初版発行日 2001年1月25日
発行出版社 実業之日本社
スタイル 長編
私の評価
美人女将の暗い過去が殺意を呼ぶ!十津川警部、哀愁の追跡!
あらすじ
片山津温泉の旅館「月明館」の美人女将北川深雪を訪ねてきた、東京のカメラマン湯浅幸二が射殺された。つづいて月明館の経営者市川博之も山中温泉で射殺体で発見された。怨念か痴情か。十津川は事件の真相を求めて、捜査に乗り出した。だが、女将の過去を洗っていくうちに、更なる殺人事件が!
小説の目次
- 加賀の女
- 男と女
- 名刺
- 深い底から
- 変化する人物像
- 狐たちの穴
- 最後の標的
冒頭の文
新進のカメラマンとして、名前が売れてきて、写真集が出るようになった湯浅幸二は、一通の手紙を受け取った。
小説に登場した舞台
- 特急サンダーバード
- 金沢駅(石川県金沢市)
- にし茶屋街(石川県金沢市)
- 加賀温泉駅(石川県加賀市)
- 柴山潟(石川県加賀市)
- 源平橋(石川県加賀市)
- 片山津温泉(石川県加賀市)
- 特急しらさぎ号
- 山中温泉(石川県加賀市)
- こおろぎ橋(石川県加賀市)
- 小松空港(石川県小松市)
- 羽田空港(東京都大田区)
- おとめ山公園(東京都新宿区)
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 矢野:
石川県警捜査一課の警部。 - 吉田:
石川県警捜査一課の刑事。 - 中村:
警視庁捜査四課の警部。 - 田島:
中央新聞会社部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。
事件関係者
- 湯浅幸二:
29歳。新進のカメラマン。片山津温泉の旅館「月明館」で射殺される。 - 北川夫妻:
1年半前に倒産した金沢市内の呉服店「加賀屋」の主人と女将。現在は金沢市内で細々と暮らしている。 - 北川深雪:
25歳。片山津温泉の旅館「月明館」の雇われ女将。北川夫妻の娘。 - 市川博之:
70歳。旅館「月明館」のオーナー。山中温泉のこおろぎ橋で死体となって発見された。 - 遠山敬之:
45歳。四谷にある小さな出版社「T出版」の社長。元総会屋。新宿区落合にあるおとめ山公園で死体となって発見された。 - 成田清之:
65歳。金沢の大学教授。日本の伝統の研究者。2年前に心臓麻痺で急死した。 - 江本将行:
68歳。金沢出身の保守党の代議士。 - 三木恵:
62歳。金沢在住の日本画家。柴山潟で死体となって発見された。 - 原田吉郎:
50歳。江本将行の甥。保守党の代議士。日本の伝統産業を研究する「大和会」の理事長。 - 太田秀夫:
46歳。原田吉郎の秘書。 - 新見明:
K組の幹部。
その他の登場人物
- 市川保子:
68歳。市川博之の妻。旅館「月明館」の元女将。すでに引退している。 - 長池:
金沢加賀信用金庫の支店長。 - 小村ひとみ:
遠山敬之と同棲していた女性。 - 岩田:
「T出版」の経営者。遠山敬之とともに、共同経営していた。 - 内山保:
カメラマン。湯浅幸二の友人。 - 野村努:
カメラマン。湯浅幸二の友人。 - 赤坂カオル:
AV女優。以前、野村努が撮った写真のモデルになったことがある。 - 近藤:
金沢タイムスのデスク。 - 千田晃介:
「加賀屋」とライバル関係にあった金沢市内の呉服店の店主。 - 成田節子:
成田清之の妻。金沢の花里町に在住。 - 楠:
江本将行の秘書。 - 森中:
江本将行の秘書。 - 羽田:
加賀善の顧問弁護士をしていた男。 - 太田晴子:
45歳。太田秀夫の妻。 - 金子:
東京・日本橋にある着物振興会事務局の責任者。 - 岩井:
原田吉郎の秘書。 - 広瀬昭子:
原田吉郎が貸している五反田のYKビルに入るデザイン会社の社長。
印象に残った名言、名表現
(1)柴山潟。
日本海につながっているので、湖とはいえないのだが、湖畔に沿って、ホテル群が並ぶ景色は素晴らしく、小さな琵琶湖の感じがした。
きっと、この水面に映える満月は、美しいことだろう。
(2)湯浅の下心は撃ち抜かれた。
湯浅は、胸をときめかせながら、眼を閉じる。女の柔らかな身体が、寝ている湯浅に、おおいかぶさってくる。
湯浅は、次の瞬間、女の唇が、合わさってくるのを期待したが、愛の代りに、弾丸が、彼の胸に、めり込んで来たのだ。
(3)人は変わる。
何年か前に会った、美しく、優しい女は、いつまでも、同じように、美しく、優しいと、思い込む。
(4)加賀温泉郷は4つある。
森林に囲まれた丘陵地帯にある栗津温泉は、加賀温泉郷の中で、最古を誇っている。
柴山潟の湖畔ひ広がる片山津温泉は、一番新しい。
山代温泉は、加賀温泉郷の、ほぼ中央にあって、庭園の美しさで有名である。
今回、事件のあった山中温泉は、渓谷美で有名で、九谷焼発祥の地でもある。
感想
本作は、犯人当てのミステリーではない。犯人は、最初から、ほぼわかっている。もちろん、明らかにはされていないが。
だから、今回は、犯人の過去を探ることが、主題となる。
なぜ、犯人は殺人を犯すのか?何が、犯人を動かしているのか?最初はまったく、見えてこないのだ。十津川警部も、今回の事件について、次のように話している。
深い闇が、北川深雪という女の周囲にあると、思う。それは間違いないのだが、それが何なのか、まだ、わかっていないのだ。
彼女の背景には何があるのか?彼女が抱えている深い闇とは?
この中身については、ここで明かすことができないが、本作には、悲しみ、怒り、憎しみ、執念、そして、哀愁が満ち溢れている。
結末は、とても悲しく、そして、美しい。
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