初版発行日 1995年3月16日
発行出版社 読売新聞社
スタイル 長編
私の評価
三人の愛人のあいだに芽生えた殺意!十津川警部が、会津と日光を舞台に活躍するトラベル・ミステリー!
あらすじ
独身の実業家・五十嵐が毒殺された。容疑がかけられたのは、残された三人の愛人だった。相続権はなくても、彼の子供を妊娠していれば、莫大な遺産が転がり込むのだ。十津川警部と亀井刑事は愛人の一人、モデルの藤原さつきを追うが、さらに、第二、第三の事件が起こり……。やがて十津川は、裏で糸を引く狡猾な真犯人の存在に気づく。
小説の目次
- 逃げる
- 自殺行
- 再会
- 女弁護士
- 手品
- 誘拐
- 追跡
- 疑問
- 殺人の構図
- 終局へ
冒頭の文
藤原さつき、二十六歳。身長一七五センチ、体重五十七キロ。スリーサイズは、83・56・83。血液型A。趣味は旅行、貯金。性格は、外向的で明朗だが、思い込むと、突っ走る危険がある。
小説に登場した舞台
- 東京駅(東京都千代田区)
- 郡山駅(福島県郡山市)
- 特急「ビバあいづ号」
- 会津若松駅(福島県会津若松市)
- 東山温泉(福島県会津若松市)
- 飯盛山(福島県会津若松市)
- アルペンライナー3号
- 下今市駅(栃木県日光市)
- 日光駅(栃木県日光市)
- 華厳の滝(栃木県日光市)
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 清水寺(京都府京都市東山区)
- 新宿中央公園(東京都新宿区)
- 成田空港(千葉県成田市)
- 快速「ばんだい5号」
- 日光東照宮(栃木県日光市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 矢村:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 三浦:
栃木県警の刑事。 - 青木:
45歳。栃木県警の警部。 - 荒井:
池袋警察署の刑事。 - 吉田:
福島県警の刑事。 - 林:
豊島署の刑事。 - 橋本豊:
私立探偵。元警視庁捜査一課の刑事で、十津川警部の元部下。
事件関係者
- 五十嵐恭:
42歳。金融会社「ASK」の社長。赤坂のマンションに在住。小樽の生まれ。自宅で死体となって発見された。 - 藤原さつき:
26歳。モデル。五十嵐恭の恋人。只見川に車で転落して死亡した。 - 早見友美:
30歳。銀座にあるクラブのママ。五十嵐恭の恋人。アルペンライナー3号の車内で死体となって発見された。 - 木下知恵:
19歳。テレビタレント。五十嵐恭の恋人。 - 佐々木功:
18歳。自殺を決意して会津若松・華厳の滝を訪れた男。世田谷区上用賀に在住。華厳の滝で何者かに突き落とされて負傷する。その後、早見友美殺害容疑で逮捕される。 - 結城彩子:
中央弁護士会の弁護士。佐々木功の弁護を担当することになった。 - 矢吹浩:
23歳。木下知恵の熱烈なファン。世田谷区深沢のマンションに在住。 - 山根典子:
30歳。売れない女優。池袋のマンションに在住。自宅で毒死した。
その他の登場人物
- 五十嵐嗣男:
五十嵐恭の弟。 - 佐々木:
42歳。佐々木功の父親。 - 佐々木夕子:
38歳。佐々木功の母親。 - 田崎美代:
早見友美のクラブで働くホステス。 - 仁平雅志:
作曲家。 - 前島重信:
木下知恵が所属している芸能プロの社長。 - 小暮研一:
ボストンバックを車に乗せて車を走らせていた男。 - 中川:
佐々木功が入院している病院の医師。 - 井口:
木下知恵のマネージャー。
印象に残った名言、名表現
(1)死にたいのではなく、生きたくない。
これから、生き続けていく情熱が持てない。ただ、だらだら生きていけばいいのかも知れないが、そうした生き方は、佐々木には、出来ないのだ。
(2)若者は簡単に人生に絶望する。
佐々木の暗い眼が、忘れられないのだ。
若い時は、簡単に、人生に絶望する。それは、多分、大人のように、ずるく、自分の気持を誤魔化せないからだろうし、死が、さほど恐しくないからだろう。
感想
スピード感があり、テンポよく進むストーリー。実に読みやすく、それでいて味わい深い作品でもある。もちろん、ミステリーとしての完成度も高く、真犯人はまさかの人物だった。
今回の真犯人は、ほんとうに虚を突かれた。十津川警部シリーズの中でも、上位に入るほどの意外性だったと思う。この真犯人は、物語の前半から登場する。が、誰も犯人だとは思わない。この心理的なトリックは、なかなか見破れないと思う。
今回のトリックのヒントになるかわからないが、次の一節を紹介する。
本作の最後で、十津川警部が本作のカギとなる少年に向かって話した一節がある。この少年は18歳で自殺を図ろうとしていた少年である。
この少年に対し、十津川警部が、日光東照宮の陽明門の前で諭すように話した一節だ。
「君に見せたいのは、あそこに並んでいる十日本の柱だ。あの中の一本だけ、わざと、模様が逆になっている。なぜ、そんなことをしたのか、わかるかね?
この世の中に、完全な美しさとか、完全な正義なんかないことを、あれを、作った人は、知っていたからだ。だからわざと、完全には作らなかった。社会も、人間もだよ。善人もいれば、悪人もいる。
欺される人間もいれば、欺す奴もいる。殺される人間もいれば、殺す奴もいる。それが、この世の中さ。私が生き、君が生きている社会だ。個人だって同じだ。完全な善人など、いやしない。いい人だと思っていた友人が、ある日、突然、悪人になる。君を欺す。
私はね、そんな人間を、何人も見てきている。殺人があって、犯人を捕まえると、みんな、あんないい人がどうしてという。生れつきの悪人なんて、めったにいるものじゃない。普通の人間が、ある日、突然、人殺しに変るんだよ。君だって、私だってだ。それが人間だし、この社会だ」
この世の真理である。
本作は、この世の真理が、事件解決のカギを握っている。
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