に、何も言わずに腰を下ろす、十津川警部。「いい景色だな」と、そっとつぶやく。
あえて、事件のことを、切り出さない。
そこには、同期としての信頼関係だけでなく、覚悟を決めた男と男の信頼関係があるのではないだろうか。
この後、高橋は語りだす。すべてを果たし終わった後、高橋はー。
美しくも悲しいラストシーンを、ぜひ自分の目で確かめてほしい。
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