初版発行日 1992年11月25日
発行出版社 集英社
スタイル 短編集
私の評価
11年前に信州で起きた放火殺人の謎を追って……。十津川警部が大活躍する傑作鉄道ミステリー4編。
あらすじ
1.阿蘇で死んだ刑事
南阿蘇鉄道で爆破事件が発生し、5人の男女が死亡した。被害者の中に、警視庁捜査一課の現職の刑事・加東英司がいたことから、十津川と亀井が捜査を開始する。加東英司は2年前に起きた未解決の連続殺人事件を追っていたが、加東が容疑者としてマークしていた平山透も、南阿蘇鉄道爆破事件で死亡していた……。
2.北の果ての殺意
快速ノサップで脱線事故が発生したが、死者が出なかったため、事故として処理された。だが、一ヶ月後にまたノサップ号で脱線事故が発生した。この事故で東京のルポライター・杉浦重夫が死亡。さらに、JR北海道宛に脅迫状が届いた。この事件を不審に思った十津川は、友人で新聞記者の田口と、根室へ向かう。
3.南紀 夏の終わりの殺人
元警視庁捜査一課の刑事で私立探偵の橋本豊は、緒方美矢子の依頼を受け、行方不明になった妹・井辺由美を探すために、南紀白浜へきて捜索を開始した。同じ頃、東京・四谷三丁目のマンションで、旅好きのサラリーマンが死体となって発見された。殺された男は死ぬ前、南紀白浜を旅していたのだという。橋本豊の捜索と東京で起きた殺人事件がつながり、意外な結末が待ち受けていた。
4.幻想と死の信越本線
警視庁捜査一課・十津川警部宅に、若い女性が訪ねてきた。旅行作家・川内功次郎の旅館「あさま」焼失のエッセイに焼死した女性のことが書かれていた。行方不明の姉だと思うが、殺されたに違いないので調べてほしいという。だが、川内は上野発”特急あさま3号”の車内で毒殺されてしまう。
小説に登場した舞台
1.阿蘇で死んだ刑事
- 立野駅(熊本県・南阿蘇村)
- 阿蘇白川駅(熊本県・南阿蘇村)
- 高森駅(熊本県・高森町)
- 阿蘇くまもと空港(熊本県・益城町)
2.北の果ての殺意
- 快速ノサップ
- 根室駅(北海道根室市)
- 厚岸駅(北海道・厚岸町)
- 門静駅(北海道・厚岸町)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 特急おおぞら号
- 釧路駅(北海道釧路市)
3.南紀 夏の終わりの殺人
- 南紀白浜空港(和歌山県・白浜町)
- ホテルシーモア 白浜海中展望塔 コーラルプリンセス(和歌山県・白浜町)
- 千畳敷(和歌山県・白浜町)
- 三段壁(和歌山県・白浜町)
- 龍神温泉(和歌山県田辺市)
- 金剛峯寺(和歌山県・高野町)
- 三津浜(静岡県沼津市)
4.幻想と死の信越本線
- 特急あさま
- 小諸駅(長野県小諸市)
- 小諸城址 懐古園(長野県小諸市)
登場人物
1.阿蘇で死んだ刑事
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 加東英司:
45歳。警視庁捜査一課の刑事。東京都練馬区に在住。南阿蘇鉄道爆破事件で死亡する。 - 伊地知:
熊本県警の警部。 - 三浦:
熊本県警の巡査。 - 東条冴子:
熊本県警の巡査。 - 井上弘:
爆発事件で負傷した南阿蘇鉄道の運転手。 - 足立秀夫:
39歳。熊本県・高森町で小さな旅館を営んでいる。南阿蘇鉄道爆破事件で死亡した。 - 竹村すみ:
66歳。熊本県・阿蘇町にある病院で雑役係として働いている。高森町に在住。南阿蘇鉄道爆破事件で死亡した。 - 笠原昭:
29歳。東京都世田谷区に在住。南阿蘇鉄道爆破事件で負傷する。 - 江崎みどり:
22歳。東京都世田谷区に在住。南阿蘇鉄道爆破事件で負傷する。 - 平山透:
40歳。M銀行四谷支店の貸付課の課長補佐。熊本出身。2年前の未解決事件で加東英司がマークしていた男。南阿蘇鉄道爆破事件で死亡した。 - 矢野幸二:
50歳。大阪市阿倍野区にある鉄鋼会社に勤務するサラリーマン。南阿蘇鉄道爆破事件で死亡した。 - 加東ひろみ:
22歳。加東英司の娘。 - 藤原茂:
52歳。西新宿にあったK興業の社長だった男。三鷹市井の頭に在住。 - 林田秀雄:
38歳。K興業の副社長だった男。中野区本町の高級マンションに在住。 - 久保恭:
40歳。K興業の総務部長だった男。豊島区北大塚に在住。 - 沢井ゆか:
当時24歳。東京・八重洲にある商社に勤務。2年前の未解決連続殺人事件の被害者。 - 魚住夕子:
当時21歳。大学生。2年前の未解決連続殺人事件の被害者。 - 沢田夏子:
当時25歳。OL。2年前の未解決連続殺人事件の被害者。
2.北の果ての殺意
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 田口:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。 - 田島:
快速ノサップの車掌。 - 佐々木:
24歳。快速ノサップの車掌。 - 米倉周一:
快速ノサップの運転士。 - 新井:
快速ノサップの運転士。 - 三崎:
釧路署の刑事部長。 - 青木:
JR北海道の責任者。 - 杉浦重夫:
32歳。ルポライター。東京都練馬区石神井に在住。快速ノサップの事故で死亡する。 - 杉浦真理:
25歳。杉浦重夫の妹。商事会社に勤めるOL。 - 有田祐一郎:
杉浦重夫が寄稿していた「月刊トピック」の編集長。 - 本西春男:
今年の3月にスーパーの経営者・村島専一を殺した容疑で告発されたが、証拠不十分で起訴されなかった。村島専一の共同経営者。 - 三浦:
ねむろ新報のデスク。 - 黒川秀一郎:
根室にある極東交易の社長。根室の名士。5年前の詐欺事件で自殺した。 - 倉本やよい:
釧路の高級クラブで働いていたホステス。5年前に病死している。5年前の根室の詐欺事件を起こした詐欺師と付き合っていた。 - 望月みどり:
倉本やよいの妹。仙台に在住。
3.南紀 夏の終わりの殺人
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 橋本豊:
30歳。私立探偵。元警視庁捜査一課の刑事で、十津川警部の元部下。 - 緒方美矢子:
橋本豊に妹の捜索依頼をした女性。 - 井辺由美:
25歳。緒方美矢子の妹。南紀白浜に旅行にでかけたが行方不明になった。その後、南紀白浜の沖合で水死体となって発見された。 - 緒方博史:
緒方美矢子の夫。浦和市内の喫茶店を営む。西伊豆の富士療養所に入院中。 - 原田:
白浜警察署の警官。 - 五島啓介:
25歳。旅好きのサラリーマン。四谷三丁目の自宅マンションで死体となって発見された。 - 坂口:
警視庁の検死官。 - 新谷卓:
五島啓介の会社の上司。 - 浅井:
緒方博史が入院している西伊豆の富士療養所の所長。 - 栗本:
緒方博史が入院している西伊豆の富士療養所の医師。
4.幻想と死の信越本線
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 川内功次郎:
旅行作家。東京都中野区のマンションに在住。小諸出身。特急あさま3号の車内で毒殺された。 - 柿沢京子:
川内功次郎が書いたエッセイに書かれていた、11年前に焼死したとされる女性。 - 柿沢みどり:
25歳。柿沢京子の妹。 - 林:
小諸署の刑事。 - 三浦:
長野県警の警部。 - 中村:
長野県警の刑事。 - 森:
長野県警の刑事。 - 山下:
特急あさま3号の専務車掌。 - 青木:
特急あさま3号の車掌。 - 田村:
川内功次郎のエッセイをのせた雑誌の編集長。 - 仁村よし子:
当時28歳。Y銀行新宿支店の貸付係だった女性。11年前、3億円の使い込みで解雇された。現在、行方不明。 - 吉田徹:
当時45歳。仁村よし子の恋人だった男。新宿で食堂を経営していた。3年目に交通事故で死亡した。
印象に残った名言、名表現
(1)阿蘇白川駅。
加勢、阿蘇下田、中松と停車して、阿蘇白川に着く。三角の時計塔のある駅である。駅というより、オモチャのように見える。白と青のケーキの家といった方が、適切かも知れない。
(2)田舎道に刑事が2人。
歩くことより、考えることが、目的だったから、時々、国道を外れて、水田の畦を歩いたりした。草むらに、腰を下ろしたりもした。
(3)根室駅。
根室本線の終着駅にしては、小さな構えだった。最果ての駅という感じがする。屋根に、何本も、煙突が出ているのは、寒い国の駅舎のせいだろうか。
感想
本作は、阿蘇、根室、南紀白浜、そして小諸を舞台とした、4つの短編集である。
いずれも、トラベルミステリーとして秀作であり、とくに、舞台となった町や観光スポットを、旅情たっぷりに描かれていた。
上の「印象に残った名言、名表現」でも紹介したが、十津川と亀井が、阿蘇の田舎道を歩いたり、草むらに座っているシーンなんかは、実に旅情にあふれていると思う。
歩くことより、考えることが、目的だったから、時々、国道を外れて、水田の畦を歩いたりした。草むらに、腰を下ろしたりもした。
こうした何もない田舎道こそ、旅の醍醐味だと思い知らされるのである。
4つの作品の中で、ミステリーとして秀逸だったのは、表題作になった「幻想と死の信越本線」だった。
この作品には、切れ味鋭いトリックが隠されている。真犯人は、誰もが想定していなかった人物である。この意外過ぎる真犯人は誰か?その答えは本書で確かめてもらいたい。
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