初版発行日 1991年8月31日
発行出版社 徳間書店
スタイル 長編
あらすじ
警視庁を懲戒免職となり、妻子とも離別した小山淳一郎の前に、西条恒夫と名乗る男が現れた。”日本のためになる仕事”だから引き受けてほしいと高額の報酬を示され、小山は西条の指示通りに尾行や盗聴をすることになった。やがて不審を抱いた小山は、飛騨高山近郊の美女高原に誘い出されてしまう。十津川と亀井は小山のマンションに向かったが……。長編推理。
小説の目次
- グループA
- 追跡
- 消えた男
- ジグソー・パズル
- 小さな罠
- 再検討
小説に登場した舞台
- 飛騨高山(岐阜県高山市)
- 美女高原(岐阜県高山市)
- 新千歳空港(北海道千歳市)
- 支笏湖(北海道千歳市)
- 恵庭岳(北海道千歳市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
岐阜県警
- 中村警部:
岐阜県警の警部。小山淳一郎殺害の捜査を担当。 - 林刑事:
岐阜県警の刑事。中村警部の部下。
事件関係者
- 小山淳一郎:
45歳。3年前、警視庁捜査一課を懲戒免職になった後、西条という男の依頼で尾行や盗聴の仕事をするようになる。 - 西条垣夫:
小山淳一郎に仕事を依頼しに来た男。 - 谷川孝太郎:
元国務大臣。派閥の大物。次期総裁選候補。 - 渡辺拳:
政治家。。次期総裁選候補。 - 三田村:
若手の政治家。最初は不利とされていたが、総裁選に勝利し総裁になった。 - 八木準一郎:
三田村のブレーン。弁護士出身だが暴力団ともつながっているという噂がある。 - 多田誠:
元捜査四課の刑事。35歳。柔道4段。今年の3月に問題を起こして退職。現在は大手の警備会社で働いている。 - 久保昌一:
元捜査二課。35歳。人妻との不倫問題を起こして退職した。 - 東くみ子:
久保と交際している彼女。新宿にある会社で働いている。 - 早川勇:
T大学を卒業後、N銀行本店に就職。その後、N商事に転職。4年前に退職。その後、神田駅前の中央興信所で働いていたが、去年の暮に辞める。 - 千場かおり:
4,5年前に一世を風靡した有名女優。 - 滝沢署長:
城西署の警察署長。3年前に退職した滝沢刑事部長の息子でエリートコースを歩む。30歳。独身。 - 杏子:
銀座のクラブ「麻」のホステス。 - 江上貢太郎:
銀座のクラブ「麻」の常連客。謎の資産家。 - 平山健太郎:
平山繊維の社長。42歳。父の会社を継ぎ、新たに始めた高級下着販売が大ヒット。 - 尾崎勇:
元暴力団員の男。 - 桝田:
週刊誌「セクシャルタイム」の編集長。 - 丸山保:
かつてサンライズ交易で江上貢太郎の部下として働いていた。
その他の登場人物
- 三田ゆう子:
小山淳一郎が尾行した女。 - 原田:
小山淳一郎が尾行した男。 - 浅田幸子:
小山が尾行した女。 - 早川功一郎:
早川交易の社長。小山が尾行した男。 - ユミコ:
銀座のクラブ「ジュテーム」のホステス。 - カオル:
銀座のクラブ「ジュテーム」のホステス。 - 村西:
小山淳一郎の高校時代の教師。すでに引退して現在は八王子に住んでいる。 - 羽谷誠:
参議院議員。谷川孝太郎の派閥に属している。 - 森口宏:
S生命池袋支店 営業課。久保昌一が契約した生命保険の営業担当。 - 青木めぐみ:
美女高原でテニスをしていた女子大生。 - 三林:
早川勇が高山市内で乗った人力車の楫棒。 - 中野:
N商事営業第三課。かつて早川勇と同僚だった。 - 木田清:
早川勇の同級生。現在は通産省の課長。 - 山田:
中央興信所の所員。かつて早川勇と同僚だった。 - 宮下雅子:
多田誠の恋人。
個人的な推しポイント
- 十津川警部シリーズの中でも被害者がとくに多い事件である。
- 被害者の視点から始まる。
- 最終盤からはじまる怒涛の急展開。まるでジェットコースターに乗っているような爽快感。
総評
本作はとにかく死者が多い。ハイペースで殺人事件が起こる。ここまで被害者が多い十津川警部シリーズは珍しいのではないか?というのが読み終わった最初の感想である。
それだけ真犯人が凶暴な性質を持ち合わせていたということになる。その凶暴性は単独ではなく、組織的に行われていたのだ。
冒頭は小山淳一郎の視点で幕を開ける。つまり被害者の視点だ。
小山がなぜゆすりの組織に所属するようになり、どのような経緯で殺されてしまったのかが克明に描かれている。読者からは本作の犯行グループがおおよそ検討がつく状態で始まる。十津川警部も前半でゆすりのグループが犯行に及んでいるだろうという見通しを立てている。
しかし、犯行グループがゆすりの組織だとわかっていても、その実態がまったく見えてこない。背中が痒いのはわかっているが、背中のどの部分が痒いのか一向にわからないようなもどかしさを感じる。
ここからが十津川警部の腕の見せどころだ。
類まれな洞察力と観察眼を駆使して、少しづつ謎を解き明かしていく。それでも確証が得られず、証拠もない。決定打を欠いたまま、物語は最終盤に入る。読者としては書籍のページ数も残り僅かになっているのがわかる。
「まさか事件が未解決のまま終わったりしないよな……」
そう思った矢先、事件は急展開を見せる。クライマックスはジェットコースターのようなスピード感だ。ドミノ倒しのようにパタパタと一気に倒れていく。劇的な展開の後に犯人逮捕の瞬間が待っている。このときの爽快感ったらない。
そして、ラストに待つ意外な結末。最後まで飽きさせない。
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