初版発行日 1988年8月31日
発行出版社 徳間書店
スタイル 長編
私の評価
事件のカギは失われた記憶の中に?会津若松、芦ノ牧、喜多方。十津川の推理が冴える!!
あらすじ
浅草・隅田公園で血まみれの男が保護された。高沢明という自分の名の他、一切の記憶がない。しかし着衣に他人の血痕が付着していたこと、会津鬼怒川線開業記念バッジを持っていたことから、会津高原で起きた殺人の容疑がかかる。警視庁捜査一課の十津川が捜査を始めた矢先、高沢が病院から姿を消した。跡を追った十津川に、高沢明と名のる男が殺されたとの報が…。
小説の目次
- 隅田公園
- 優勝者
- 喜多方の町
- 過去への旅
- 終局に向って
冒頭の文
台東区側の隅田公園は、隅田川に沿い、吾妻橋の袂の水上バスのりばあたりから、言問橋の先まで細長く伸びている。
小説に登場した舞台
- 隅田公園(東京都台東区)
- 会津高原たかつえスキー場(福島県・南会津町)
- 浅草駅(東京都台東区)
- 会津高原尾瀬口駅(福島県・南会津町)
- 会津高原尾瀬口駅プラザ 憩の家(福島県・南会津町)
- 芦ノ牧温泉駅(福島県会津若松市)
- 芦ノ牧温泉(福島県会津若松市)
- 会津若松駅(福島県会津若松市)
- 鶴ヶ城(福島県会津若松市)
- 郡山駅(福島県郡山市)
- 喜多方駅(福島県喜多方市)
- 熱塩温泉(福島県喜多方市)
- 大塩裏磐梯温泉(福島県・北塩原村)
- 上野駅(東京都台東区)
- 鹿児島空港(鹿児島県霧島市)
- 開聞岳(鹿児島県指宿市)
- 桧原湖(福島県・北塩原村)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 宮下:
隅田公園近くの派出所の巡査。 - 加納:
福島県警の警部。 - 伊地知:
鹿児島県警の警部。 - 田村:
35歳。喜多方の町外れにある派出所の巡査。 - 松永:
喜多方署の警部。 - 前田:
愛知県警の刑事。
事件関係者
- 高沢明:
売れないライター。隅田公園で記憶喪失の状態で倒れていた男。 - 原田あかり:
25歳。世田谷区太子堂のマンションに在住。会津高原たかつえスキー場で刺殺体として発見された。 - 橋本ひろ子:
26歳。銀座にあるクラブ「ロイヤルブルー」のホステス。阿佐ヶ谷のマンションに在住。自宅の部屋で刺殺体となって発見された。 - 五十嵐正一:
45歳。都内にある不動産会社「五十嵐不動産」の社長。4月に大塩裏磐梯温泉近くの雑木林で車にはねられ死亡した。 - 北川誠:
26歳。東京にある雑誌「中央世紀社」の編集長。世田谷区経堂のマンションに在住。元「会津日報喜多方支局」の記者。開聞岳の麓の雑木林で死体となって発見された。 - 沢井卓造:
60歳。都内にある「沢井興業」の社長。土地成金。雑誌「中央世紀社」のスポンサー。田園調布に在住。 - 小田切信:
「沢井興業」の社員。 - 古川:
「沢井興業」の社員。死体となって発見された。 - 清川有一郎:
代議士。 - 岡田俊雄:
35歳。無職。作家志望の男。芦ノ牧温泉で死体となって発見された。
その他の登場人物
- 関口:
「月刊・芸能世界社」の編集長。 - 浜田:
銀座にあるクラブ「ロイヤルブルー」のマネージャー。 - 橋本めぐみ:
22歳。新潟市内に住むOL。橋本ひろ子の妹。 - 花井あき子:
橋本ひろ子の大学時代の同級生。K新聞社に勤務。練馬区に在住。 - 立川冴子:
橋本ひろ子の大学時代の同級生。大手出版社に勤務。 - 日高:
「会津日報喜多方支局」の支局長。 - 沢井京子:
沢井卓造の妻。 - 三谷:
45歳。南会津町にあるK建設の現場監督。 - 金子:
「沢井興業」の元社員。 - 三浦:
「沢井興業」の元社員。
印象に残った名言、名表現
■温泉街の朝。
温泉街の朝というのは、一種、奇妙な雰囲気を持っているものだと、十津川は思う。何か、間が抜けているのだ。
感想
記憶を失った男の、過去の記憶が解決の鍵を握る、そんな事件であった。
「高沢という男が、妙に、あいまいなんだな。まるで、架空の人間のことを、聞かされているような気がしたんだよ」
十津川がこう話した通り、高沢明と思われる男は記憶を失っており、また、別の場所で高沢明を名乗っていた男の死体が見つかった。そもそも、高沢明と名乗っている男が、本当に高沢明なのかどうかさえ、わからないのだ。
だから、序盤は、何が起こっているのか、まったくつかめない。十津川が話した通り、架空の人間の出来事のようで、フワフワしたまま、殺人事件が起こっているのだ。
このフワフワの状態を、一つのストーリーとして、一つの事件として、固めていくのが十津川警部である。結局、男の記憶は戻らないのだが、彼の周辺の外堀を一つ一つ検証していき、パズルを組み立てるように、丁寧に、推理して、犯人にたどり着く。
全体的に派手さはないが、こうした地道な捜査とロジックは、十津川警部シリーズならでは、だったと思う。
また、会津、喜多方の自然や温泉地、観光スポットが数多く登場したのも良かった。これぞ、トラベルミステリーである。
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