初版発行日 1998年11月25日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
老夫婦の死に隠された巨悪とは?十津川警部、松島へ。政官をつなぐ黒いルートに、十津川警部の鉄槌がくだる!
あらすじ
「ー島」と意味不明のことばを残して、初老の男女二人が相次いで死んだ。男は交通事故死、女は溺死だった。二つの死に共通する謎のことば「島」に、事件の匂いを感じた十津川警部と亀井刑事は、二人が日本三景のひとつ、松島一帯を所有する地主夫婦であることをつかむ。どうも松島開発に絡む事件に巻き込まれた可能性が高い。捜査中に浮かんだデベロッパー「みちのく興発」の背後に、政界で暗躍するある男の影が……。事件は思わぬ方向へと急展開を……!?
小説の目次
- 東京(六月十五日)
- 松島(六月二十五日)
- 携帯電話
- 外洋ボート
- 解決への作業
冒頭の文
六月十五日、午後三時十分。東京は、梅雨の盛りだったが、空はどんよりと曇っていても、雨は降っていない。
小説に登場した舞台
- 夢の島大橋(東京都江東区)
- 中央大橋(東京都中央区)
- 勝鬨橋(東京都中央区)
- 田沢湖駅(秋田県仙北市)
- 田沢湖(秋田県仙北市)
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
- 秋保温泉(宮城県仙台市太白区)
- 松島海岸駅(宮城県・松島町)
- 福浦橋(宮城県・松島町)
- 福浦島(宮城県・松島町)
- 宮城県庁(宮城県仙台市青葉区)
- 瑞巌寺(宮城県・松島町)
- 赤坂駅(東京都港区)
- 青葉通り(宮城県仙台市青葉区)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 潮見公園(東京都江東区)
- 作並温泉(宮城県仙台市青葉区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 青田:
江東区新砂一丁目派出所の巡査。 - 木村:
江東区新砂一丁目派出所の巡査。 - 安藤:
城東署交通係の刑事。 - 丹羽:
宮城県警の本部長。 - 井上:
松島海岸派出所の巡査部長。 - 三浦:
宮城県警捜査一課の警部。
事件関係者
- 安藤晋吉:
秋田県の廃村になった福竜村の元村長。ダム建設で村民に支払われた保証金をネコババし現在行方不明。 - 安藤たつ子:
安藤晋吉の妻。現在行方不明。 - 野中:
宮城県庁観光課施設係の係長。多賀城に在住。奥松島の海に水死体となって発見された。 - 小野寺敬一郎:
松島の地主。元宮城県議会の副議長。夢の島大橋でトラックに轢かれて死亡した。 - 小野寺文子:
小野寺敬一郎の妻。佃橋付近の隅田川で溺死体となって発見された。 - 本堂正広:
62歳。東北を考える会の会長。宮城県の生まれ。 - 服部卓:
36歳。本堂正広の事務所で働く職員。「みちのく興発」の責任者。東北観光開発の社長。山形県天童市の生まれ。 - 東野要:
40歳。本堂正広の事務所で働く職員。元自衛隊。元S組の幹部。秋田の生まれ。 - 林和之:
32歳。本堂正広の事務所で働く職員。元私立探偵。 - 小島三郎:
46歳。本堂正広の事務所で働く職員。文学青年。 - 新関ユミ:
28歳。本堂正広の事務所で働く職員。本堂正広の個人秘書。 - 高橋弘:
45歳。本堂正広の事務所で働く職員。弁護士。
その他の登場人物
- 田原晋介:
31歳。名古屋の運送会社に勤めるトラック運転手。 - 市川哲男:
42歳。中央大橋の袂で屋台を営む男。 - 谷口:
医師。 - 原田:
大学病院の医師。 - 金井:
福竜村の住民。 - 立川:
宮城県庁観光課の係長。野中の同期。 - 野中夕子:
野中の妻。 - 清乃:
秋保温泉の芸者。 - 小雪:
秋保温泉の芸者。 - 根本:
53歳。新東北航空の社長。 - 安部:
予備校生。 - 岡林:
ダイバー。 - 小久保:
ダイバー。 - 五十嵐:
弁護士。
印象に残った名言、名表現
(1)福浦島。
やたらに、緑が深い。照葉樹が多いのも、珍しい。小鳥のさえずりが聞こえる。緑が多いから、小鳥が多いのだろう。
(2)人間心理を知り尽くした十津川警部。
「あまり、他人の能力を甘く見ないことだ。ひとりが、あんたを裏切ったら、あとは雪崩を打って、あんたから離れ、あんたを主役に祭りあげていくのだ」
感想
本作は、松島海岸に浮かぶ、福浦島の開発を巡っておきた連続殺人事件であり、社会派ミステリーである。
風光明媚な松島海岸の風景がていねいに描かれており、旅情を誘う。トラベルミステリーとして、秀逸である。
また、福浦島をふくめた松島をわが手中に収めようと仕組んだ、犯人たちの罠や横暴さ、それに関連した連続殺人、この事件を追う十津川班の動きには、緊張感が溢れていた。
重い内容であるが、読みやすく、社会派を敬遠しがちな読者にとっても、とっつきやすい作品だと思う。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
不況の日本で、東北は元気があるといわれている。山形新幹線に次いで、秋田新幹線「こまち」が通るようになって、東北が少しずつ東京に近くなってきたからだろう。
松島も近くなっている。東京から仙台まで、東北新幹線で、一時間四十分。仙台から松島海岸まで、仙石線で二十分。つまり二時間足らずで松島海岸まで行けるのだ。
それだけ近くなれば、さまざまな変化がもたらされるだろう。観光客が増え、開発も進むに違いない。だが当然、その裏側にマイナス面も増えてくるに違いない。文化が東京に近くなるように、犯罪も東京に似てくるだろう。東京のような大都会が近くなるということは、そういうことなのだ。
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