初版発行日 1976年8月20日
発行出版社 日本文華社
スタイル 長編
私の評価
姿を見せない殺人者の狙いは?ゴルフ界の複雑な人間関係に十津川警部が挑む。
あらすじ
栃木県の那須で開催されるゴルフのビッグトーナメント直前に、「この大会中に、あいつを殺してやる」という脅迫状が舞い込む。競技委員の吉田は十津川に警備を依頼するが、その夜、ひき逃げ事故で死亡。そして、大会最終日、小銃狙撃による殺人事件が起きる。
小説の目次
- 脅迫状
- ひき逃げ
- パーティ
- 黒いシャフト
- グリーンの死角
- 男と女の仲
- 心理テスト
- ダブルボギー
- 暗いコース
- 18番ホール
- ギャラリーの死
- 手がかりなし
- バンカーショット
- 新たな脅迫状
- 三人目の犠牲者
- 64式小銃
- 大金の行方
- 調査報告書
- 灰色の核心へ
- ガードバンカー
冒頭の文
一つの殺人事件を解決し、一息ついたところで、十津川警部は、搜査一課長に呼ばれた。
小説に登場した舞台
- 井の頭公園(東京都武蔵野市)
- 上野駅(東京都台東区)
- なすの1号
- 黒磯駅(栃木県那須塩原市)
- 那須高原(栃木県・那須町)
- 那須カントリークラブ(栃木県・那須町)
- 品川駅(東京都港区)
- 四谷三丁目駅(東京都新宿区)
- 歌舞伎町(東京都新宿区)
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- 犬山カンツリー倶楽部(愛知県犬山市)
- 東京駅(東京都千代田区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 鈴木刑事:
警視庁捜査一課のベテラン刑事。十津川警部の部下。 - 永井刑事:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 佐久間刑事:
警視庁捜査一課の若手刑事。十津川警部の部下。
プロゴルファー
- 有藤俊之:
26歳。プロゴルファー。若手ナンバーワンと言われている。足立区竹塚に在住。 - トム・ロッサノ:
アメリカのプロゴルファー。 - サム・スコット:
アメリカのプロゴルファー。 - ジャック・ミラー:
アメリカのプロゴルファー。 - トム・アボット:
アメリカのプロゴルファー。 - 赤木昇平:
28歳。プロゴルファー。 - 杉山高明:
プロゴルファー。 - 早山克郎:
23歳。プロゴルファーの卵。元プロ野球選手。 - 新城:
プロゴルファー。
事件関係者
- 吉田専太郎:
日本ゴルフ連合会理事。那須で行われるゴルフ大会「ボンサム・グランプリ」の実行委員。家の近くで車にはねられて死亡した。 - 吉田康子:
28歳。吉田専太郎の妻。 - 江田真:
四谷三丁目に事務所をかまえる私立探偵。かつて日本第一探偵社で有藤俊之の調査をした。 - 守山道子:
28歳。新宿にあるバー「ザ・マウンテン」のオーナー。渋谷区笹塚のマンションに在住。「ボンサム・グランプリ」の会場で射殺される。 - 種村明夫:
27歳。守山道子のヒモだった男。結婚詐欺の前科あり。若松崎付近に沈んでいるスポーツカーの中で死体となって発見された。 - 津山好一郎:
48歳。名古屋市内で自転車店を営む。3ヶ月前まで三村工業の技術課長をしていた。犬山ゴルフ場で射殺された。 - 南陽子:
30歳。守山道子らが入っていたゴルフクラブのメンバー。
その他の登場人物
- 有藤美佐子:
有藤俊之の妻。 - 笠井:
新聞記者。十津川警部の大学時代の後輩。 - 小野田:
愛知県警の警部。 - 津山恵子:
23歳。津山好一郎の娘。 - 相沢誠:
28歳。津山恵子の夫。新日本商事の重役の息子で同社の係長。
印象に残った名言、名表現
■犯罪者のタイプ。
「犯罪者には、様々なタイプがある。そっと誰かを殺し、そっと身をひそめるタイプもあれば、殊更に、自分の犯行を誇示したがるタイプの犯人もいる。それが激しくなると、わざと、犯行を予告し、警察の監視の中で人を殺して見せる」
感想
本作は、十津川警部シリーズ初期の作品である。第1作「赤い帆船」から数えて5作目であった。
初期作品ということもあり、”いつもの十津川警部シリーズ”とは、異なる部分があった。
まず、亀井刑事が登場しないことである。
亀井刑事といえば、十津川警部の唯一無二の相棒であり、なくてはならないキャラクターである。ストレートで人情家の亀井刑事がいるからこそ、温かみが感じられるのである。また、十津川警部と亀井刑事の問答のような会話が、推理を深め、事件解決の突破口になってきたのだ。
そんな亀井刑事がいないからなのか、本作の十津川警部は、苛立ちを見せたりするシーンが多かったように思う。
部下の報告に対し、こんな回答をする場面があった。
「前置きは、どうでもいい。一体、何があったんだ」
いつもの十津川警部は、こんな回答は回答はしないだろう。冷たいと言うか、苛立ちが如実に現れている言葉である。
また、理解の遅い部下に対し、激しく叱責する場面もあった。
「そんなことをいってるんじゃない!」
頭の回転の遅い部下の刑事を怒鳴りつけたシーンだが、これも、初期作品以外では、なかなか見られない場面である。
この作品の十津川警部は、34歳という設定なので、40歳という設定の十津川警部より、血気盛んで、若さゆえのものなのかも知れない。こうしたいつもとは違った十津川警部シリーズが見られるだけでも、ある意味、新鮮な作品でもある。
そして、本作の舞台が、ゴルフ場というもの珍しい。ゴルフはメンタルのスポーツだという特性を利用した罠をしかけるなど、趣向を凝らしている。
鉄道ミステリーとはまた違った、面白さが感じられる作品であった。
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