初版発行日 2013年6月20日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
平成の天才剣士と名刀の謎。智頭急行「宮本武蔵駅」名誉駅長に任命された剣の達人の過去とは?謎に満ちた天才剣士が巻き起こす壮絶な果たし合い!十津川警部、武道界の闇に迫る!
あらすじ
剣豪・宮本武蔵生誕地の地にある智頭急行「宮本武蔵」駅の名誉駅長に任命された在野の天才剣士・宇都宮秀人は、誰からの挑戦も受けて立つと宣言、実際に次々と勝ち名前を広めてゆく。一方、東京・上野では、刀剣商の大杉が殺された。事件を調べる十津川は、大杉が履歴不明の名刀・備前長船を保有しているのを知る。天才剣士と謎の名刀にどんな因縁があるのか?
小説の目次
- 貴女は「智頭線」を知っていますか?
- 初戦
- 敵からの攻撃
- 名刀の行方
- その出自をきく
- 決断
- サムライが消えた駅
冒頭の文
智頭線は、典型的な第三セクターの鉄道である。
小説に登場した舞台
- 東京駅(東京都千代田区)
- 新潟駅(新潟県新潟市)
- 宮本武蔵駅(岡山県美作市)
- 特急スーパーはくと
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 熊野古道(和歌山県田辺市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 宇都宮秀人:
32歳。新潟県在住の天才剣士。智頭急行「宮本武蔵」駅の名誉駅長に就任した。 - 宇都宮秀生:
宇都宮秀人の父親。天才剣士。病死する。 - 大杉俊一郎:
52歳。上野の刀剣商。剣道二段。上野動物園近くで死体となって発見された。 - 大杉芳江:
42歳。大杉俊一郎の妻。 - 大田原正道:
30歳。剣士。警察官。全日本武道大会剣道の部の優勝者。 - 大田原正義:
55歳。大田原正道の父親。20年前、全日本武道大会の剣道の部で優勝した。 - 井口誠之助:
日本無双流の宗家。宇都宮秀生と親しくしていた。何者かに弓矢で射られて死亡した。 - 小西恵子:
井口誠之助の道場の弟子。 - 宮下良:
京都に道場をもつ弓道家。 - 渡辺喜一郎:
60歳。弓道家。 - 瀬川正矢:
弓道家。 - 市橋淳:
弓道家。 - 沢村健次郎:
弓道家。
その他の登場人物
- 三島:
30歳。池袋警察署の警官。かつて全国剣道大会で優勝したことがある。 - 渡辺:
45歳。月刊誌「日本剣道」の編集者。 - 栗林:
武蔵道場の責任者。 - 葛西和正:
35歳。弓の名手。 - 島田孝之:
30歳。剣士。 - 浜口晴美:
2年前に亡くなった元国務大臣・浜口啓介の妻。大磯に在住。 - 山崎:
浜口啓介の秘書をしていた男。 - 松永弥生:
28歳。フリーのカメラマン。京都から岡山県美作市宮本に移住した女性。 - 曽我洋一:
宮本武蔵駅近くで家を借りて山田誠とルームシェアしている。京都出身。 - 山田誠:
宮本武蔵駅近くで家を借りて曽我洋一とルームシェアしている。京都出身。 - 東海林純:
東京から美作市への移住を検討しているカップル。 - 星野かえで:
東京から美作市への移住を検討しているカップル。 - 緒方:
文化庁長官の秘書。 - 葛城昭一郎:
滋賀県に住む資産家で、滋賀のマスコミを牛耳っている。
印象に残った名言、名表現
(1)明治時代から計画されていた智頭線。
智頭線は、明治の計画から数えると、実に百二年という長い歳月を経て、ようやくの開業に踏み切ることができたのである。
(2)男谷精一郎。
「江戸時代の話ですが、男谷精一郎という剣士がいました。この男谷は、試合を望まれると、三本勝負を希望し、そのうちの一回は、相手に花を持たせて、わざと、負けるのだそうです。その代わり、あとの二本は、絶対に、勝つことにしたといわれています」
(3)権威主義的な日本。
「日本という国は、あるいは、日本人という国民は、全てについて、権威主義的な傾向があります。国家という権威が認めた人間ならば、立派な人間、あるいは、尊敬に値する人間だと、頭から、決めてしまうのですよ」
感想
まさに、現代のサムライだった。これは主人公に向けた賛辞である。
今回の主人公は、十津川警部ではない。長岡藩の侍の子孫であり、天才剣士の宇都宮秀人である。彼は、智頭急行「宮本武蔵」駅の名誉駅長に就任するが、この駅名にふさわしい現代のサムライだった。
強く、潔く、そして多くを語らない。
このテーマにふさわしく、本作では、何度も、剣の合戦が行われる。この合戦も見応えがあった。もちろん、殺人事件が起き、十津川警部たちも出動し、捜査を行う。
ミステリーとしては、謎が最後まで解決されず、その真相は、読者に委ねるという終わり方であった。これも、ある意味、余韻を残す終わり方で、個人的には好きな終わり方である。
ミステリーより、今回は、宇都宮秀人という、現代のサムライの生き様を味わうのが、本作の楽しみ方だと思う。
最後に、本作刊行にあたって発表された西村京太郎先生のことばを紹介する。
鉄道には面白い駅名がある。智頭急行の「宮本武蔵」駅もその一つだろう。ただこの駅が他と違うのは、宮本武蔵が実在の人物であり、更にいえば日本一の剣の達人だということである。この駅と列車を舞台にした作品も宮本武蔵にふさわしいものでなければならないと考え現代の剣の達人を主人公にした。現代のサムライである。
コメント